スメラミクニラビリンス～月読命に加護をもらいましたがうさぎ師匠には敵いません～

202.印瞳術検証

　それにしても凄いな。あれならもしかしたら、竜の大回廊の怪獣にも通用するかも。でも跡形もなく燃え尽きると素材が取れない。

　もし、やるなら一体だけでなく、トレインして何体も連れ回してから使うのがベストか？　一気に階位が上がりそうだな。魂石もいくつも満タンになるな。試す気はまったくないけど。

　それにあの威力を狭い空間で使ったら自分ごと丸焼きになりそうだ。あれを使うにはそれなりの広さが必要だろう。

　正直、現実的ではない。やはり、使いどころが難しい。

　どうやら、ここで一旦休憩。テント前に飲み物とお菓子や果物が載ったテーブルに置かれている。女性陣は飲み物より小太郎とマーブルに夢中だ。特に霧島さん紗耶香さんが小太郎を奪うようにモフモフを楽しんでいる。小太郎は罪作りな奴だ。

　飲み物をもらいに行こうかと思ったら、急に俺の周りに人が集まり挨拶と名刺が差し出される。さっきの幽斎師匠の余計な一言で俺に興味を持ったようだ。来た時には挨拶どころか目も合わせなかったのにな。

　ちょっとムカつくが、今後のことを考えると名刺交換は悪くないので大人の対応をしておく。

　そんなことをしていると貴子様に首根っこを掴まれ連行される。

「河上先生。あまり余計なことは言わないでください」

「知るかよ。それよりどうなんだ？　十六夜」

「あるかないかで言えばあります。前に見せた炎の魔剣の劣化版ですね。ただ性能も劣るし、あの固有技の灰神楽ではなく火炎弾となっています」

「劣化版なんていらねぇよ。岩切丸クラスのものを見つけてこい。金は出す」

　金は出すなんて言っているけど、いくらするのか知っているのだろうか？　貴子様に目でどうするんですか？　と問う。

「河上先生。無理は言わないでください。武器に関してはまだ政府との話し合いが済んでいません」

「幽斎。武器防具は国防に関わるから自衛隊が優先だ」

　ここで大村統合幕僚長も参戦。睨み合いが始まる。

　売るのは全然構わないけど、オークション形式にしてほしい。今の金額では安すぎる。

「それより、次はあなたたちの番よ。準備はいいのかしら？」

「これといった道具は必要ないですし、的があれば問題ありません」

　沙羅も頷く。俺は印瞳術。沙羅は魔導書。体一つあれば問題ない。アディールさんは精霊魔法と魔術なので魔術の道具が必要だが、精霊魔法のお披露目が最初なのでまだ必要ない。。

　沙羅の魔導書とアディールさんの精霊魔法と魔術は、みなさんの度肝を抜くのは間違いないだろう。

　俺の印瞳術は……地味だな。今使えるのは衝撃波を出す衝波と、自分の身体能力が上がる九字護身法だけ。というか、印瞳術の技は補助的な地味な技が多い。

　だがしかし、俺は印瞳術に期待している！　忍者が使っていたのが印瞳術なら、火遁や水遁などの遁術も印瞳術の一つなのではないのだろうか？　忍術には口から火を吹いたり、分身ができたりと浪漫あふれる技が多い。

　ただ、問題があるとすれば遁術を辞書で調べると身を隠したり、逃げるための術で隠形術と同じとなっているのが少々不安なところではある。

　ちなみに、企業のみなさんは休憩の後お帰りになる。異世界の武器防具の性能検証に来ただけなので、この後の魔法検証のことは伝えられていない。

　なかなか帰らないのは、さっきの幽斎師匠の余計な一言で俺との伝手を作りたいからのようだ。貴子様が防波堤になってはいるけど名刺がいっぱいだ。

　企業のみなさんがなかば追い払われるように帰った後は、自衛隊関係者とシーカー関係者だけが残っている。

「さて、貴子様。我々を残してどんな楽しい余興を見せていただけるので」

　黒岩十蔵氏が茶化すように問いかける。厳つい顔をしているがおちゃめな人なのかもしれないね。

「そうね。確かに先ほどの魔剣に比べれば余興ね。でも、シーカーにとっては常識を覆す前代未聞の余興になるわ」

「それほどのことですかな？」

　大村統合幕僚長も含め、みなさんは貴子様の一言で興味が沸いたよな。

「誰からいく？」

「じゃあ、地味な技の俺からやりましょう。トリは派手なほうがいいでしょうから」

　沙羅とアディールさんが顔を見合わせ、お互いにどっちだとばかりに首を傾げている。どっちでもいいんじゃない？

　みなさんから少し離れた場所に立つマネキンから、五メートルほど離れた場所に立つ。全員が注目する中、印を結んで衝波を放つ。

　マネキンが吹き飛んだ。地面に固定されているわけではないのでこんなものだろう。

　くっ、まったく反応がない……やはり、地味だからか？

「ちょ、ちょっと待った!?　今のはなんだ！」

「印瞳術だろう」

　興奮気味の直人さんに幽斎師匠が冷静に答えている。少しは興味を引いた人もいるようで、少し嬉しい。

「これはどういうことですかな？」

　大村統合幕僚長が皆を代表して貴子様に問いかける。

「異界（アンダーワールド）以外でも、理力を使おうと思えば使えるという証明かしら？」

「貴子様よう、それは証明にはならねぇんじゃねぇか？　十六夜が特殊なだけだろう？　こいつは探究者（シーカー）になった時から使えていたようだしな。それに、こいつのマギも特殊だろう？」

「特殊なマギってなんですか？」

　霧島さん、あなたが抱いている小太郎ですよ。

「そうね。マギの件は置いといても、十六夜くんが特殊というのは否めないわね」

　俺は特殊なのか？　昔の人は印瞳術を使っていたのだろう？　そこまで特殊ではないような気がするが？　幽斎師匠のせいでみなさん俺が特殊と納得してしまったようだ。

　解せぬ。