195.MV
「ご存知と思いますが、ご紹介をいただきました社長の十六夜です。大学との兼務でもあり経営に関しては素人ではありますが、精進していく所存であります。至らぬところがあると思いますので、諸先輩方にお力を貸していただくと共に、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
まあ、お堅い話はこのくらいで。
「ついこの間までは、どこにでもいる一般ぴ~ぽ~だった私が、
本当に驚きだ。
「過去に異世界と取り引きをしていたという事実はあるようですが、我々が行う規模の取り引きはなかったと思われます。まあ、何を言いたいかというと、我々が目指す先は日本国内なんてちっぽけな市場ではなく、全世界、全異世界の市場を相手にすることです! みんなで頑張りましょう! スピーチは一分二百四十文字と言いますのでこの辺で終わりにしますね」
会議室に笑いが起き和んだ雰囲気に戻った。
「では、せっかくなので、十六夜社長のご友人でもあり頼もしい兄でもある、明城さまに乾杯の音頭をとっていただきます」
「ご紹介にあずかりました明城武です。まさか弟のアキが社長とは驚きですが、兄として鼻が高い。そんなアキと月彩 Tr.Coの前途を祝して、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」
取りあえず、社員一人一人にお酒を注ぎに行く。半分は以前に会っているけど残りの半分は今日初めて会う人たちだ。
とはいっても、全員天水家関係の人たち。警護担当の二人も元自衛官。第1空挺団に所属していた猛者で天水父の子飼いらしい。もちろん、
同年代は事務の女性二人だけで、みなさん年上。お飾りの社長だからしょうがない。
ジンがアディールさんと話をしているので行ってみた。
「なあ、アキ。この人モデルか俳優にスカウトしていいか?」
「アディールさんがいいならいいけど?」
「モデルと俳優とは何ですか?」
モデルは向こうの世界にはない職業だろうな、俳優は演劇などがあればありそうだけど。
「人前で晒し者になれと言うのですか!?」
「俺は晒し者か……」
「アディールさんの好きな、テレビ番組の金さんを演じている職業が俳優ですよ」
「なるほど、あれは演じていたのですね」
知らなかったんかい! まあ、説明したことがないな。
「私には向かない職業ですね」
「いやいや、顔だけで世界が狙えるって!」
たしかにジンの言っていることは当たっているような気がする。だけど、アディールさんに抜けれるのは痛手なので、内心ホッとしている。
「それより、せっかく映像音響機器があるんだMVみようぜ! 配信前の出来立てのホヤホヤだぞ。ジミーたちだってまだ見てないはずだ」
そう言って、勝手に会議室の機器をいじり始める。女性社員の助けもあり、会議室の光が落とされ大型モニターに映像が流れ出される。
バンドの練習シーンから演奏が流れ、アレックとニッキーの歌が始まる。
初めて自分が演奏(フリ)をしているシーンを見たけど、意外と様になっている。三日間の特訓が実を結んだと思いたいが、実際は撮影スタッフや編集スタッフの力だろう。
演奏シーンから外に出て歩いているシーンに変わり、突如周りの風景が古い時代に変わる。着ている服も武侠映画に出てくる武芸者の服に変わって、自分たちに起きたことに驚くシーンだ。
そこから始まる剣劇シーン。ワイヤーアクションをふんだんに使って空を飛び回り、VFX技術で某野菜人が放つ気功波まで……。
最後は苦難の末、悪の枢軸を倒しお互いの健闘を称えてあったところで現代に戻り、また演奏シーンで幕を閉じる。
アレックとニッキーの歌詞も仲間との信頼、勇気といったことがメインテーマとなっているので映像ともベストマッチ。
七分弱のMVだけど大作映画を見た気分になる。MVは中国語版と英語版があり、PVのほうにはプロフェッサーとジミーたち四人がそろっての対談映像も入っている。
俺はその対談には加わっていない。ただの一般人だからね。その対談の中でプロフェッサーから俺に関して質問がされるが、ジミーが俺のことを義弟だが一般人で友情出演的に参加させたと語っている。
「今月末に全世界一斉配信される。間違いなく、アキに関して問い合わせが殺到するな。一躍、時の人だぞ!」
「うちでも対策を取らねばなるまいな」
「そうですね。大学側にも手を打つべきかと」
天水祖父と弁護士さんが不穏な会話をしているんですけど。
勘弁してほしい……。俺は一般人ですよ。
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