182.印瞳術

 打ち合わせや異世界に物を運んだりと忙しい日々が過ぎ、三月に入り大学の春休みが始まる。休みなんだが三月中は講習会に参加するので普通に大学に通っている。


 そして、あれから毎日打ち合わせ。取りあえず貴子様にアディールさんが来たこと伝えたら、土曜の夜に会わせろということになった。


 アディールさんに、実権はないけどこの国の皇族に連なる人と説明したら、そんなお方にお会いできるのは光栄と了承してくれた。


 会合場所は超が付く高級料亭。ドレスコードはないけど俺とアディールさんのスーツを新調した。アディールさんは身長も高くスーツを着ると決まっているのに、俺が着ると着せられている感が半端ないのはなんでだろう? 悔しくなんかないんだからな!


 土曜日当日、本当は日中に迷宮探索に行きたかったけど、夕方から貴子様との会合があるので諦めた。


 アディールさんは俺たちが大学に行っている間は日本語の文字の習得を頑張っていて、夕方からは俺たちとの打ち合わせの毎日。


 なので、今日、明日は休みにしようと話しになった。どうやら、明日は天水祖母と天水母がアディールさんを外に連れ出すようだ。


 沙羅は習いごとだし、俺はダンジョンにでも行って印瞳術の練習でもするか。今日は喫茶店ギルドでダウンロードしてもらった情報の確認でもしよう。


 ちなみに、小太郎は夕方の高級料亭にはさすがに連れて行けないのでお留守番。今日はまるまる加奈ちゃんのお相手だ。もちろん、マーブルも連れて行かない。ぶーぶー言っていたけど仕方がない。


 Cデバイスに保存された内容を見る。修験道の修行について書かれている。千日回峰行などのことも書かれているが、俺には無理。もっと簡単なことから始めよう。


 印瞳術は両手で印を結んで理力を使い術を発動する技。修験道の開祖である役行者の呪術が元になったと書かれている。そこからいろいろ分かれて忍びが使った忍術などにもなったらしい。


 忍術、浪漫だね。


 まずは手の指で様々な形を作くる印相という形を覚える。十二合掌と六種拳がすべての印の基本となるので覚えるしかない。


 印は、そのものに諸尊の力が宿るものであり悟りである仏の真理へつながるもので、真言と合わせて結ぶものであると書いてあるが、その真言が梵字で書かれているので読めない……。


 まあ、印を結んで理力を流すだけでも発動するようなので、真言は後日図書館やネットで調べよう。


 読み進めると俺の知っているものが出てきた。


 九字護身法だ。


 九字護身法というとわかりづらいけど、九字を切るなんていうとドラマなんかで聞いたことがあるのではないだろうか。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」


 忍者なんかが唱えているあれだ。


 簡易なのは刀印を結んで十字を切るやり方。ちゃんと印を結んでやるやり方も書いてある。


 それにしてもこの印相はわかり難いな。絵の指を数えると十本以上あるんだけど……。あれか? 一子相伝みたいに、ちゃんとしたやり方は師から弟子に直接教えるってやつか?


 こういう時はネットで調べるのが一番。調べるとすぐに出てきた。動画まである。凄くわかりやすく、さっきの真言まで網羅しているサイトまである。


 もしかして、同業者シーカーなのか?


 それにしてもこの時代、密教も密じゃないんだな……。


 九字護身法は護身、戦勝の呪法とだけあってどんな効果があるかは書いていない。実際に使って効果を調べるしかないな。


 簡単そうなのは衝波というのがある。智拳印から法呪掌の印を結び理力を手に流すと邪を衝くらしい。


 智拳印は胸の前で左手の人差指を右手で握る印。法呪掌は両手を前に突き出し掌を広げて親指と人差し指で三角を作る印。


 この印瞳術は特殊能力者、異界アンダーワールド怪異モンスターと契約できない人でも護法アビリティーのような力を使える。威力、効果も階位レベルが上がればそれに比例するそうなので、覚えれば生涯使えそうだ。


 なのに、使う人が少ない。マスターギルド長に理由を聞いたら、昔と違って特殊能力者以外の人で探究者シーカーになる人が少ないかららしい。なるほど、納得だ。


 特殊能力者はマギがいれば護法アビリティーが使えるようになる。俺比較だけど印瞳術よりアビリティーのほうが簡単に使える。印や真言を覚える必要もない。


 なので、持っているアビリティーにもよるだろうけど、そこまでして習得する人がいない。


 それと、アビリティーを覚えているが、物理主体の戦い方を好む人が多いらしい。沙羅や花音さんのような……。


 印瞳術はどうしても印を結ぶのに両手が塞がってしまうことも不人気の一つだと思う。魔導のように言葉だけならまだしも、両手を使い威力を上げるなら真言も必要になるのでは使い勝手が悪い。


 ソロの探究者シーカーにはちょっと厳しいな、パーティーを組んでいるか、俺のように前衛を任せられる眷属やマギがいれば別なんだけどな。


 俺にはパートナーの沙羅もいるし、はにわくんもいる。俺が前衛に回らなくても問題ない。逆に後衛として使える手札を増やすことは、安全マージンを稼ぐことにもなる。


 そういう意味で印瞳術を覚えるのはベストの選択だと思う。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る