203.魔導と精霊魔法

「では、十六夜くん以外の人が理力を使えるとしたらどうかしら?」


 凄いドヤ顔の貴子様がみなさんを見回す。


 なんか、俺って地味なうえに、かませ犬っぽいんですけど? いや間違いなく、後に続く二人の引き立て役になった感じだな。寂しい……。


「さあ、沙羅ちゃん、あなたの真の力をお見せなさい!」


「は、はひっ!」


 どこぞの悪の女幹部のように沙羅を指差す。沙羅も私!? って感じで奇声を上げている。


 えぇー、私なの~といった顔でトボトボと哀愁を漂わせ、所定の場所まで移動する沙羅さん。頑張れ。


「それではやりますね」


 その声と共に沙羅の目の前に魔導書が出現。どよめきが起こる。


 沙羅はそのどよめきを気にせず、魔導書に手を添える。そうすると拳大の炎弾がマネキンに向かって放たれ、当たった瞬間に爆発。速度はたいしたことはないが、マネキンの上半身が爆散した威力は十分だ。


「今のはスキルか!? それともアビリティー!? いや、どちらにしても信じられん……」


「彼女の前に浮かんだのは本に見えたが……」


「あなたの妹も特殊なの? 紗耶香」


「し、知らないわよ!」


 紗耶香さんも天水祖父も唖然。まさか、沙羅にあんな力があったなんてって感じだな。


「ふっふっふっ、見事よ沙羅ちゃん!」


 完全に悦に入っているな。口に手を添え高笑いしそうだ。悪役令嬢のように……令嬢? た、貴子様、スマイル、スマイル。怖い顔で睨まないでください。


「説明してもらえるのでしょうな。貴子様」


 大村統合幕僚長がちょっと怖い。というより、多くの人の目つきが違った意味で怖い。


「説明はしますがこれは極秘事項です。まだ、表に出せない案件ですのであしからず」


 極秘事項って今更な気がするけどな。魔導書より魔剣のほうが対外的にヤバいと思う。


「沙羅ちゃん、魔導書を出して」


「「「魔導書!?」」」


 沙羅がどこからともなく本を出す。たったそれだけのことなのに、また大騒ぎ。さっき見たよね?


「彼女は収納スキル持ちなのか?」


「だとしても、ここは異界アンダーワールドじゃないから普通は使えないはず。やっぱり、あなたの妹も特殊なの!?」


「そ、そうなのかしら?」


 残念。違います。まあ、ある意味沙羅は特殊だけどな。


「沙羅ちゃん、説明!」


「は、はひっ! わ、私は収納スキルを持っていません。この本は魔導書で、この魔導書と契約することで魔導が使えるようになります」


「魔導? 魔法スキルとは違うのかね?」


 黒岩さんの質問はごもっとも。俺もマーブルやアディールさんから説明を受けるまではチンプンカンプンだった。


 なので、沙羅が魔導、魔術、魔法について説明する。


「なるほど、理解はした。理解はしたが……根本的な質問をしていいだろうか?」


「なんでしょう?」


「その知識はどこから得たものなのだろうか? 今、政府が異世界と取り引きを活発化さようとしている話は聞いているが、どこまで進んでいるのかまでは知らされていない。そんな中で、なぜ君はそこまでの知識を持っているのだね?」


 まあ、ここにいる中でも一部の人にしか知らないことだから、知りたいと思う気持ちはわかる。沙羅もどう答えていいのかわからず目で貴子様に助けを求める。


 さて、どう答えるつもりかな? 貴子様。


「なぜ、彼女が知っているのか? それは、次の魔法を見てから答えましょう。アディール殿、お願いします」


「はぁ……。派手にやればいいのですね?」


「人工衛星のカメラを使わない限り、ここでの出来事はわかりません。派手にやってください」


 アディールさん、俺に目でいいのか? と問いかけてきたので頷く。


 仕方ないな、やれやれといった顔で頷き返したアディールさんは、少しだけ離れて何かを呟きながら前に手をかざす。


 大地がわずかに揺れる。


「地震か?」


 誰かわからないが口に出した瞬間、アディールさんの前の地面から大量の水が噴き出したと思えば、竜巻が起こりその噴き出した水を空高く巻き上げていく。


「す、凄い……」


 同感です。アディールさん、やはりただの一地方の商業ギルドの副ギルド長じゃなかったな。


 巻き上がった水が見えなくなってこれで終わりかな、なんて思ったら前が見えないほどのどしゃ降りに変わる。


 なのに、俺たちギャラリーを避けているかのようにまったく濡れないでいる。精霊魔法って摩訶不思議。


 どしゃ振りはすぐにやみ、アディールさんが何事もなかったかのように戻ってくる。アディールさんの歩いてくる足元の地面がまったく濡れていない。精霊魔法、凄すぎ。


「この程度でよろしかったでしょうか?」


「よ、よろしかったです……」


 貴子様、自分で派手にやれと言っておきながら、あまりの出来事に引いていますがな……。気持ちはわかる。


 そして、全員無言。幽斎師匠でさえ狐につままれたような表情。俗に言う現実逃避だな。


 そんな中、貴子様が気を取り直して、


「今、見てもらったのは精霊魔法というスキルです」


「精霊魔法!? 漫画やゲームの中だけじゃなく実際にあったのか……」


 直人さんがなぜ驚いているのか。実は精霊魔法スキルは日本の探究者シーカー界では未発見のスキルらしい。日本以外で発見されているのかは不明なんだそうだ。


 と昨日、コテージで沙也加さんに聞いた。精霊魔法ってゲームや小説では意外とメジャーな魔法なので、逆に未発見と聞いたときは驚いたものだ。


「精霊魔法も凄いことなのですが、それを以上に、それを行使したアディール殿が異世界人ということです」


 おっと、ここでさりげなく爆弾を落としたな、貴子様。


 今日、みなさん何度目の驚きになるのだろう。と言っても一部の人はアディールさんが異世界人なのは知っているけど。


 先ほどの沙羅の知識がどこからきたものなのか納得するとともに、異世界人がこちらの世界に来ていることに驚きを隠せないようだ。







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