171.質疑応答

 書かれている質問順にわかる範囲で回答していく。


 前にマーブルと意識のすり合わせをした時の内容と、半分くらい被っているので答えられる。答えられないのは、各国の事情や物価などの専門的なこと。


 物価なんてそこで生活をしているわけじゃないから、わかるわけがない。ま、向こうもそこまでは期待してないだろうけど。


 そこら辺はアディールさんと話しをして、どこまで開示するかを決めないといけない。すべてを開示する気はない。その辺の情報はこちらの武器でもある。


 そっちがイニシアチブを取りたいのだろうが、そうはいかない。イニシアチブを取るのは俺たちだ。


 だからといって、無下にするわけではない。当初の考えどおり、魂石については利益をすべて政府に渡すつもりだ。手数料だって取る気はない。


 でもそれは交渉カードとしてだ。政府がどれだけこちらに譲歩するかで変わってくる。


 一通りの質疑応答が終わったところで、今度は俺たちからの質問だ。


「外務省は向こうの国と国交を結ぶつもりですか?」


「将来的には結びたい。しかし、今回の取り引き相手は一商人と聞いている。国とのコネクションを持っているかが問題だ」


 貴子様は俺たちが国とのコネを持っていることを言っていないようだ。ちらっと貴子様を見るが小太郎をモフモフしていて、こちらの話を聞いていない風を装っている感じだ。政治には口を出さないということかな?


「その国交の目的は?」


「もちろん、安全保障についてだ」


 安全保障ねぇ。本当だろうか? いまいち信用ができない。そして、もっと信用ができないのが財務省だ。


「財務省にお聞きします。魂石の取り引きはどうお考えですか?」


「向こうでの取引額は聞いている。あまりにも不平等な取引だ。そこを是正したいと思っている」


 金の含有量が少ない金貨二枚と交換していた。こちらの価値だとその金貨は一枚七万円くらいだという。


「是正と言いますが、どの程度が適正とお考えですか?」


「日本円で五十万の価値があると聞いている。ならば、相手の手数料といして三割を引き三十五万が妥当だと考える」


「三十五万の内訳は?」


「国が五万、ギルドが十万、探究者シーカーが二十万と考える」


 意外とまともな答えが返ってきてちょっと驚き。


「魂石以外の取り引きはどう考えていますか?」


「日用品の取り引きは十六夜氏が指揮って構いません。ですが国防上、武器防具の取り引きはこちらで行いたい」


「残念ながら論外です。理由としては、こちらから売るものは多くあれど、向こうの品でこちらで価値の高いものは武器防具です」


 まあ実際にはもっとある。宝石類なんかだね。向こうでは格安、こちらでは非常に高価だから利益はでる。でも、それでは面白くない。


「仮に分けたとして、我々には向こうの貨幣が山積みになり、あなたたちは武器防具を買う向こうのお金が魂石の交換分しかない。それでもいいのですか?」


「そこは我々が相手と交渉する」


「交渉? その交渉相手とは? 前の会議に出ておられたので聞いていたと思いますが、向こうの交渉相手は私とこちらの天水さんとの信頼関係で成り立っています。その信頼関係にはお互いの利益享受も入っていますよ? 信頼もない金もないあなたたちは誰とどんな交渉をするつもりですか?」


「……」


 考えればわかることだと思うのだけど、自分たちの都合でしか考えていないのだろう。


「一つお聞きしたいのですが、現在どこでどうやって魂石の取り引きをしているのですか?」


「場所は言えませんが、とある場所に定期的に異世界から人が来て、そこで金貨との交換が行われます」


「では、魂石以外の取り引きはしていないのですか? それと今現在この国に転移のスキルや護法アビリティーを持つ人はいないのでしょうか?」


 前から疑問だったことだ。金貨だけもらって取り引きしてないのか? もしかして鋳潰してるとか?


 それに転移持ちがいたら、向こうに行こうと思うけどそれをしていない。まあ、相手が良しとしていないというのもあるかも。


「取り引きに関しては、向こうが拒否している。転移に関しては国防並びに個人情報なのでお答えできない」


 益々、わからない。


「サラはどう思う?」


 沙羅は首を振るだけで答えた。俺と同じで政府の考えがわからないって感じだ


「結局、今まで何もしてこなかったということで合ってますか?」


「合ってるわ」


「「……」」


 佐藤さんと渡辺さんが答える前に貴子様が割って入ってきた。二人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「相手は元からこちらの品に興味がないの。今ならわかるわ。そんなことしなくても、なんの苦労もなく十分な利益がでるのですから」


 なるほど、そういう考えもあるな。魂石を用意する手間と。こちらを行き来する手間で莫大な利益が手に入る。あとはおそらくだが、こちらの世界を見下しているのだろう。


 外には出ていないようだから、自分たちより遅れた文明だと思っていてもおかしくない。そう考えれば、こちらの世界に技術が流れるのを危惧しているとも考えられる。


 向こうもこちらお互いに信用していないと見るべきだろうな。どちらも信頼関係を築こうなんて微塵も思ってないのだろう。


 ただ利用するだけの関係か。


 正直、どうしようもない。




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