159.幽斎宅訪問

「覚えた!」


 ジミーを残月で鑑定すると自由空間スキルを覚えている。そういえば、初めてジミーを鑑定したな。


 ジミー・リン 剣術 体術 棒術 気配遮断 気配察知 氣功 演技 歌唱 交渉 社交 礼法 自由空間 白蛇の加護 武王


 沙羅以上の完璧超人だ……。穴がまったくない。武王ってなんだ? 加護の後ろだから称号か?


 ゲイブウルフ狩りを終え、ジミーを自由空間に入れて残りの三人と横浜観光。終わってジミーを自由空間から出したら、自由空間スキルを覚えていた。


「これで三人も俺がいなくても、自由空間スキル習得の訓練ができるね」


「うへぇ……もう、入りたくねぇ」


「ジ、ジミーが覚えていればいいんじゃね?」


「どうするか迷う……」


 苦労に見合うスキルなんだけどなぁ。まあ、俺ももう一度あの中に入れって言われたら拒否するけどな。


 一日早くジミーが自由空間スキルを覚えたので、明日は竜の大回廊には行かず、幽斎師匠の所に鎌倉観光を兼ねて行くことになった。


 そのまま帰ることになるので、今日で風師匠の家を出る。短い時間だったけどとても濃く有意義だった。


 今夜はお別れ会を開いてくれることとなった。


「国破れて山河在り。不盡ふじん長江滾滾こんこんとして来きたる。此のうちに真意有り。これすなわち人生とは修行なり。ゆめゆめ忘れるでないぞ」


「肝に銘じます」


 最後に風師匠からありがたいお言葉を頂いて宴が幕を閉じた。


 ちなみに簡単に訳すと、国がなくなったとしても山河は今もここにある。尽きることのない長江はこんこんと流れてくる。この中に人生の本当の姿がある。自然は雄大で人間ごときがどうこうできるものでない。だから、人は生きている間はずっと修行しなければならない。ということだ。



 鎌倉に住んでいる幽斎師匠に横浜のお土産はどうかと思うが、一応形式として中華街のお土産を物色して買って行く。


「でかいな」


「いい所に住んでるな」


「日本の探究者シーカーのトップなんだから当然だろう」


「俺も余生はこんな所に住みたいな」


 ジン、あんたまだ若いでしょう! 今から余生のこと考えてどうすんの!


「わふ!」


「にゃ~」


 門を潜って玄関前に着くと、以蔵くんが走ってきてお出迎えしてくれた。


「いらっしゃい。待っていたわよ」


「新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」


「あらあら、あけおめね。もっとラフでいいのに。さあ、入って」


 みんなでぞろぞろと居間に行くと、昼間だってのに幽斎師匠は愛人さんたちとお酒を飲んでいた。


「なんだ十六夜か。あいつらが帰って静かになったと思っていたのにな」


「あらあら、孫が帰って寂しがっていたくせに」


「おまっ……ま、孫は可愛いんだよ」


 昨日まで、幽斎師匠のお子さんの家族が来ていたらしい。


「で、そいつらは?」


 幽斎師匠にジミーたちを紹介する。


「義兄弟ねぇ。そっちのお前はテレビで見たことがあるな」


 ジンは日本でも俳優をしているから、幽斎師匠も見たことがあるようだ。


探究者シーカーなんだろう。まあ、こっち座って飲め」


 愛人さんたちがみんなの席を準備する。みんな席についてビールを頂く。


「まあ、飲め飲め!」


「小太郎ちゃんは可愛いわねぇ」


「にゃ~」


 ジミーたちもすぐに打ち解けて意気投合。天衣無縫というかゴーイングマイウェイというか……。


「なんだ、十六夜はいつもながら付き合いが悪りぃな。天城の奴は朝まで付き合ったぞ」


 ショウさん、朝まで付き合ったんだ……。てか、昼間から飲んでられるか!


「じゃあ、一緒にお買い物に行きましょう」


 ということで、奥様とお出かけ。以蔵くんにリードを付け、小太郎を背に乗せる。


「以蔵ちゃんと小太郎ちゃんは仲良しね」


 そう言って、スマホでパシャパシャと写真を撮りまくる奥様……。最近、SNSに以蔵くんと小太郎の写真を載せてフォロワーを増やしている。驚きのフォロワー数になっているから恐ろしい。


 駅前まではハイヤーで移動し散策しながら買い物。


 奥様に腕を組まれ道を歩いていると、若い女性たちに何度も写真を撮らせてくださいと声を掛けられる。もちろん、対象は俺ではなく小太郎と以蔵くんだ。


 キャッキャウフフと楽しそう。悔しくなんかないんだからな!


 奥様の行きつけの喫茶店でも小太郎と以蔵くんは人気者。ほかのお客さんから猫用ミルクと犬用ミルクを奢ってもらっている。聞けば、このお店は常時犬猫用のミルクを完備しているそうだ。まあ、ペット可のお店だからな。


 奥様の買い物が終わると、なぜか俺の服選びのためにお店を梯子。もっと明るい色の服を着なさい、だそうだ。


 旅行に行くときに沙羅が選んだ服もあるのに、これ以上は必要ないというと、


「そんなことを言ってると、彼女に見放されるわよ」


 と言われる。


 沙羅に見放されるのは困るな。ここは奥様の見立てにお任せしよう。


 結構な量の服を買ったので、お金を払おうとしたらプレゼントすると言われた。好意を無にもできないので恐縮しながら受け取った。代わりに別のレディースのお店でカシミアの手袋を買ってプレゼントしたら凄く喜んでくれた。


 両親や祖母が健在だったらこんな感じになっていたのかな。






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