204.戦争は愚か者がやること
驚きを隠せないみなさんに貴子様が、アディールさんがどうしてこちらの世界に来ているかの説明が入る。
「アディール殿は今政府との間での認識のすり合わせを行なうとともに、今後の異世界間取り引きの交渉でこちらに来ています」
「そ、それは!? 今後、我々も先ほどのような武器防具を買えるようになるということでしょうか?」
直人さんが期待の眼差して貴子様に問う。現役
「そこは国防に関わることなので政府の見解待ちです。ですが、魂石の買取額が大幅にアップすることは決まっています」
まだ完全に決まったわけではないけど、何事もなければこちらとしては中間マージンを取らずに無償で仲介するつもりなので、更に買取額がアップするはずだ。
「大幅とは実際にどのくらいになるとお考えですか? それと、その根拠を教えていただけないでしょうか」
霧島さんはチームのサブリーダーだから、チームの運営資金にも関わっていると思うから気になるよね。
「今までの買取価格の倍にはなると思われます」
「「倍!?」」
「今まで取り引きしていた相手から、徐々にアディール殿の商会へと移行していく予定です」
「それは今まで騙されていたということですか?」
そういう疑問は出るよな。それと、誰が騙されていたかってことも。
「……」
「騙されていたっていうより、相手が上手だったってことだ」
何も言えない貴子様に、珍しく幽斎師匠が助け舟を出したな。
「君たち! いい加減にしないか! 今はそんなことを問答している場合ではないだろう! ここに現に異世界人がいて、我々が使えない強力な理力を使っているんだぞ! 特対や自衛隊はどのようにお考えなのか!」
黒岩さんはさすがに
「貴子様に代わって私がお答えしよう」
大村統合幕僚長が見解を示すのか。
「黒岩氏の懸念はごもっともだが、今こうしてこちらに来ているのだから危険と突き放すより今後のことを考え、アディール氏と友好な関係を結ぶことが最善と考えている」
「それは自衛隊としての見解でしょうか? それとも政府の見解でしょうか?」
「政府も同じ見解であると考えている。現にこうしてアディール氏がここにいて、政府との話し合いを持っている。それにだ、アディール氏は商人であって国政に関わる役人ではない」
それはとても重要なことだ。マーブルは準男爵に任じられたけど、国政に参加するような立場じゃない。ただの商人でしかない。
「商人なのですか!?」
「ええ、そうです。私は商人であり我が商会の会頭の代理でこちらの世界との交渉を任されています。一介の商人である私には侵略の意思はございません」
「だが、戦争は大きな戦争需要を生むぞ。商人ならば望ましい状況になるのではないかね?」
「戦争は破壊と消費しか生みません。戦争需要は第三国なら旨味がありますが、自国が当事者となれば旨味どころか破滅しか待っていません。戦争は愚かな者がすることです」
アディールさん、いいこと言った。戦争なんて馬鹿のやること。戦争なんてやるお金があるなら、内政や投資などをするほうが有意義だ。
というか、俺にとってはそんなことよりも聞きたいことがある。
なので、まだ侵略やらうんぬんで話をしている人たちは無視して、幽斎師匠や直人さんたちに話を振ってみる。
「戦前の、いえもっと昔の
「どういう意味だ? 十六夜」
幽斎師匠たちは何言ってんだって顔を向けてくる。
幽斎師匠たちは《アンダーワールド》以外では理力が使えないという、固定概念にとらわれすぎているんじゃないのか?
「そんなに難しく考えないでください。単に陰陽師や忍者って理力を使っていたんじゃないかって思っただけです」
「実際は空想の話ではなく、逸話として伝わっていたってことかな?」
「忍者の忍術といったらメジャーですよね? まあ、テレビや漫画のような派手な技はフィクションかもしれませんが、印瞳術は元は修験道から忍者に伝わっていった技と聞いています。理力をこちらで使える、何かしらの方法があるのではないでしょうか?」
「そういえば、君は理力を使えたんだよな? どうしてなんだ?」
それを聞くのはタブーなのでは?
「おい、飯島。なに聞いてやがる。パワハラか?」
一番、パワハラする人に言われたくない一言だな……。それに、幽斎師匠、答えを言ってたし。
「特殊なマギと契約しているから、とだけ答えておきましょう。幽斎師匠がさっき言っちゃいましたからね」
「言ってましたね」
「俺……言ったか? 霧島」
「はい。はっきりと」
「……まあ、それは置いといてだ」
「誤魔化したわね」
ああ、誤魔化した。
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