179.旅猫行商人仲間

 何事もなく大学の授業が進み今日は土曜日。


 アディールさんを迎えに行く日だ。昨日の夜に一足早くマーブルを送り出して準備するように言ってある。


 沙羅とマーブル商会に飛ぶと見知らぬケット・シーが五人いる。


「うちの仲間にゃ!」


 黒と白のハチワレのトッポ。黒猫のラスケット。茶トラのビスコッティ。ピンクとこげ茶のポロン。白猫のチェルシール。


 お互に自己紹介をして思う。なぜか、名前を聞くと美味しそうに感じる……。トッポ、ラスケット、ビスコッティは男性。ポロンとチェルシールは女性だ。


 ビスコッティはぱっちょんの次男でマーブルの従弟になるそうだ。


 沙羅の手がモフモフしたくてワキワキしているが、今は我慢しなさい!


 恨めしそうな目で見てくるが、ここからは大事なところ。モフモフしたいなら、この話が終わってから本人の承諾を取ってからやってください。じゃないと、セクハラで訴えられますよ!


 さて、そんな沙羅は放っておいて、この五人がマーブル商会に加わってくれることになる。せっかく集まっているので、アディールさんにちょっと待ってもらい話をしよう。


「みなさんにマーブル商会に入ってもらうにあたり、一つしていただかねばなければならないことがあります」


 五人のゴクンと息を飲む音が音が聞こえる。いや、なぜかマーブルもだ。


「みなさんには……旅行に行ってもらいます!」


「なんでにゃ~!?」


 だから、なぜそこでマーブルが騒ぐ? 事前に説明していたでしょうに。


「旅行とはどういう意味だ?」


 あら? 語尾ににゃがつかない? それにトッポさん、なかなかに渋い声をしてらっしゃる。


「みなさんには各国でマーブル商会の支店を任せる予定です。そのために自分の店を出したい国の王都まで行ってマーキングしてきてください」


「どこの国でもよろしくて?」


 チェルシールさんはお嬢様っぽいしゃべりかただ。


「ゼギール帝国以外ならどこでも構いません。みなさんで相談して決めてください」


「期限と旅費はどうなの?」


 マーブルの従弟のビスコッティはハキハキした若者だ。


「無期限。旅費はマーブル商会持ち。ある程度は自己裁量にお任せします。ですが、遅くなれば遅くなるほど、店の開店が遅れることになりますので、その辺も踏まえて相談してください」


 マーブルに一時金とマーブル商会の商会員証を渡してもらう。商会員証があればどこの商業ギルドでもお金が下ろせる。ただし、商会員なので限度額は設定されている。


「本気なの?」


 ポロンさんは可愛らしい声の持ち主だ。


「本気ですよ? マーブル商会はこれから大きくなります。あなたたちはその先駆者に選ばれたのです。そのくらいの投資は当然です」


「そうなのにゃ!」


「なら、ジャンケンだな。勝った奴から国を選ぼうぜ!」


 ラスケットは単純そうだ。


 熱いジャンケン勝負が始まったが、俺は今度はアディールさんとお話。


「準備はいいですか?」


 まあ、準備といっても持って行くものなんて変装用の指輪くらいなもの。どちらかといえば、心の準備だ。


「問題ありません。心は既に異世界です!」


 前回、連れて行った時より舞い上がっている様子。大丈夫か? 


 向こうの熱いジャンケン勝負も終わったようで、各自行く国が決まったようだ。


 隣の国に行くポロン以外は一度ゼギール帝国に向かいそこから各国に分かれるそうだ。駅馬車を乗り継いでも何か月もかかる長い道のり。帰って来るのは一瞬だけどね。


 よしこれで問題は片付いた。職人ギルドの進捗状況なども気になるけど、また今度だ。どうせ、会社を立ち上げてからじゃないと、自衛隊に納品できない。


 そのためにも、アディールさんと財務省、外務省との話し合いを済ませ、ある程度の道筋を作らないといけない。あとは政府の判断だ。駄目なら最悪、国を離れることも視野に入れなければなくなる。


 政府の英断に期待しよう。


 アディールさんを連れ沙羅の家に飛ぶ。マーブルも一緒についてきた。


 まずは天水家のみなさんにご対面、並びにご挨拶だ。


「アディールと申します。しばらくの間、ご厄介になりますがよろしくお願いします」


「うむ。アディール殿、歓迎する。自分の家と思いゆるりとなさい」


「まあまあ、イケメンね」


「あらあら、十六夜くんのライバルかしら?」


「お母様! おばあ様!」、


 ははは……天水母と天水祖母はブレないね。


 アディールさんの部屋は、いつも俺が泊っている離れの部屋の隣。今日は俺も泊まる。アディールさんにこの国の一般常識を教えるためだ。俺が教えるのは男にしか教えられないことになる。


 変なことじゃないぞ! 服装やトイレ、風呂の入り方などだ。電気関係も教えないといけない。まあ、そこら辺は向こうにも同じようなものがあるからさほど苦労はしないだろう。


 問題は文字だな。言語は問題ないが読み書きは日本語と別もの。沙羅の作った異世界辞書が役に立つはずだ。


 そこも含めて短時間でどこまで教えられるかだな。 




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