192.政府の譲歩
「この後はどう話を持っていきましょうか?」
「アディールさんは取りあえず、受けでいいと思います。分室チームでは手に余る案件ですから、今頃政府側と話をしているでしょう、まずは相手の出方を見てみましょう」
「アキくん、そんなにすぐには決まるとは思わないよ?」
「それはそれでいいと思う。まず俺たちがまとめなければならないのは、マーブル商会との取り引きを認めさせることで、魂石や武器防具は後日で構わない。会社を興した以上、休業していられないし、マーブル商会も仕入れができないと困ることになる」
「にゃっ!」
うるさいぞ、マーブル。バレるから相づちを打つな。
「当初の予定どおり、落としどころは魂石の利益放棄と武器防具を優先的に政府に売るということです。まあ、相手の出方次第でお任せします」
「承知しました」
武器防具の取り引きができないのは痛いところだが、ほかにも売れるものはいくらでもある。特に月彩 Tr.Coが注目しているのが宝石類とポーション。
宝石類は調査用にいくつか渡したが、問題ないとの調査結果が出ている。宝石メーカーに卸してもよし、自前で装飾職人を雇い作らせてもいい。デザインだけ渡してドワーフの職人に作らせるのありだ。
ポーションは月彩 Tr.Coのメイン商品になり得るポテンシャルを持っている。
需要と供給が折り合うようになれば
それに高位のポーションなどは、
そのための研究用のポーションも引手あまただろう。
十分な利益が出ると天水大叔父たち経営スタッフは、そろばんを弾いて疑うべくもないと言っていた。
この後の話し合いも既定どおりということになり、歓談しながら美味しく重箱弁当を食べた。
小太郎とマーブルも毎度の如く貴子様と秘書さんに接待され、俺たちより豪華なお刺盛りを食べている。なんか、違くない?
それより、分室チームは昼食どころじゃないんだろうな。総理もいるし、その後ろには映っていないけどブレインも控えているだろう。この一時間足らずでどこまで話をまとめてくることやら。
俺たちはゆっくりと昼食をとり英気を養い会議室に。分室チームは会議室に残り総理ブレインチームとの打ち合わせをしていたようだ。みんな疲れた顔をしている。交渉時にそんな弱みを見せていていいのだろうか?
「それでは会議を再開します。政府の正式な見解として武器の自由な取り引きは看過できないと判断されました」
「わかりました。では、武器の売買はなしということで。防具は自由に売買してよいとの見解でいいですね?」
分室チームと総理が慌てている。
まさか、アディールさんがこうも簡単に引き下がるとは思っていなかったようだ。正直、俺も驚いている。が、アディールさんのことだ、これも駆け引きの一つだろう。
「これで、懸念材料も解消したのですから、本題のマーブル商会と月彩 Tr.Coとの取り引きをお認めになるということでよろしいでしょうか?」
分室チームは目を泳がせ、モニター越しの総理を見る。
しばらく、会議室を沈黙が支配し、
「そう、話を急ぐ必要はないのではないかな?」
ブレインとの相談が終わったのか総理が会議に介入してきた。
「失礼ですが、それはそちらのご都合ではないのですか。こちらは機を逃がさないためにも、早急に決着をつけていただきたいのですが」
「時間が必要と言った場合はどうするおつもりか?」
「残念ですが、この国とはご縁がなかったとしてほかの国で取引をします」
「先ほど、信用と縁を大事にしていると仰っていたのでは?」
「なにか勘違いしているようですが、国が変わっても月彩 Tr.Coと取り引きができると伺っておりますが?」
「ぐっ……」
まあ、そういうことだ。外国に月彩 Tr.Coを設立すればいい。これが今取れる最善策。亡命は最終手段だな。
また、総理がブレインとの相談を始める。
俺たちはお茶を飲んで待つだけだ。
「どうだろう。お互い譲歩し合い歩み寄ってみては? 政府としてマーブル商会と月彩 Tr.Coとの取り引きを認める。代わりに武器に関しては保留し、引き続き議論し合うということではどうだろうか?」
アディールさんがニヤリとしている。
譲歩、歩み寄りなどと形式上、負けたとは言えない政府の強がりだ。こちらはまだ切り札を切っていない状況で、ここまで条件を引き出せれば御の字。
天水大叔父たちも納得している様子だ。
「わかりました。それであればマーブル商会に異存はありません。今後、武器も取り引きできるようになるよう、ご英断していただきたいですね」
思った以上の大勝利だったな。
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