181.交易品

「魂石の利益をすべて国にやっても交易を我々が独占できれば。我々として気にするほどの不利益にはなりません。正直、そこまで認めさせられれば完璧です」


「というと、懸念でも?」


「この世界にとって異世界の武器防具は脅威なんです。使いやすさや大量破壊ということを除けば、アディールさんの世界の武器防具の性能はこちらの兵器の性能を大きく上回ります」


「国防ですか、それは厄介ですね。落し処は考えているのですか?」


 正直、前に提案した武器防具はすべて国に卸すということくらいだ。あるいは、うちとは別に武器防具だけ国が管理するかだ。


 そのことをアディールさんに話し、そうなった場合の不利益な点を説明する。


「こちらから、向こうに売るものはいくらでもあるのですが、向こうからこちらに売る品は武器防具がメインになります。なので釣り合いが取れなくなるおそれがあります」


「武器以外だと、どんなものがこちらで需要がありますか?」


「魔法石やポーションは引手数多、鉱石などは売れるかな」


 あとは魔導書と宝石かな。この二つは向こうの世界では価値のないものと認識されているからね。


「意外と少ないですね。各国の特産品ではこちら世界では興味を引けませんか……」


「ものにもよりますが、食料品などはこちらの世界では日進月歩で改良がされています。よほど珍しい食材でもないと難しいですね。毛皮や布などなら珍しいものなら売れるかもというくらいです」


「私が今着ている服を見ても、王侯貴族が着ている服より上質です。これ以上のものはさすがにないと思われますが。毛皮でしたらいくつか当てがあります。今度、仕入れてみましょう」


 ですよねー。


 ほかにこちらで売れる物ってなんだろう? さっきも言ったポーションはどうだろう? 向こうでは貴重品ってわけではないし。


 こちらの世界ではポーションは貴重品。それも向こうのポーションに比べて効果が格段に落ちる。そんなポーションでも高値で取引されている。


 効果の高いポーションを仕入れられれば探究者シーカーの助けにもなるし、需要と供給が釣り合うようになれば必然的に値段も下がる。


「ポーションの仕入れはどうですか?」


「そうですね。安定的に仕入れを行うのであれば薬師を囲うか、完全に雇うかがいいでしょう。素材はレイダーギルドに依頼を出すか。専属で薬草を採取する者を雇うのが一番ですね」


 高品質のポーションの素材は別として、通常のポーション類の素材の採取はそれほど危険はない。なので、レイダーギルドに所属しないで薬草採取を専門に行っている者もいるそうだ。


「でも簡単に薬師を雇えるのかなぁ?」


 たしかに沙羅の言うとおりだ。薬師といえば専門職だろう。そう簡単に専属の薬師を雇えるのか?


「問題ありません。薬師になるには資格が必要で、その学校を薬師ギルドが運営しています。意外と薬師は多いのです。安定した職業ではありますが、それほど儲けられる職業ではありません。個人で店を持つ者はよほど腕のいい薬師くらいです」


 ポーションは生活に必須のアイテムとなっている世界では、安定供給するために薬師を育てている反面、人余りも起きているってことか。


 こちらの世界はポーション不足。ポーションの効果を考えれば、ほぼ独占状態。ウハウハだな。



「それで行きましょう!」


「あきっちの目がリルになってるにゃ。守銭奴の目にゃ」


「うるさい。マーブルは向こうに戻って。お仲間と薬師のスカウトと薬草採取を専門にしている人の囲い込みだ。作業場所や薬師や家族が住む寮も必要だな。忙しくなるぞ」


「えぇー、面倒にゃ~」


「働け! 駄猫!」


「さらっち、あきっちがいじめる~」


 マーブルはウソ泣きしながら沙羅に抱き着きなでなで、よしよしされる。羨ましいんだからな!


「ポーションの販売は交渉の手札にもなります。こちらにリスクの少ない効果的な手札です」


「こちらの世界でポーションが貴重品というのが驚きです」


 医学や薬学は間違いなく向こうの世界より進んでいる。でも正直、ポーションはこちらの世界の理から外れていると思う。


 異界アンダーワールドでは理力が使えるのに異界アンダーワールドから出ると使えなくなるのと同じ感じだ。


 さて、ポーション以外だと思いつくのは宝石類。まあ、これはドワーフのおっちゃんたちとお酒と交換と言えば、いくらでも手に入る気がする。


「レアメタルなんてどうかなぁ?」


 俺が考えていたことを沙羅に先に言われてしまった。


「レアメタルとはなんですか?」


「こちらの世界でいろいろなものを作るのにで必要な貴重な鉱石類のことです。おそらく向こうの世界では必要とされていないものですね」


 今は、が付くけど。こちらの世界の技術が流れて行けば、いつかは必要になるかもしれない。まあ、魔法がある世界だから必ずしもそうなるとは限らないけど。


「標本などがあれば探してもらえると思いますが。時間がかかると思われます」


 それでも、やる価値はあると思う。


「この国は資源に関してはとても貧しい国で、ほかの国からの輸入に頼っている状況です。この話も十分に交渉の札になると思います」


 あまり向こうの資源をこちらの世界に持ち込むのはどうかと思うけど、向こうで使われないものなら許容範囲かな。


 さすがに石油なんかは無理だろうけどね。



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