スメラミクニラビリンス～月読命に加護をもらいましたがうさぎ師匠には敵いません～

158.三思考

　ゲイブウルフから間合いを取り打己棒を前に出し構える。ゲイブウルフ二頭も何かを感じたのか唸り声を上げるがかかって来ない。代わりに、挟み撃ちにしようと位置取りをしている。

　俺の戦い方はカウンターからの一撃必殺。所謂、後の先というやつだ。先の先や先々の先のほうが格好がいいのだが、今の俺にはそれだけの技量と経験が不足している。なので、相手の動きを見てからの攻撃になる。

　落ち着け。相手は俺と同等か何度も戦ったので格下になったかもしれない。ただ倒すだけなら余裕で倒せる。問題は二頭を同時にしていること。

　考えろ。どうすればいい？　ジミーたちのように感覚で氣を感じ対応するには経験が不足。経験が不足しているなら経験すればいい。

　でも、どうやって？

　足りない経験を補うには、人より多くの経験を積むしかない。当たり前のことだが、それは凄く難しいことだ。普通ならばだ。

　俺にはそれができる可能性がある。

　そう、並列思考だ。今は二思考で止めているが、これを三思考、四思考と増やせばその思考回数分経験したことになるんじゃないのか？

　以前、三思考を行なった時に頭痛が起きた。まだ、慣れていなかったからだと思う。今は普段でも二思考使うようにしているので、何も意識しなくても使えるようになっている。

　レベルもあの頃より上がっている。試す価値はあるんじゃないだろうか？

　打己棒に一思考、錆びた剣に一思考、相手の氣を探るのにもう一思考。少し頭に痛みがはしるが我慢できない痛みではない。四思考はまだ無理そうだ。

　だがこれで、人より三倍の経験を積めることになる。

　打己棒は棒法で身を守りつつ相手をけん制。錆びたけんは……これも棒法を使ってみるか？　棒じゃなきゃ駄目ってわけじゃないしな。刃の付いた棒だと思えばいい。

　打己棒、錆びた剣両方にゲイブウルフ二頭に合わせ氣を纏わせる。

　さあ、準備ができた。かかって来い！

　俺の気合が入った瞬間、俺の氣が変わったことに気づいたゲイブウルフ二頭が仕掛けて来る。

　打己棒で相手の重心をずらし、そのまま打己棒で掬い上げ投げる。と同時に錆びた剣でもう一頭が前脚で攻撃してきたところを棒法で受け流す。

「動きが変わったな」

「防御に徹している？

「違う。両手で棒法を使っているぞ」

「アキ、まじ器用……」

　面白い！　が、難しい。片方ずつ、別々に棒法を使い、氣を相手に合わせる。ここまでは何とかなる！　問題はここからだ。せっかく棒法で相手の態勢を崩したのに、そこからどう刀の攻撃をしていいかいまいちわからない。

　棒法と刀は違いすぎる。いや、そうか？　剣で棒の真似をしているんだから、その逆だってありじゃね？

　棒法にも攻撃技は少ないがある。その攻撃技をなぞり、実際の攻撃方法は刀にすればいいのか？　まあ、駄目もとだやってみよう。

　打己棒側は同じくけん制に徹し、錆びた剣で相手をいなし、首元を打ちつける技に持っていく。

　刀は本来両手持ちだが、異界（アンダーワールド）はレベルの恩恵があるので、刀で斬るということを意識して錆びた剣を振るう。

　もちろん、首に刃があたる瞬間に氣を少しだけ相手より強くするのは忘れていない。

　もう一頭を打己棒で空中に跳ね上げ、錆びた剣で一閃。ドサッと頭と胴が離れ、絶命したゲイブウルフがそこにある。

「いい動きだった」

「左右で違う技を使っていたよな？」

「最後の一撃だけ技なしだった。あれは刀技になるのか？」

「最後の一撃は鋭かったな。あれは俺たちでも受けるのは至難だろう」

　二頭相手だから両手で別々の棒法の技で対応して、そこで作った隙に刀の斬撃の要領で倒したと教える。

「左右互縛術か……」

「複雑に物事を考えるタイプは覚えられないって技だな。だが絶技には違いない」

「自ら編み出したってことか？」

「アキは単純な性格だから」

「にゃ～」

　褒めているのか貶しているのか……。だから小太郎、肯定するな。

　それに単純だからじゃない。これは並列思考スキルあっての技だ。本来のその技は並列思考スキルなしでやるのだから、絶技と呼ぶにふさわしいのだろうが、俺のは偽物だ。敢えて言うつもりはない。

　ニッキーが技なしと言っていたが、新陰流にも技がある。だけど技というより心構えや足さばきなどが多くだ。中国武術のように剣同士を交え合って斬り合うなんて技はない。

　そんなことをしたら刀を駄目にする。斬り合わず一撃で決めるのが理想なのだ。刀技は相手を殺すための技、どんなに活人剣などと綺麗ごとを言ったところで、所詮は人殺しの技でしかない。技があったとしてもなかったとしても、必殺こそが極意だろう。

　その後も、この感覚を体に覚え込ませるため、何度もゲイブウルフ二頭と戦う。何度目かにレベルアップ！　月城を覚えた。

　月城　防御力アップ 二割五分増し　三分　時間はレベルに依存。宵月の防御版だな。自分自身で試すのは怖いので、後ではにわくんに使って試してみよう。