180.アディールの渡界

「マーブルさんはいつもあんな感じなのでしょうか?」


 ぐだぁ~と猫姿でだらけ切っている姿を見れば、そりゃあ気になるよね。


「いつもあんな感じです。こちらではそれこそ猫可愛がりされていますからね。仕事したくねぇ~って」


「会頭としてどうかと……」


 そのとおりです。是非ともアディールさんのお力で、物理的にで構いませんので矯正してください!


 そんな話をしながら、部屋にある電気について説明しておく。


「こちらの世界は電気というエネルギーを使って生活しています。電気とは簡単に言えば雷のことです」


「自然のエネルギーを使うのですか……凄い技術力ですね。我々の世界では、魂石からモンスターのエネルギーを取り出して使っています」


 なんかさらっと凄いこと言ったね。


「魂石にそんな使い方があるんですね。その技術は一般に公表されているのですか?」


「ええ、職人ギルドでエネルギーの取り出しをしていますから、道具さえあれば私でもできる作業です」


 正直、凄い話だ。いや、不味い話かもしれない。それがこちらでもできたら、エネルギー革命が起きるかもしれない。


 詳しく聞くと、魂石一つで家族四人が一年ほどエネルギーとして使える容量になる。ひと月に換算すると四万ちょいか。高いな。こちらだとひと月一~二万ほどだろう。


 でも、完全クリーンエネルギー。探究者シーカーは命がけか。となると、やはりこちらでもそのくらいになるかもな。


 この話は絶大な切り札になり得る。これはちゃんと説明しないと駄目なやつだ。


 アディールさんに簡単に絵を描いて、電気を作るプロセスを教え莫大な費用がかかることを説明する。


「費用対効果を考えれば魂石のほうがいいということですか?」


 いや、さっきの計算どおりなら、逆に割高だろう。人の命もかかっている。


 首を傾げるアディールさんに、この世界の環境汚染状況も教える。


「そこまでわかっていながら、現状維持なのですか? 理解できません」


 俺も理解できない。なぜ代替エネルギーに舵を切らないのか? それこそ愚かな既得権益に関わってくるのだろう。


 そこに一石を投じる内容でもある。太陽光発電とこの魂石エネルギーを併用できれば、世界のエネルギー問題が解決できるかもしれない。


 そのリーダーシップを取れると政府にチラつかせれば、喰い付いてくるのではないだろうか? 難しいだろうな。震災であれだけの原子力発電で被害を出しても、舵を切ろうとはしなかった政府だ。


 まあ、手札の一枚にはなるな。


「なるほど、この世界で溜めた魂石をこの世界で消費する。困るのはそれを利用していたゼギール帝国だけ、問題はないでしょう」


 この手札を切るかは政府の出方次第になるだろう。


 この話は天水家のみなさんに言うべきだろうか? 後で沙羅と相談しよう。


 この後、トイレとお風呂の説明をした。トイレのウォッシュレット機能をいたく気に入ったようだ。さすが、世界に誇る日本クォリティー。


 一通りの説明を終え、沙羅の部屋で打ち合わせ。PCの異世界言語辞典を見てアディールさんは興奮気味。


 辞典の内容は逆なので意味不明なのだろうが、PCに驚いている様子。紙ベースではない本に驚いているらしい。


 マーブルが異世界言語五十音変換表を、アディールさんに説明している。先輩ぶったマーブルは可愛いな。


 その間に沙羅と先ほどの魂石について話し合う。


「お父様とおじい様に話しても問題ないと思うよ。そこまで、凄い話ではないと思う」


 なかなか、沙羅はオプティミスティックな考えの持ち主のようだ。


「だって、石油がいつか枯渇するのはわかっていることだし、その代替えエネルギーについてはいろいろ考えられているでしょう? その候補の一つってだけじゃないかな? コストパフォーマンスが悪そうだし」


 うーん。確かに沙羅の言うとおりなんだよな……コストがネックなんだよなぁ。なんか一人で舞い上がっていたのかな。反省。


 でも、クリーンエネルギーには違いない。交渉カードにはなる。


「それでは、私はどういう立場で話をすればいいのでしょうか?」


「アディールさんはゼギール帝国を除けば唯一の異世界との窓口になります。まずは、各国がゼギール帝国と手を切るように話を持って行ってください」


 現状、魂石一つを帝国金貨二枚と交換している。その交換比率を上げるのだ。その条件としてマーブル商会と俺との交易の容認だ。


「おそらくですが、交易に関しても国が介入してくるのではないですか? 十分な利益が見込めますので」


「この国はよほどのことがないと、公共以外で国有の会社は作れないんです。ですので、国が押してくる会社は既得権益に絡んでくる美味しい思いをしようとする会社だけで信用できません」


「魂石はいいのですか?」


「魂石はこの国以外でも一般には秘匿され、国が一元管理していますので国以外の者が手を出してくる者はいません。それに魂石は我々が交易を独占するための餌にすぎません」


「なるほど。では、交易さえ認められれば魂石での利益はいらないと?」


 さすが、アディールさん。頭に回転が速いなぁ。





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