205.今が買い時?

「……理力が外で使えないのは常識だ。十六夜」


「それは日本以外でも常識なんですか?」


「なんとも言えないわね。基本、探究者シーカーは自分の力を隠したがるから。特に別の国の探究者シーカーに教えるかといったら、まず皆無じゃないかしら」


 確かにそうかもしれないけど、アメリカのラルフさんは嫌な顔も見せずマギを見せてくれたけどな。


「そういうことを調べる機関ってないんですか?」


「ないな。ギルド毎には何かしらしてるかもしれんが、それを表に出すことはねぇよ」


「そういうのは秘伝とか奥義になるからね」


 世知辛いなぁ。だからこの国は探究者シーカー後進国なんだろうな。探究者シーカーは派閥に囚われず、もっと横の繋がりを持つべきだと思うな。国同士ならいざ知らず、同じ国の中で隠し事やけん制し合っていては、いつまで経っても後進国のままだ。


「今度出来る探究者シーカーの学校はどうなんでしょう?」


「さあな、探究者シーカーを増やすための学校で、研究する場所じゃねぇのは確かだ」


異界アンダーワールドの資源の研究は企業がしているけど、探究者シーカーに関しては各ギルド毎でしょうね」


「十六夜みたいに、ポンポン機密級の情報を出すほうが異常なんだよ」


「そんなことを言っているから、人材不足に陥っているんじゃないですか? もっと、オープンにしないと、学校を作ったとしても、結局探究者シーカーでやっていける人なんて一握りだけでしょうに」


 結構な人数が募集に応募しているらしいが、実際に探究者シーカーとしてやっていけるのはどのくらいになるのだろうな。


 最初の頃の俺のように上を見なければ、創意工夫すればそこそこの稼ぎにはなる。命をかけての値段となると普通に就職したほうがいいと思うけど。


 でも、やるなら上を目指すのが人ってもんだ。そうなると、やっぱりギルドに所属ってのが弊害なんだよなぁ。異界アンダーワールドの入り口を管理しているのがギルドだから、仕方がないといえば仕方がないのだけど。


 正直、新人研修や保証、それに福利厚生に難がある。基本、自己責任ってのはわかるけど、ある程度一人前になるまでは、ちゃんとバックアップする体制が必要だと思う。


「じゃあ、十六夜がそういうギルドを作ればいいじゃねぇか」


「えっ? ギルドって作れるんですか?」


「作れるわね。お金さえあればだけど」


 そうなの?


 簡単に説明を受けたが、要するに異界アンダーワールドの入り口を買えばいいらしい。うちの光明真会もそうだが、管理しているだけで、使っていない異界アンダーワールドの入り口は多い。それを買い取ってギルドを作ればいいのだ。


 問題は維持管理費が洒落にならないこと。国からも補助金が出ているけど、どこのギルドもカツカツらしい。なので、スポンサー企業やパトロンが必要になる。


 この氷河期と呼ばれる不況の中、それを見つけるのも難しいらしい。現に人材不足だけでなく、資金繰りに行き詰まりギルドの数は減少傾向にあるそうだ。


 なるほど、今が買い時なのか。


「それは面白いですね。いくらぐらいするんですか?」


「あら? 興味あるのかしら? 十六夜くん」


「プライベートダンジョンって夢があるね~」


 ここで貴子様が参戦。向こうの言い争いが堂々巡りで嫌気が差したようだ。沙羅たちもこちらに退避して来た。


「うちの会社はこれから大きくなりますからね。儲けても使い道がなければ、ただ税金に取られるだけですから。月彩 Tr.Co が母体となってギルドを作ればいいのかと」


 まず間違いなく大きくなる。向こうの世界の技術を取り入れ、こちらの世界の技術と融合させれば、新たな技術革新も狙える。その特許を取ればウハウハだ。


「い、意外と考えているのね……」


 武器防具の貸し出しもできるし、ポーションなども割安で提供できる。向こうの人を雇って魔術や探究者シーカーの訓練を受けさせてもいい。福利厚生で異世界旅行もいいかも。


「基本的に人口密度で値段が変わるわね」


 簡単に言えば交通の便がいい所は高く、過疎地は安いってことだ。ただ、ギルドを作る条件に、必ず過疎地にある異界アンダーワールドの入り口を一つ以上持たなければならないらしい。


 全然、問題ないな。こちらが人材不足で過疎地に人が送れないとしても、向こうのレイダーギルドで人を雇えばいい。ある意味、いくらでも人はいるし、こちらで生活を経験したら引き手あまただと思う。ドワーフ族なんてお酒で釣れるのではないだろうか?


「なんかアキくんが悪い顔をしている~」


「にゃ~」


 沙羅さん、失礼だよ! 小太郎、お前もだ!


 俺は今後の探究者シーカー界のことを、真剣に考えているんだぞ。私利私欲のことなんて……半分くらいしか考えてないんだからな!


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