185.検証案件について

 ここで貴子様を正気に戻すため爆弾を投げてみる。


「アディールさんはこちらの世界で精霊魔法は使えますか?」


「「!?」」


 なぜか貴子様と一緒に俺の問いに驚いている。


「どうでしょうか? 使う場面もありませんでしたし、こちらの世界は精霊が少ないですから、やってみないとわかりませんね」


 沙羅と貴子様は大きく目を開いて興味津々のご様子。異界アンダーワールドから出ればスキル、アビリティーは使えないのが常識だ。


「精霊と話はできますか?」


「できますね」


「ということは精霊魔法も使えるのでは?」


「まあ、理論上はそうなります」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 貴子様、さすがに黙っていられなくなったようだ。


「ここで魔法が使えるってこと?」


「アディールさんから話を聞くまで確証はなかったのですが、できるみたいですね」


「確証はなかったってことは、推測はしていたってこと?」


「最近、印瞳術の修練をしているんですが、ちゃんと覚えれば異界アンダーワールドじゃなくても使えるのではと思いました」


「印瞳術。またマイナーなものに手を出しているわね……」


 マイナーかどうかは今はいい。昔の修験道や忍者は普通に使っていたのではないかという考えを聞かせる。


 話を聞く貴子様の表情を見るかぎり常識ではなかったようだな。


 最後に沙羅の魔導書の話もする。


「わ、私!?」


「普通に出せるよね?」


「出せるね……」


 沙羅が魔導書を出してみせる。


 貴子様、目が点だ。前に見てますよね? ついでにアディールさんも目が点だ。


「今のは魔導書ですか!? 魔導書は非常に貴重なもので国単位でも二冊あれば凄いというのに……。まさか沙羅さんが契約なさっておいでだとは……」


 あと五冊持ってますけど? 


 それよりだ!


「どこかで検証できないでしょうか?」


「検証って、それが本当なら非常にまずいことになるのだけど……」


 文化の低い野蛮人だと思っていた異世界人が強靭な体を持ち、この世界の近代兵器を凌駕する武器防具まで持ち、更にはこちらの世界で魔法まで使える。


 一騎当千の戦力。


 もしも、戦争にでもなったら手も足も出ないのでは? と危惧してもおかしくない。いや、間違いなく考えるだろう。


 だからこそちゃんと検証を済ませる必要があるのではないだろうか? 知っていると知らなかたっでは戦略、戦術で大きな差が出るからな。


「次から次へと難題を持ち込んでくれて……」


 俺のせいではないと思うのだが?


「来週の交渉が終わってから、検証をしましょう。交渉前にこのことが知られたら交渉どころではなくなるわ」


 ふむ。たしかにそうかもしれない。まずは、異世界貿易ができるようになることが先決だからな。


 それに、貴子様が言うには検証に、いろいろな人を呼びたいらしい。


 探究者シーカーの権威たる人たち。幽斎師匠もその一人らしい。


 ほかにも研究者や探究者シーカー関係の企業関係者。それとこの国のトップ探究者シーカーなどだ。


 ついでにそこで自衛隊が保有する魔剣のお披露目もしたいらしい。炎の魔剣と水流の魔剣かな? 炎の魔剣には灰神楽って固有技があったな。紗耶香さんが言うには結構エグイ技らしい。一度見てみたい。


 この後は固い話は抜きということになり、美味しい料理を味わいつつ歓談し楽しいひとときを過ごした。


 試しにアディールさんに精霊魔法を少しだけ使ってみてもらった。中庭に空から花弁が振って来て、お客さんが不思議そうに眺めていた。貴子様は苦々しい表情で頭を振っていたな。



 日曜日、今日は人工ダンジョンに行く。


 喫茶店ギルドに着き探索前に優雅に紅茶を楽しみつつ、マスターギルド長と会話。小太郎はマスターギルド長の奢りでミルクだ。


「印瞳術に詳しい人ですか?」


「もらったあの資料は大事なところが抜けている気がするんです。特に印瞳術なのに瞳に関することが一つも書かれていません」


「うーん。光明真会は確かに真言宗系ではありますが、元は在家の集まりですからねぇ。そこまで詳しい人はいないかと。一時期忍者ブームで使う人が増えましたが、結局使い勝手が悪いとみなさん使わなくなりましたからね」


 忍者ブームあったな。漫画やアニメで凄い人気があった奴だ。


「忍者ですか……忍者を基とするギルドもあるんですよね?」


「伊賀、甲賀、風魔は有名です。ほかにも出羽、黒脛巾、甲陽、戸隠、加治、義経、雑賀、根來、世鬼など。そこから分かれた流派も多種多様です。ほとんどがギルドになってますね」


 伊賀、甲賀、風魔は有名だな。ほかに知っているのは伊達の黒脛巾にお蕎麦の美味しい戸隠だ。義経って源義経のことか? 雑賀、根來は戦国時代に火縄銃で有名だったところだな。


「そういったギルドから資料はもらえませんか?」


「難しいでしょうね。秘匿された口伝や奥義は財産ですからね。そう簡単には開示しないでしょう」


 ですよねー。


「こちらからも交渉できるものがあればいいのですが、うちのギルドはそういうのは皆無ですからねぇ」


 交渉できるものねぇ。なくはないんだけど、貴子様の許可がいりそうだ。


「どうしても学びたいというのであれば、高野山に紹介状を書きますか? 教えてくれるかどうかはわかりませんが」


 高野山か、真言宗の総本山金剛峯寺だな。和歌山県かぁ。遠いな……。観光ならまだしも、修行では簡単に行けない。夏休みか?


「取りあえず、保留で……」







 ホルダー戦線~日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる~

 https://kakuyomu.jp/works/16817330651455262968

 連続投稿頑張ってやっていますにゃ!

 よかったら見てやってくださいにゃ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る