149.競合

 考え込む総理。画面外に誰かいるようで、こちらに聞こえない小声でそちらと話をしている。しばらく相談していていたが、どうやら何か決まったようだ。


「では、こうしよう。桐生官房副長官と十六夜君の二つのチームに分けよう」


「どういうことです! 総理! 話が違う!」


 おうおう、仲間割れか?


「桐生官房副長官。話が違う? いや違わない。君の御父上に頼まれたとおりチームを任せるのだよ。君たちが今まで培ったコネクションの対応をしてもらう。自信があると言っていたではないかね? その自信を存分に発揮したまえ。情報は共有させるので安心するといい」


「馬鹿な……話が違う……」


 邪魔になったから、トカゲの尻尾切りか? 総理も所詮は政治家。汚いことも平気でやる人種だ。信用も信頼もできないな。


「十六夜君のチームのリーダーは……貴子様にお願いできないだろうか? 十六夜君と官僚の間に入ってもらえれば、円滑に物事が進むと思いますがどうでしょうか?」


「わかりました。お引き受け致します」


「それでは、桐生官房副長官のチームを財務省に、十六夜君のチームを宮内庁特別異威対策室に分室として置くとする」


 まあ、今までどおりでやりやすい。


「アドバイザーとして大村統合幕僚長もどうかね?」


「それでしたら天水特将補を充てましょう。公私ともに知り合いのほうがよいでしょう。どうかね、天水特将補」


「はっ、承知しました」


「では、今後の成果に期待しているよ」


 そう言って画面がクローズした。



 貴子様、大村統合幕僚長。幽斎師匠、天水祖父と省内にあるイタリアンレストランでお茶を飲む。っていうか、イタリアンレストランがあるんだ……。


「なんとかなったのかしら?」


「そう簡単にはいかないでしょうな。今回は総理に借りを作った形ですから」


 借りねぇ。どちらかというと、真実を教えて自滅を防いでやったんじゃないか? どう見ても、貸しじゃね?


 大村統合幕僚長、小太郎を膝の上に乗せてコーヒーを飲んでいる。猫好きらしい。


「ほかの政治家どもも黙っちゃいねぇぞ?」


「それはお前が目を光らせておけ」


「ちっ……俺の勘どおり、十六夜に関わると面倒ごとに巻き込まれ、碌なことにならねぇ」


「面倒ごとついでに、弟子にしてくれませんか?」


「断る」


 ちっ、勢いで承知すると思ったのに。


「今日は本当にありがとうございました。無事、乗り切られたのも、みなさまのおかげです」


「気にする必要はない。これから君には頑張ってもらわなければならないのだからな。このくらいは当然のことだよ」


 大村統合幕僚長にいい笑顔で肩を叩かれる。速く装備品を持って来いと。今、俺は引きつった笑顔を見せていることだろうな……。


「実際のところどうなのかね?」


「こちらの協力者は商人です。国にも顔が効きます。商売さえ上手くいけば、魂石の交換くらいなら無償でやってくれますよ。我々のメインは交易ですから」


「無償かね? どのくらいになるのかね?」


 貴子様を見ると頷くので話していいのだろう。


「こちらのお金で換算した額で話しますね。今現在、探究者シーカーから満タンになった魂石を国が十万で買い取り、異世界人はそれを十四万で買い取っています。我々のほうは無償で五十万で買い取りできます」


「いったい、どれだけの金額がぼられていたんだってやつだ。無能にもほどがある。やれやれだぜ」


 国が十万抜いても四十万。今の四倍の収入になる。収入がよくなれば探究者シーカーになろうという人も増えるだろう。


「それにしても、この子がマギとは……めんこい子猫にしか見えんな」


 めんこい? 大村統合幕僚長は東北出身かな? まあ、猫好きに悪い人はいない!



 今後とも綿密に連絡を取り合おうということになり、今日のところは解散。俺たちは特対室に戻って来た。


 ショウさんがソファで爆睡。貴子様、苦笑い。肩をゆすって起こす。


「ん? 帰るか?」


 まあ、そうなんだけどね。


「俺は今日、どこに泊まればいいんだ?」


「都内にホテルを取っていますので、ゆっくりお休みください」


「せっかく来たんだ、飲みに出る。案内を付けてくれ」


 貴子様の目がショウさんに向く。


「いいですけど、俺の分も経費で落ちますよね?」


「わかりました。ですが、宿代は別です」


「了解です! 朝までお供します」


 即答だな。宿に泊まらず朝まで飲めばすべて経費になる。いいのか、自衛隊?


「おっ、話がわかるじゃねぇか。十六夜はどうだ?」


「俺は学生ですよ。明日は講義があります。大人の悪の道に誘わないでください」


「ちっ、付き合いの悪い奴だ」


「賢婦人に写真送ろうか? なあ、小太郎」


「にゃ~」


「わ、悪かった。見逃してくれ……」


 そこまでなのか? 日本で五本の指に入る実力者なんでしょう? もしかして、奥様がトップなのか!?


 それはさておき、チームの準備ができたら連絡をくれるそうだ。そこでもう一度、詳しく話し合いをすることになった。


 ある意味、今日はまったく話が進まなかったからな。


 今度は実りある話し合いを持ちたいものだ。







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