174.アディール加入

 取りあえず、貴子様からのお願いは保留。下宿には帰らず天水家に泊まることにした。仕入れの品は天水家の倉庫に運ばれているし、明日は一緒に喫茶店ギルドに行くからそうなった。


 帰り道にコンビニに寄ってもらい、アイスを大量買い。もう午前を回っているので、昨日の分も含めてだ。食べ物の恨みは恐ろしいからな。


「アキくん、そんなに食べる気? お腹壊すよ?」


「にゃ~」


 食べませんって! それから、マーブルさんあなたの分じゃないからね。


「にゃ、にゃ!?」


 おいおい、素が出てるぞ。


 天水家もさすがにこの時間だとみんな寝ている。お手伝いの咲さんは起きていて、部屋とお風呂の準備をしてくれていた。


「じゃあ、明日……ね。き、消えたよ! アイス!」


「えっ!? マジ!」


「マ、マーブルのアイスが消えたにゃ……」


 いやいや、マーブルのアイスじゃないですから!


 それにしても、月読様待ちきれなかったのだろうか……。まだ奉納してませんよ?


 見られたからには話すしかない。幽齋師匠やジミーたちは知っているし、沙羅にも話そうと思っていたからちょうどいい。でも、もう夜も遅いので、明日話すと言って切りあげた。


 朝、小太郎の肉球パンチで起こされた……眠い。時計を見ると七時。四時間しか寝ていない……。


 着替えて天水家の皆様にご挨拶。沙羅は寝ぼけて髪の毛が爆発したままだ。マーブルに至っては座布団の上で大の字で寝ている。こいつ、いつかバレるな。


 朝食を食べながら昨日の会議の内容を天水祖父に説明。


「うむ。こちらで適当な場所を探しておこう。人材もなんとかなるだろう。弁護士や税理士、会計士はうちの先生方にお願いすればいいだろう。詳しい話は帰って来てから話をしよう」




「お土産ありがとうね。やっぱり鎌倉といえばサブレーよねぇ。牛乳と食べるサブレー、ベストマッチよ!」


 俺もそう思う。お気に召して幸いです。葛城さん。正直、鳥のサブレーは東京駅でも売っている。だけど、どこで買ったかが大事なのだ。本場もんやでぇ。


「美味しいお菓子をありがとうございます。鎌倉ということはまた修行ですか?」


 マスターギルド長には有名なくるみのお菓子を送ってある。


「いえ、幽斎師匠の所に新年のご挨拶に行っただけです」


「河上先生に会ってもらえる十六夜くんが羨ましいです」


「そうなんですか?」


「河上先生は探究者シーカー界の天上人。おいそれとは会えない方ですよ」


 そんなもんかね。


 ゲートを潜りいつもの人工ダンジョンに移動。


 一旦、そこで休憩を取りながら、昨日の奉納について説明。


「じゃあ、こたちゃんはその方の眷属なんだぁ。凄いねぇ」


「にゃ~」


「ケチにゃ! あんにゃにあるにゃら、マーブルに一個くらい分けてくれてもいいはずにゃ! 全部持っていくにゃんて、横暴にゃ!」


 マーブル、絶対に月読様に聞こえているぞ? 神罰が降っても知らないからな。


 なんて思ったら、アイスが一つマーブルの頭の上に振ってきてぶつかった。


「痛っ!? にゃ、にゃ!?」


「神罰だな」


「神罰ね」


「にゃ~」


「ご、ごめんにゃさいにゃ~。神罰は嫌にゃ~」


 マーブルは土下座謝り。そのくせ、しっかりとアイスは食べていた。さすがマーブル。


 マーブルがアイスを食べ終わるのを待って、マーブルの家に月虹で飛ぶ。


 先ずはアディールさんだな。商業ギルドに向かうと、既に辞めたと聞かされる。マジでぇ!? どこにいるんだ?


 しょうがない、プッカの所に行ってエリンさんにアディールさんの居場所を聞こう。


「姉~さ~ん、待っていたよう~」


 泣きそうな顔のプッカの横にアディールさんがいるんですけど?


「マーブルさんがいつまでたっても迎えに来ないので、僭越ながら商業ギルドを辞めてこちらにきました。今は台帳の整理中です。しかし、エルリムーンが付いていながらこの程度の台帳しか作れんとは。やれやれ」


「す、すみません……って兄さんが勝手に見てしまい……」


「構わないにゃ。アディールの好きにしていいにゃ」


「寛大な処置、痛み入ります」


 泣きそうなプッカをほっとけないので、そっちの用事から片付けよう。仕入れの品を出すと泣いて喜んだ。どっちにしろ泣くんかい。


 そんなアメリカンショートヘア似のプッカの頭を沙羅がなでなでしていてうっとり顔。さぞや、触り心地がいいのだろう。


「それから姉さん、みんなが連絡くれって言ってたよ」


「うにゃ~。まだなんにも決めてないにゃ……」


「みんなって?」


「旅猫行商人の仲間にゃ」


 おう……ケット・シーの仲間か。これはまずい。


「何人いるんだ?」


「五人にゃ!」


「すぐに雇え! 今すぐ雇え! 逃げられる前に雇いやがれ!」


「でも、まだ何も決まってないにゃよ?」


 なにを言ってるんだ! この猫頭! 昨日の話を聞いていなかったのか! いや、聞いていなかったんだろうな……。


「いいか、マーブル。マーブル商会の売りは素早さだ! それも転移あっての物種だ。ほかの商会に奪われる前に囲ってしまえ!」


「でもまだそんなに仕事ないにゃよ?」


「これから忙しくなる。それまで遊んでいてもらえ。そのくらいの金は、はした金。投資だと思えば安いもの。急いで連絡を取れ!」


「うにゃ~。うちが遊んでいたいにゃ……」


 そういう怠け者には、グリグリの刑だ!


「い、痛いにゃ!? あ、あきっち止めるにゃ~。ごめんにゃさい……い、行くから助けてにゃ~」


 離してやると逃げるように消えたマーブル。プッカがそんな俺を見て、苦笑いしている沙羅の後ろに隠れた。俺と目の合ったエリンさんも、アディールさんの後ろに隠れたな。


 怒ってないよ? だから怒ってないって。


 俺を怒らせるなら、たいしたもんだよ!



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