190.アディール回答
「転移スキルを持った者が六人も……その者を政府で雇えないのかね?」
どこかで聞いたことのある声。部屋の隅のパーティションの向こうから聞こえたな。分室のTL二人があちゃーといった表情になる。
気になるので天水祖父とパーティションの裏を確認すると、大きなモニターに大泉総理が映っている。
「いやぁ、見つかってしまったね」
見つかってしまったねじゃなくて、何してるんだこの人?
「失礼ですが、今日の会議に総理が出席するとは聞いておりませんが?」
どうやら、貴子様も知らなかったみたいだ。
「会議が気になったものでね。口を出さないという約束でweb参加させてもらったのだよ」
口出してるやん!
「興奮してマイクのスイッチを押してしまった。ハハハハハ」
ハハハハハじゃねぇよ! 貴子様も呆れ顔だ。
で、どうするのよ?
「はぁ、こうなっては仕方ありません。口を出さない条件で参加を認めます」
「感謝します。貴子様。それで、うちで転移スキル持ちを雇えないのかね?」
口を出さないって話はどこいった?
取りあえず、パーティションを外し、アディールさんにこの国の国家元首と説明する。
「アディールと申します。お会いできて光栄でございます」
「大泉です。エルフと聞いていましたが、確かにイケメンですが我々と変わらないようですな」
アディールさんが変装の指輪を外すと、エルフらしい耳が現れる。
総理だけでなく、この場にいた分室のメンバーも驚いている。
「この目で実際に見たが、本当に
総理の声色が変わった。今までは半信半疑だったのだろう。
「はい。異世界から来た方にはこちらの常識は通用しないようです」
貴子様はちょっと苦い顔をしている。この場でこの話をするつもりはなかったのだろう。交易の話から国防に関する話になってしまう。
「天水将補。君はこの件をどう思うかね?」
「はっ、この現象が異世界の方限定なのか、あるいは何かしらの条件があるのか、異世界の方の協力を得て解明すべきかと」
アディールさんの手前、国防のためとは言えない大人の配慮を感じる。
「総理。その話は後日ということで。今は先に話し合うべき事柄がありますので」
「うむ。仕方あるまい。すまなかった、話を進めてくれたまえ」
気を取り直した分室チームが話を再開させる。
「現在、我々はゼギール帝国と魂石の取り引きを行なっているが、それをアディール氏との取り引きに変えた場合の取り扱いについてお聞きしたい」
分室チームの本題だな。
「我々の世界では魂石は神からの慈悲と考えられ、レイダーギルドが集め、職人ギルドが加工し、商業ギルドがその製品を世間に流すという各ギルドとの約定があります。ですので、魂石で暴利を得るというのは、神に対する冒涜でもあります」
その神への冒涜をゼギール帝国はしているわけだ。
「ですので、適正価格での取り引きをお約束します。レイダーギルドでは五十万リル、我々の国の大金貨で五枚の価値があります。手数料十万リルでお引き受けしましょう」
分室チームが考えていたより五万リルほど手数料を下げている。事前に話を聞いていたので、それを元にみんなで考えた回答だ。
何度も言うが、魂石の手数料などはした金。手数料なんて取る気はない。これは掛札の一枚だ。
実際にこのことを聞いた分室チームは電卓を叩いている。総理は引きつった表情だ。話には聞いていたがマジもんか!? ってところだろう。
日本に
国の年間予算の比率で考えればたいした額ではないが、あるとないとでは大きい違いになる。安定した収入になるからだ。是が非でも交渉を上手くまとめたいたいと思うわけだ。この条件でもまとまれば出世は間違いないからな。
魂石のことは後ほどということになり、今度は主要取引品の話に変わる。
こちらからは日用品や嗜好品類。向こうからは貴金属、宝石、そして武器防具がメイン。ほかには魔法石などの特殊品にアディールさんがリストアップした特産品と呼ばれ品々。これらはソールリシア王国で手に入るものだけを開示する。
「ゼギール帝国以外の国々に支店を作るとお聞きしたが、それはいつ頃になるのかお聞きしたい。その場合、ゼギール帝国との間に軋轢が生じると思われるがその見解をお聞きしたい」
「この話がまとまらなければ意味がないことをご理解しての質問でしょうか? まあ、いいでしょう。現在、会頭の指示で転移スキル持ちが各国に向かっている状況です。無駄足にならなければいいのですが」
アディールさんの嫌みジャブがさく裂。分室メンバーの顔が引きつっているな。
まあ、無駄足にはならない。この国の政府と話がまとまらなくても別の国と話をまとめればいいだけ。優先権を日本に与えているだけだからな。
多少強がりになるが、交渉相手はいくらでもいる。
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