184.エルフとは

 美味しい前菜や水炊きなどを頂き、場が和んできたところで話を振ってみる。


「以前にお話したとおり、来週にアディールさんを交えての話し合いを持ちたいのですが可能ですか?」


「そこまで急ぐのはなぜ?」


「会社関係の準備ができたので、自衛隊から頼まれている防具の納品をしたいからです」


 職人ギルドのドワーフのおっちゃんたちは頑張った。あの宴会が効いたのか最優先でやってくれている。依頼したうちの八割が完成している。残りの二割もそれほどかからずに完成する予定だ。


 この防具があれば、命のの危険度が下がり探索に拍車がかかるだろう。


「こちら側の打ち合わせは終わっています。向こうのチームはどうですか?」


「課題の洗い出しが終わって。関係各所とのすり合わせをしているわ。来週の土、日でいいかしら?」


「構いません」


 こちらから出席するのは俺と沙羅、アディールさん、それに天水祖父とうちの会社の実質的な会社運営をしてくれる専務取締役となる天水祖父の弟さん、そして弁護士さん。幽斎師匠も呼びたかったが面倒と断られた。


 ちなみに俺の肩書きはもちろん代表取締役社長だ。


「アディール殿は問題ありませんか?」


「貴子様、殿は不要ですよ。私はマーブル商会の者ですので、国益等のことは関知しておりません。私がすべきことはマーブル商会の利益に繋がるよう交渉をすること。それでよければ問題ありません」


「国益はどうでもいいと?」


「どうでもいいとは言いませんが、現状この国がゼギール帝国と繋がっている以上、国同士の国交は厳しいかと思われます。ですが、我々は商人でございますので、国同士の思惑などは関係ありません。商会の利益を優先するだけです。それで、我々がこちらの世界の品を仕入れ、向こうで売れば国は潤い発展するでしょう。それでじゅうぶんに国益に繋がるのでは?」


 うむ。クールだな。商人にとって金と信用が命。国などなくても人が集まればそこに商いが生じる。その需要と供給を満たせば人々は満足し商人は儲けられる。win-winの関係だ。


 国益は二の次。まずはマーブル商会と月彩トレーディングカンパニーが大きくなり力を持つことが肝要だ。取り引き相手は日本じゃなくても構わない。最初の交渉権を得たのが日本というだけだ。


「はぁ……とても冷静ね。政府にとっては手強い相手になりそうね。会議は難航かしら」


 ため息をつくと幸せが逃げますよ。それに、簡単に丸め込めると思っていたのだろうか?


 交渉のアドバンテージはこちらにある。向こうの案に妥協する意味もない。それとも何か俺たちの知らない奥の手を持ているのか? ないな。


 政府側が切れるカードなんてたかが知れている。この交渉には自衛隊から突き上げを喰らっているはず。


 この交渉が上手くいけば世界の探究者シーカーバランスがこの国に傾きリーダーシップを取ることも可能になる。しかし、もし交渉が上手くいかなければ探究者シーカー界のリーダーどころか、この国のリーダーからも転げ落ち政権交代なんてこともあり得る。


「それにしても想像していたエルフ像とだいぶかけ離れているわね」


「こちらに来てみなさんにそう言われますが、こちらの世界でのエルフとはどういうものなのでしょうか?」


「森の隠者」


「菜食主義」


「清淡虚無」


「どこの聖人君子ですか……」


 貴子様、俺、沙羅、アディールさんの順ね。


 たしかにアディールさんを見ていると、こちらの世界のエルフ像とはかけ離れている。


 好奇心旺盛で喜怒哀楽の表情も豊か、肉も普通に食べるし嫌いな野菜もある。美男美女と長寿という点だけは合っている。


「菜食主義を否定はしませんが、生きていくために強靭な体を作るのには肉を食べなければなりません。エルフはほかの種族に比べ長寿ですから、外貨を稼いで物を買い生活を豊かにしなければやっていけません。知識にしても何も考えずにぼーっと生きていたらすぐにボケますよ」


「異世界も世知辛いのね……」


 異世界だって生きていくのは大変。いや、弱肉強食の異世界だからこそ生きていくのは大変だろう。


「では、エルフ定番の精霊魔法というのはあるのかしら」


「エルフの定番というわけではないですが、精霊魔法は使えます」


「あるのね。精霊魔法……」


 俺と沙羅はマーブルが使えるので知っているが、貴子様は初めて知った驚愕の事実。魔導書による魔法の件は話しているけど、それ以外については何も話していないからな。


「ほかにも魔法ってあるのかしら?」


「魔法、魔術、魔導、定義は違いますがいろいろありますね」


「その違いは?」


「魔法とはある対象(神や聖獣)との契約で事象を変化させる技。魔術とは儀式的、抽象的な行為または言霊の力を用いて事象の変化をさせる技。魔導は魔導書や神器などと契約を交わし事象を変化させる技。精霊魔法は精霊との契約で自然の力を使えるようになります」


 魔術以外は契約が必要なんだな。俺たちの知る一般常識の魔法は向こうでの魔術になるのか。そして、アビリティが魔法って感じかな?


「それは誰でも覚えられるものなのかしら?」


「魔法に関しては才能や相性が必要ですが、魔術は誰かに師事するか魔術学校に通えば一定のレベルには……な、なれると思います」


 貴子様の目がギラついている。アディールさん、ビビってます。


 マギと契約できない人でも特殊な技が使えるようになるわけだからな。


 でも、それって印瞳術でいいんじゃね?








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