163.打つ手なし
広場に入って来たのは触手持ちのカブトガニ。以前、ゴリラ怪獣と戦っていた奴だ。あの時、ゴリラ怪獣は戦いに勝利したけど満身創痍だった。ほぼ互角と見たほうがいい。
俺たちを敵と認識したようで、体の中からウネウネといくつもの触手が現れる。いったい何本あるんだよ!?
その触手が一斉に襲い掛ってくる。ジミーたちが斬り裂き本体に攻撃を仕掛けるが、硬い甲羅に阻まれダメージをあまり与えていない。
「宮毘羅大将!」
幽斎師匠が叫んだのが聞こえ、向こうを見ると太刀を持った武人が現れ、ゴリラ怪獣にその太刀を振るい血飛沫が上がる。が、ゴリラ怪獣は意に介さず幽斎師匠を攻撃。なんとか岩切丸で受けるが後ろによろける。
向こうは一進一退。こちらを構う余裕はない。こちらはこの人数でも劣勢だ。
護衛の竜牙兵も頑張ってくれているが、いかせん触手の数が半端ない。仕方なく俺もムーンスラッシュを振るって斬り裂いていく。
ジミーたちは縦横無尽に動き回り攻撃。竜牙兵は守りに徹している。そう、動いていないのは竜牙兵とその後ろにいる俺。
動き回る敵より動きの止まている敵を狙うのは常道。それに気がつかない俺が馬鹿だった。
触手カブトガニの大剣のような尾が勢いよく振られ、竜牙兵を襲う。竜牙兵は盾で受け止めるが相手のパワーがあまりにも強く吹き飛ばされる。
「がぁっ!?」
もちろん、竜牙兵の後ろにいた俺も巻き添えをくらい。ボーリングのピンのように吹き飛ぶ。
「アキ! ちっ、白蛇王!」
「
「
「
竜牙兵とゴロゴロ転がる中。大きな白い蛇、怖い顔をした犬、黒い麒麟、翼の生えた虎が現れ触手カブトガニに襲い掛かる。ジミーたちのマギか?
なんとか数で押し返そうとするが、やはり分が悪い。
ジミーたちのマギも奮戦するが一体、また一体と触手カブトガニにやられ姿を消していく。
そして、向こうを見れば、幽斎師匠のマギもゴリラ怪獣にやられ姿を消す……。
まじやばくねぇ……?
そしてとうとうゴリラ怪獣の攻撃を躱せず、幽斎師匠がダメージを負ってしまった。
「ぐっ、お前たちだけでも逃げろ……」
逃げろと言われても、俺の近くにいてくれないと月虹は使えない……。
「アレック!?」
アレックが触手カブトガニの触手攻撃を受け吹き飛ばされる。竜牙兵に攻撃を命じて、アレックの元に駆け寄り風月を使う。
「アキ、お前だけでも逃げろ!」
「みんなを置いていけるわけないだろ!」
「馬鹿野郎! そんなこと言ってる場合か!」
くっ……正直、打つ手がない。本当に打つ手はないのか? 武器は全部出した。竜牙兵も出している。今ここで奇人コーエンの魔導書と契約して意味がないだろう。
ん? 魔導書? そういえばもう一冊、禍々しい死者の魔導書というのがあったな。あまりにも不気味で触らなかった魔導書だ。
一か八かやってみるか。
「おい、こんな時に何やってるんだ!」
アレック、ちょっと静かにしてほしい。死者の魔導書を出し手を載せ、俺に力を貸せ! と念じる。
『力が欲しいか? 我が望むは死と闇と復讐。力が欲しくば我と血の契約を交わせ。さすれば終焉の業が授からん』
血の契約? 血を渡せばいいのか?
ナイフで指先を斬り血を魔導書に付ける。
『我は汝、汝は我。我が友なる月の光に包まれる者よ。混沌の闇の海より出て、死出の旅路を見守る我。我と共に我の真体を封じる魔界への叛逆の徒とならん』
うわぁ、なんかヤバそうな内容だ。魔導書が俺の体の中に消えていく。
だ、大丈夫なのか? まあ、それは置いといて、奴らを倒す力を貸せ!
む? 俺の自由空間から溜まっていたいくつもの石骨と理力満タンの魔法石、それに錆びたシリーズの武器が飛び出す。
「アキ、何が起きてるんだ!?」
いや、俺にもさっぱり?
赤黒い魔法陣が浮かび上がり、その中に俺の自由空間から出た物が吸い込まれていく。
なんか、凄く嫌な予感がするんですけど……。
「な、なんて禍々しい氣だ……」
いや、本当にこれはヤバい。冷や汗が止まらない。ゴリラ怪獣よりヤバい奴だ。
赤黒い魔法陣が怪しい光を放ち、何かがそこから這い出して来ようとしている。巨大な骨の手が見えた。
ここにいる全員の動きが止まっている。ゴリラ怪獣も触手カブトガニもだ。全員が魔法陣から這い出して来るものから目が離せない。
背筋が凍るようなおぞましさ気配。いや、実際に周囲の気温が下がっている。吐く息が白い。
魔法陣から這い出してきたのは巨大な骸骨。白い骨ではなく金属のような鈍色。目の部分に真っ赤な炎が煌々と宿っている。
「Guaaaaa!」
今まで幽斎師匠との闘いのなかで、声一つ出さなかったゴリラ怪獣が雄叫びを上げる。そのゴリラ怪獣と触手カブトガニは俺たちを無視して、巨大な骸骨に襲い掛かる。
俺たちはそれを呆然と見ているしかなかった……。
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