191.昼食ミーティング
「それから、ゼギール帝国との間に軋轢とは何を意味しているのでしょうか? 我々はいち商会です。商人は利が見込める場所で商売するのが常識。義理人情で商売をすることはあるでしょうが、我が商会はゼギール帝国との縁はございません」
「問題ないと?」
「問題ございません。それとも、わざわざ我々のことをゼギール帝国に対し情報を提供するおつもりか?」
「そんなつもりはありません! それに、我々にはこの件に関して対外的に守秘義務が課せられています。我々からゼギール帝国へ情報が流れることはありません。我々日本政府としては、こちらの世界とマーブル商会との交易は大いに期待しています」
と強く言っているが、正直信用はできない。特にガマガエル……もとい、桐生副官房長官。自分の保身のためならなんでもしそうだ。
「では、我々マーブル商会と月彩 Tr.Coとの取り引きをお認めになると?」
「全面的に認めるかと言われると、懸念材料もあると言わねばなりません。特に武器防具の取り扱いついては憂慮すべきところがあります」
「マーブル商会で取り扱わないとしても、いつかこちらの世界のどこかの国が別の商会、あるいは国と取り引きを始めるのでは? 我々、マーブル商会がこうしてこちらの世界に来ているのですから」
「そ、それは……」
無きにしも非ず。
マーブル商会が大きくなれば、いや、今だって誰かが疑問に思っているはず。あの商品はどこから品物を仕入れているのかと。
そして、いつか気づく。異世界から仕入れていると。
ゼギール帝国は当然異世界のことを知っている。日本は戦前、ゼギール帝国とは違う所と魂石を取り引きしていた。意外とこちらの世界を知っている人は多いのではないのか?
ゼギール帝国だって桐生副官房長官との交渉次第では武器の取り引きをするかもしれない。ゼギール帝国が武器の売買を始めれば日本とだけとはならないのは明明白白だ。そうなれば、月彩 Tr.Coで武器を扱はないというのは無意味になる。
「我々マーブル商会は月彩 Tr.Co以外と取り引きする予定はありません。言わば、あなたたちと月彩 Tr.Coで話し合えば、独占は無理でも優先的な確保はできると思われます。私からはこれ以上言えません」
ナイス、アシスト! アディールさん。ホールインワンとはいかずとも、べたピンだ。いい感じに誘導してくれた。こちらの陣営は我が意を得たりとみな頷いている。
対して分室チームと総理は苦渋の表情、眉間に皺をよせる人、いろいろだな。痛いところを突かれたってところか。
正直、ゼギール帝国がどう出てくるのかはアディールさんを含め、誰も予想がつかない。
アディールさん的に間違いないことは、絶対に譲歩はしないだろうということ。譲歩はしないが魂石を売らないなどと追い詰めたりした場合、交易を解禁する可能性はある。だとしても、まともな交易は行われないと睨んでいるそうだ
「では、マーブル商会は我々政府と取り引きする気はないと?」
「ありません。先ほどから言っておりますが、信用できる月彩 Tr.Coがあるのに、なぜあなた方と取り引きする必要があるのでしょうか?」
「我々と取り引きを行なえば、大きなメリットがあると思われますが?」
「たしかに我々商人は利によって動きますが、それ以上に信用や縁を大事にします。十六夜氏は我が商会の会頭と縁を結び知己となり、我々に大いなる信用と利を与えてくれました。あなた方はそれを反故してまで、あなた方と取り引きをさせたいというのでしょうか? そんな相手を信用しろと?」
「……」
なのも言えないよな。突然、横から現れて美味しいところをくれって言っているようなものだ。
「一旦、昼食にしませんか? どうでしょうか? 総理」
「う、うむ。そうですな」
ここで、貴子様が狙ったかのように昼食休憩を提案。旗色の悪い分室チームを見ながら総理も了承。
俺たちは場所を移して、貴子様が用意してくれたお弁当という名の豪華な重箱をご馳走になりながら、午前中の話の振り返りを行なう。
「政府は相当焦っていますね」
「それは、そうだろう。国益がかかっているのだからな」
「政府は魂石の件を諸外国に開示すると思いますか? 兄さん」
「すべての国とはいかないだろうが、同盟国には通牒するであろう」
天水大叔父の答えに天水祖父が答えたとおりだろう。
黙っていてもすぐにバレるだろうから、痛くもない腹を探られる前に教えてお互いに利益を享受すると考えられる。馬鹿でもない限り……。
いや、武器防具に関しては十分に腹は痛いから、隠すかもしれない。
「武器防具に関してはどう思われますか?」
「難しいな。アディール殿が言ったとおり、遅かれ早かれ情報は洩れる。魂石の取引先を変えた時点で気づく者もいるだろう。隠したところで買った者が外国に売ったらそれまでだ。下手に隠すよりは開示して政府が規制、制御したほうがよいであろう」
「それは政府にすべて任せるということですか? おじい様」
「いや、そうではない。ずっと話し合ってきたとおり、政府に売る先を決めさせるということだ」
俺たちが国を介さないで武器防具を売れば、有象無象、善悪関係なく広まってしまう。それは俺たちも避けたいところだ。だが、一企業にそこまでを精査するなんて無理。
なので、面倒なところを政府に丸投げする。代わりに日本政府に優先的に武器防具を卸すというわけだ。責任も含めてな。
なので、その武器を買った者が犯罪を犯しても、俺たちの責任ではないのだ。詭弁とわかっているがこれは仕方がない。
死の商人にはなりたくないからな。
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