201.炎の魔剣
三つの鎧は頑丈な箱に詰められトラックに乗せられる。メーカーが持ち帰り調査研究するためだ。
さて、次はみなさんお待ちかねの炎の魔剣のお披露目。
ボディーアーマーを付けたマネキンがいくつも並べられ、なぜか中型ラフタークレーンまで用意される。そんな中、一人の自衛隊員さんが黒塗りのケースから炎の魔剣を取り出す。
「
そう言って、マネキンに炎の魔剣を無造作に一振り。マネキンが袈裟斬りされ、マネキンの上半身が斜めにズレ落ちる。
「このように恐ろしいほどの斬れ味です。私が今まで使っていた武器が戯具に感じられるほどです。ですが、この剣の実力はこんなものではありません。それを今からお見せします」
俺たちから少し離れ正眼に剣を構えると、剣に炎が噴き出す。客観的に見たのは初めて、ガスバーナーみたいだな。
周りからはどよめきが起こる。そこまでか?
「十六夜。お前は見慣れてるかもしれんが、こんな武器を見たことない奴が普通だ。それも、ここは
なるほど、幽斎師匠に言われて初めて気づく。本来なら
そんな炎の魔剣を如月一等特尉が振るえば、マネキンが簡単に斬り裂かれそのうえ燃えあがる。なんて凶悪な剣だ。
そういえば、あの剣には火炎属性だけでなく理力特性も付いていたな。そのおかげで、炎を纏うだけでなく斬れ味も上がっていると考えられる。
続いてクレーンで吊られた二十二ミリの敷鉄板が出てきた。
いやいや、まさかね、あれを斬るとか言わないよね? さすがに剣自体が折れちゃうでしょう?
如月一等特尉が敷鉄板の前で上段に剣を構える。剣の炎の色が赤からオレンジに変わり、更に徐々に青に変わっていく。
あんな機能もあったのね……。
ハッ! の気合の声とともに斜めに振り下ろされる。青白く燃え盛る炎の魔剣が敷鉄板に触れれば、まるで紙を斬るかの如く袈裟斬りされ、ズシンと音を立て落ち地面に刺さった。
見学していた人たちも、さすがに驚きで二の句が継げない。
確かにこんなに簡単に鉄板が斬れるなら、戦車を斬ることも可能かもしれない。戦車一台が十億円くらいと聞いているから、一本一億の魔剣なら安い買い物かもしれないな。
防具は格安にしているのだから、武器は交渉してもっと高く売りつけよう。これほどの武器は早々見つからないからな。本来、価格とは需要と供給によって決まるものだからな。
「皆様には十分にこの剣が強力であると認識していただいたと思いますが、実はこの剣には隠された力があります。この力を開放するには私の理力をすべて使わなくてはならないので奥の手となります」
静まり返ったこの場で、ゴクリと誰かが唾を呑む音が聞こえた。
これまでの実演でも十分にこの剣が強力であると思い知らされたのに、これ以上があると言われればそうもなるよな。
まあ、俺は知っていたから驚かないけど。
「その力は強大で例え戦況が不利な状況でも、戦況を一変させる切り札と言っても過言ではないでしょう。それを今からお見せします」
テントからだいぶ離れた場所で、タイヤなどの部品が外された車が半円状に何台も並べられた前に如月一等特尉が立つ。
如月一等特尉が何かをつぶやいたと思った瞬間、背筋に悪寒が走った。炎も纏っていない剣なのにあたかも徐々に巨大し、力が凝縮していくような感覚に襲われ、本能がこれは危険だと訴えかけてくる。
如月一等特尉が並んだ車に向かって水平に剣を振るえば、半円状に青白い炎がまるで生きているかのように蠢き広がっていく。
とても静かだ。あれだけの炎が舞ったのに音がほとんどしなかった。
炎が通りすぎた後には形を保った車は一つもない。あの一瞬で完全に溶けてしまった。
鉄が溶けるのは千五百度くらい。青白い炎だったから一万度近くの温度になっていたとも考えられる。そりゃあ、一瞬で形を残さず溶けるかもな。
如月一等特尉が膝をつき肩で息をしている。凄い威力だけどあの状態ではすぐに戦えそうにない。使った後の反動が大きいのでは使いどころが難しいな。あの灰神楽って固有技は。
まあ、魔法石を使えばなんとかなるかもしれないけど。
息も絶え絶えのうえ、ほかの自衛隊員に支えられて戻ってきた如月一等特尉は、
「ご覧のとおり、驚い威力ですが使いこなしていると言い難い状態です。この力を使おうとすると剣が勝手に私の理力を持っていってしまいます。制御はできそうなのですが、まだ手に余る状態です」
沙羅の持っている、氷結の魔剣の固有技である絶対零度はそんなことはなかった。剣や固有技で違ってくるのだろうか? あるいは剣自体に意思があって、相性が悪いと言うことを聞いてくれないとか?
絶対零度も凄かったけど、威力なら灰神楽のほうが上かな。派手さは同等だったな。
「ちっ。なんで俺の岩切丸にはああいうのがねぇんだよ。十六夜」
「岩切丸に固有技はありませんが、性能は炎の魔剣より格段に上ですよ」
「探して持ってこい!」
「そういうのは貴子様に許可を取ってから言ってください」
「ちっ」
貴子様がこちらを凄い目つきで睨んでいる。その横で沙羅が口に指をあてシーシーとしているが?
よく周りを見ればみなさんが象の耳が如く、聞き耳を立てていらっしゃる……。
お、俺は悪くないよ! 話を振ったのは幽斎師匠だからね!
その幽斎師匠は俺知らねぇとばかりにそっぽを向いている。
くっ、汚い。奥方に言いつけてやるからな!
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