173.泥船か豪華クルーザーか
お茶が配られ、一服の後会議が再開。時計を見るともう十時を過ぎている。これは午前様決定だな。
「先ほどの続きになりますが、陸路は駄目でも海路はどうなのですか?」
「とても危険が伴います。造船技術は中世クラス。海にはこちらの世界と違いモンスターもいますからね。そのせいで、荷の値段はゼギール帝国の関税をかけたものと大差なくなります」
「ならば転移を使えばいいのでは?」
簡単に言ってくれるな。
「こちらより向こうの世界に転移持ちが多いとはいえ、流通をすべて賄うほどの人数はいないと思われます」
「ですが先ほど、マーブル商会? に転移持ちが数名加わると仰っていましたよね?」
「そ・れ・が、マーブル商会の強みなんですよ! なので、これからマーブル商会は間違いなく大きくなります。大きくなればそれだけ影響力を持つことになります。それは支店のある国々すべてにです」
「その根拠は?」
はぁ……。正直、自分で考えろと言いたい。そこまで言わないと駄目なのか? 官僚さんたちは頭が固いな。
「もし、江戸時代に現代の製品を持ち込んだら、その品が売れないと思いますか? どんな大金持ちでも、現代の製品以上の品など持っていません。それを、マーブル商会が独占するのですよ。例え王族であっても、無下にはできなくなります」
「やりすぎれば、向こうの経済が破城するわよ」
貴子様のご懸念はごもっとも。
「そこは留意しています。ですが、いち商会で扱う量如きでは、そんなことは起きませんよ。この国が外国に輸出している量に比べれば、微々たるものです」
それにそこまで供給したら値が下がる。需要はあっても品が不足するくらいがちょうどいい。
「先ほど、ゼギール帝国以外の国々に支店を出すと言われたが、ゼギール帝国をその商業圏から締め出すということか?」
「なにか問題でも?」
「問題というか……別のチームがその国と交渉するのだが?」
おいおい、なんでわざわざ美味い汁だけ吸おうとする、あのガマガエルと協調しなくちゃならないんだ。かってに自滅しろ!
「総理は情報は共有するが協調しろとは言っていません。どちらも上手くいけばよし、どちらに転んでもいいようにとのお考えだと思いましたが? すべては自助努力ですよ。逆に足を引っ張る気なら、ゼギール帝国ごと蹴り飛ばします」
「「……」」
「はぁ、この話が十六夜くんの言うとおりになれば、あなたたちは出世街道まっしぐらね。向こうのチームが可哀そうに思えるわ……」
「あのガマガエルについたのが運の尽きです。こちらの情報を流すのは構いませんが、すべての決着が着いた後のことは知りませんからね。どちらにつくべきか、よく考えて行動してください」
「「……」」
「
貴子様の駄目押しに官僚全員の口元がヒクついている。間違いなく向こうは失敗する。この国の外交、政治は三流以下だ。そのうえ、トップがあのガマガエルでは上手くいくものも上手くいかないだろう。
さて、みなさんは沈みゆく泥船を選ぶのか、勝利が約束された豪華クルーザーを選ぶのか楽しみだな。
ここで会議は終了。次の会議はアディールさんを連れて来てからになる。だいたい二週間後を目途にということになった。
会議が終わったからといって、帰れるわけではない。今度は貴子様との打ち合わせだ。
貴子様の執務室に戻り、お茶を飲みながら打ち合わせ。小太郎はもうキャリーバッグの中で夢の中。マーブルは貴子様からお菓子をもらって食べている。夜中に食べると太るぞ?
なぜか隣にいる沙羅の体がビクッとなる。沙羅もお饅頭食べてたのね……。ショウさんはバクバク食べているけどな。
「今回の件で向こうと取り引きをしてもよいということで、いいのですよね?」
「いいんじゃない」
「それでは会社を作ろうと思いますが、その場合古物商許可を取ったほうがいいのでしょうか?」
「そうするしかないでしょうね」
この国は武器の売買が禁止されているから、武器防具は美術品や骨董品扱いにするしかないので、古物商許可が必要になる。
貴子様が小切手を渡してくる。四と零が八個あるね。
「前に渡した分は、私は見てないことにするわ。でも今回の分からは駄目。今回のこのお金は今までの品の代金と考えて。そのお金を資本として会社を設立しなさい。人材は天水家と相談しなさい」
それはそれは、ありがたいことで。今までの分の余ったお金は隠し財産としていいということだ。
人材は募集をかけるのではなく、天水家の目が行き届く人材だけにしろということだね。おそらく、募集をかければ、政府の息のかかった人間が紛れ込むんで来るのだろう。怖い怖い。
「それで、こちらに連れて来る方とはいつ会うのかしら?」
「明日会う予定です」
というか、明日しかない。
「いつこちらに連れて来るの?」
「少し早めに連れて来て、こちらの世界を見せようと思います。情勢についても実際にこちらに連れて来てから説明したほうがいいと思うので」
「そう……その時、一度会わせて」
「はっ? どうしてです?」
「エルフに会ってみたいのよ!」
ミーハーか!?
新作はじ~めました~にゃ!
ホルダー戦線~日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる~
https://kakuyomu.jp/works/16817330651455262968
図らずしも異能者となった主人公が、ホルダー界という異能者世界でランキングを駆け上がり多くのものを手にいれ成り上がっていくストーリー。
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