150.PV出演

 月曜に沙羅に昨日のことを報告。天水祖父から話を聞いていたようでプンプン怒っている。


 詳しい話し合いはこれからだが、落としどころは見えてきた。魂石代は政府にくれてやる。代わりに交易では口を出させない。


 そのために会社を設立し人材も集めないといけない。信用できる人間が必要だ。そこら辺は天水祖父と相談になるだろう。できれば、ジミーたちにも協力を仰ぎたい。この国の政治家は信用できないからな。俺を家族として受け入れてくれたジミーたちなら間違いない。



 水曜、今日は午前中しか講義のない日。講義終わりに友人たちとロッカーに寄ったら、俺のロッカーを物色している奴と出くわした。俺たちを見て逃げ出そうとしたが、友人たちが取り押さえてくれた。

 

 そこからが大変だった。大学側は名前に傷がつくので、警察沙汰にしてほしくない。だが、おそらくこいつには余罪がある。以前、ロッカーを荒らしたのもこいつかもしれない。もしかしたら、共犯者もいるかもしれない。


 大学側と話し合いが始まった。取りあえず、沙羅に小太郎を預けることにした。


「弁護士さん呼ぶ?」


「保留で。話しを聞いてからお願いするかも」


「わかった」


 捕まえた奴は別室で事情聴取されている。俺のほうは相手に対してどのような処置を望むか聞かれた。


 正直、どうでもいいのだが、なあなあにするとまたこの後も同じようなことが続くのではっきりさせないと駄目だろう。実際、今回で二度目だからな。


 なので、まず理由の解明。それと、大学側の対処を明確にして欲しいといておく。大学側の対応によっては、弁護士を呼んでの警察介入をしてもらうと言っておく。


 大学側の担当者は顔を引きつらせていたが了承した。後日、話し合いが行われることになった。


 沙羅に連絡して小太郎を引き取る。沙羅はこの後道場に用があるらしく、話はあとで聞かせてねと言って帰っていった。


 もう、夕方だ。俺も帰る準備をして校門に向かうと、校門前が騒がしい。人だかりができている。嫌な予感がする。まさかな?


「アキ!」


 はははは……やっぱりだ。今日はイベントが多いな。


「来るならメールくれ!」


「「「「サプライズだ!」」」」


 サプライズ過ぎるわ!


 そう、今週来るとは聞いていたジミーたちが、ショウさんと一緒にいた。


 アレックとニッキーの新曲のプロモーションビデオとミュージックビデオを、日本の有名音楽プロデューサーがプロデュースするということで来日すると聞いていた。


 まずは、場所を変えよう……。


 いつぞやの喫茶店に移動。


「今日はサラちゃんはいないのか?」


「今日は習いごとで早めに帰った。冬休みの間に氣の修行をするらしく、そのための事前準備みたいで忙しいらしい」


 ジミーが聞くので答えた。沙羅も早く氣を身につけたいようで、毎日のように道場に通っている。竜の大回廊でアント系と戦い、己の実力不足を痛感したらしい。


 俺的にはまったくそんな感じはしなかったのだが、沙羅と俺とでは見ている世界が違うのかもね……。軍神だし。


「日本はガキの頃から氣の訓練はしないのか?」


「心技体は重んじるけど、氣は奥義の類になるから認められた人しか教えてもらえない」


 ジンがうんうん頷いている。ジンは日本人とのハーフだから、経験があるのかもしれない。


「アレックとニッキーはなんで日本でPVとMVを作る気になったんだ?」


「プロフェッサーが承諾したくれたんだ。前からオファーはしてたんだが、ずっと忙しいと断られていてんだけど、今回の新曲でやっと受けてもらえた」


 プロフェッサーかぁ。芸能に疎い俺でも知っている有名人だ。自身も世界的に有名なミュージシャンだけど、音楽プロデューサーとしても引手あまたの人だ。


「ジミーとジンは?」


「もちろん、俺たちも出る。アキもな」


「はっ?」


 今なんて言った? 俺も出るのPVに?


「今回のPVとMVで、アキが俺たちの兄弟だと世界に知らせる意味もある」


 一応、林家の伝手で俺が風師匠の弟子になったことは、世界中の華僑に伝えられている。その話を裏付けるために、PVとMVでお披露目するのも目的の一つらしい。


 まじですか……。なんて壮大な計画。


 なので、俺が出る部分を今週から今年いっぱい、土日祝日を使って撮影するので、休みなしの強制参加になるそうだ。おいおい……。


 スケジュール表と絵コンテを渡される。武侠映画っぽいパートと現代のパートに分かれている。ワイヤーアクションもあるみたいだな。そのために、台湾からスタッフも呼んでいるそうだ。


 スケジュールを見ると明日からは大学が終わり次第、打ち合わせや衣装合わせ演技指導に入る。まじですか……。


「まあ、明日からは地獄だが、今日は再開を祝して飯を食いに行くぞ!」


 以前、沙羅と行った料亭を予約しているみたい。もう、一見さんじゃないから問題なく予約が取れたそうだ。


 ショウさんも誘ったが断られた。帰りはタクシーで帰るようにきつく言われた。先週の財務省の会議のことがあるので、馬鹿なことを考える奴もいるからだと言っていた。


 食事を楽しみながら他愛もない話をしているなか。アレックから質問される。


「なあ、あのショウって奴、アキの護衛だろう? そんなにまずい状況なのか?」


 さて、どう話そう。ジミーたちは俺の家族だ。貴子様からは、詳しく話さないでと言われているが、すでに台湾側には情報が流れていると思う。


 どうせ、巻き込むつもりなのでここで話してもいいだろう。小太郎にマグロのお刺身を食べさせながら話をした。


「前に異世界人と接触したことは話したよね。あれからいろいろあって異世界との取り引きを始めたんだ」


「取り引き?」


 魂石のことや武器防具のこと、先週の会議のことも話した。


「それで青丐幇が出てきたのか」


「日本も一枚岩じゃないから、情報が洩れている。おそらくほかの国にもね」


「しかし、そこまで騙されていたのか……。おそらく、世界中の国々も同じだろう。異世界の取り引き相手は同一国なんだろうな」


「世界の国々が目の色を変えて、アキの争奪戦をしてもおかしくないな」


 バレたらそうなるよねぇ。だからこそ、魂石の件は国に任せる。外交の札として好きに使ってくれ。


「大丈夫なのか?」


「捕まったとしても、逃げる手段はある。人質を取られると弱いけど」


「逃げる手段?」


「転移が使える」


「追い詰められているな。頭。大丈夫か?」


 俺は正常だ。失礼だぞ! ニッキー。まあでも、そう思うのは当然か。下宿先の部屋に一度転移して、すぐに戻る。


「「「「マジもんかよ……」」」」


「今度、凄い所に連れて行ったやる! 絶対に驚く場所だ」


「それ以前に、なんでこっちでアビリティーが使えるんだよ!」


 ジンの言うことはごもっともだが、


「知らん」


「「「「知らないのかよ……」」」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る