170.顔合わせと会議

 ほとんど休む暇もなく大学が始まり、毎日の生活が始まる。


 ショウさんは俺がいなかったので、自衛官らしい仕事を行なっていたらしい。自衛官らしい仕事って? 匍匐前進の訓練か? それとも草むしり? それともサッカー?


 そういえば、貴子様から連絡があって金曜の夜に打ち合わせをすることになった。特対室にできた財務省と外務省チームの分室のみなさんとの顔を合わせを兼ねるらしいね。


 沙羅も参加の意を示している。いいんじゃないの?


 当日、ショウさんの迎えの車に乗り特対室に向かう。いつものとおり、面倒な身体検査や持ち物検査をされやっと貴子様の部屋に。


「お土産、ありがとう。みんなで美味しく頂いたわ。ほんと、大学生は休みが多くていいわね」


 おいおい、さっそく皮肉から入るのか!? 沙羅は苦笑いだ。仕方がない貢物だ。行け!小太郎。


「にゃ~」


「あぁ、私の癒しはやっぱりコタちゃんね」


 マーブルも行ってこい!


「にゃお~ん」


「マーブルちゃんも癒やしてくれるの? どこかの誰かさんと違って優しいわぁ」


 どこかの誰かさんて誰よ? 俺のことか? お土産返せ!


 小太郎とマーブルを抱っこして両手に花状態の貴子様から、この後のスケジュールの説明がされた。


 会議室で顔合わせを兼ねての有名料亭のお弁当を食べながらの親睦会。それが終われば本題の会議に突入。現状の状況説明、今後の方針などの打ち合わせを行なう。


 さっそく会議室に移動する。


 中にいるのは、外務省と財務省の選りすぐりのエリート官僚だ。


 貴子様が小太郎とマーブルを抱っこしたまま席に着き、俺たちを座るように促したので座った。テーブルは四角に並べられ右と左におそらく各省ごとに座り、正面に貴子様と秘書さんたちが座っている。


 既にお弁当が机に置かれている。俺の想像したお弁当とはかけ離れた重箱が置かれている。


 簡単な自己紹介をしてから貴子様の頂きますで食事が始まる。


 なぜか、貴子様と秘書さんの間にもう一人分の重箱が置かれている。まさかな……と思ったが俺の予想どおりだった。


 中身はほとんどお刺身のようで、貴子様と秘書さんがせっせと小太郎とマーブルを接待。普通は逆なんだろうけど、お二人は嬉々として接待側に回っている。


 この会議室で一番偉いのは小太郎とマーブルなのかもな……。


 食事も終わり、お茶を飲んでしばし歓談の後、


「それでは始めましょうか」


 貴子様の一言で、本題の会議が始まる。


 最初に話を始めてのが外務省の方。


「外務省分室TLチームリーダーの佐藤です。まずはお手元の資料、レジメをご覧ください」


 レジメには今まででわかっているゼギール帝国のことが箇条書きされていて、その補足事項が資料のほうに書かれている。


 といっても、それほど詳しいことは書かれていない。いや、ほぼないといっていいだろう。


 おそらくとか、であろうという曖昧な表現がほとんどだ。ただ一つだけ気になったのが、ゼギール帝国と取り引きを始めたのが戦後ということだ。それ以前は違う国と取引していたと書かれている。


 それが、どこのなんという国かは資料が残っていないそうだ。当時の担当者も既に亡くなっており、戦後の混乱期でまともな資料もなく、どういう成り行きでそうなったのかを調べる術がないらしい。


 一つだけ確かなことは、日本や同盟国の取引先がゼギール帝国で間違いない。これはこの前の外交のカードを切って得られた情報だ。


 このことから、憶測でしかないが敗戦国日本を一時的に占領、管理していたGHQの思惑があったのかもしれない。そういった資料はアメリカの公文書館にあるのだろうけど、開示はされないだろうな。


「財務省分室TLチームリーダーの渡辺です。こちらも作りました資料、レジメをご覧ください」


 財務省の内容も似たり寄ったり。気になるところは戦前は魂石だけではなく、武器防具の取り引きがあったという資料が残っていたことだ。


 残念ながら、当時の値段だけでどんな武器防具なのかは書かれていない。 ただ、現在の金額に換算すると、一つ十億程度になるらしい。


 これは仕入れ値で日本政府が探究者シーカーないし探究者シーカーの組織に売られた時はそれ以上の値段になったと思われる。どこに売ったかいくらで売ったという、資料はないそうだ。


 戦時中に失われたのか、現在も公表せずに誰かが持っているのかは不明。だけど、レギオンの中にはそれらしき武器防具を持つ探究者シーカーもいるそうだ。


 正直言って、これらの資料からは役に立つ情報は何も得られなかった。戦後の混乱期とはいえ、完全に後手後手だったと言える。


「ねぇねぇ、アキくん。この資料に意味があるのかなぁ?」


「「……」」


 ないね。と思っていても声には出さない。両脇にいるエリート官僚さんたちの口元が、沙羅の言葉でヒクヒクと引きつっているのが見えるからね。これ以上、追い打ちをかけないほうがいいだろう。


「ナンセンスね」


 あぁ、俺が言わなかったのに、貴子様が言っちゃたよ。官僚の人たち涙目なんですけど……。


「それで、アジェンダは?」


「こ、こちらに」


 分厚い紙の束が配られる。アジェンダというより、ほぼ質問。最後のほうに今後の行動予定が大まかに書かれている。


 今日は長い一日になりそうだ。




新作始めましたにゃ~。

ホルダー戦線~日常と非日常の狭間でホルダー界のランキングを駆け上がる~

https://kakuyomu.jp/works/16817330651455262968

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