148.総理参戦

「君たちはなにか勘違いしているのではないか? これまでその未開の野蛮人に、君たちは手も足も出なかったのだよ」


「ですから、今回は負けられないのです!」


 勝ち負けの問題か? それはあなたたちのプライドの問題では?


「お前ら阿保か? 交渉に勝って相手の怒りを買い、攻められたらどうするつもりだ?」


「野蛮人に負けるとでも?」


「なら、おまえらが先陣をきればいい。銃の効かない相手にお前らが勝てるのなら」


「それはどういう意味だ?」


 ガマガエルが喋った!? 冗談です……。


「そもそも、お前ら間違ってることに気づいてねぇな?」


「私も聞きたい。異世界人に攻められると我々は負けるのか? 幽斎」


「十六夜、説明しろ」


 説明が面倒と思ったか、俺に振りやがった……。


「今我々がしなければならないのは、交渉に勝つことではなく、不平等をなくすための信頼関係を築くことだと思っています。ですが現実を知らないのは無知蒙昧でしかない。これから話すことは、異界アンダーワールドを経験し異世界人と話をした経験のうえでの、憶測の範囲ということをご了承ください」


「待ってください!」


 ガマガエルの秘書が部屋に飛び込んできた。


「総理がこの会議に参加されるそうです!」


 財務省の人が慌ただしく機器を設置。テレビ会議のようだ。ここに来るのかと思った。


 ガマガエルが電話をしている。相手は総理なんだろう。


 その間に大村統合幕僚長と天水祖父にお昼に幽斎師匠と貴子様に話したことを掻い摘んで話しておく。どうせ、この後、説明させられるのだから。


「ますます、財務省に主導権を握らせるわけにはいかなくなったな。この世界の外威だけでなく、異世界からの防衛も考えねばならぬか」


 準備が整ったようだ。大きなスクリーンにテレビでよく見る顔がある。


「お久しぶりです。貴子様。ご息災でしたでしょうか」


「ええ、総理はいかが?」


「忙しい毎日を過ごしておりますが、丈夫に産んでくれた両親のおかげで快調です」


「それはなによりです」


 始めて、皇族らしい貴子様を見た。に、睨まないでくれます? 貴子様。


 この後、大村統合幕僚長と挨拶を交わし、話が再開する。


「十六夜と言います。これから話すことは憶測の範囲の域を出ませんが、当たらずとも遠からずだと思っています」


 そして、説明。


 最初は野次が飛んでいたが、話を進めるほど水を打ったように静かになる。


 脅威を感じるというより、あり得ないという感じだ。現実を知らない弊害だな。所詮、官僚。机でPCから情報を得るだけなのだろう。


「大村統合幕僚長の意見を聞きたい」


「総理、私より適任な者がおりますので、そちらからご説明させましょう」


 そう言って、天水祖父を見、天水祖父が頷く。


「天水特将補であります。特殊方面総監部幕僚長を拝命しております。僭越ながらご説明させていただきます」


 天水祖父が簡単に異界アンダーワールド探究者シーカーを説明。前の大戦でほとんどの資料が紛失したこと、人材が失われ他国より後進国であることなど、この国の現状を話す。


 話すということは、総理は詳しくしらないということ。ついでに、財務省の官僚にも聞かせているのだろう。


探究者シーカーに関しては河上彦一郎先生がおられますので、先生からご説明願えないでしょうか?」


 幽斎師匠が嫌な顔をして俺をみるが首を振る。駆け出しの俺が説明しても説得力に欠ける。


「河上だ」


「お初にお目にかかります。先生のお噂はかねがね」


 さすが、幽斎師匠。総理がへりくだった。


 そこからスキルのこと、マギのこと、アビリティーのこと、銃が強い怪異モンスターに効かないことを話す。


「まあ、異世界の奴らがこちらに来れば、俺たちと同じようにスキルやアビリティーを使えなくなるかもしれんがな」


 それは、甘い考えだと思う。俺や小太郎はこちらの世界でもアビリティーを使える。マーブルは猫化というスキルを使っているからな。


「それに、奴らの持つ武器は脅威だ。武器防具はこちらでも能力を発揮すると聞いている。銃の弾を弾く鎧や盾。鉄を紙のように斬り裂き、おとぎ話に出てくる魔法のような効果を出す武器。重火器を使えばダメージを与えられるのかもしれないが、膨大な被害を受けるのはこちらなのは間違いない」


 武器防具もだけど本当に恐ろしいのはポーションや回復魔法だと思う。


 回復ポーションはこちらの世界でも使用可能だが、異界アンダーワールド内で使うほどの効果を示さない。それに例え異界アンダーワールド内であっても傷口が塞がる程度の効果だ。


 それでも十分に凄い効果なのだが、異世界にはもっと効果の高いポーションが存在している。それを豊富に使えるなら、ある意味不死身軍団の出来上がりだ。回復魔法も然り。


「総理は超人と戦いたいのか?」


「そこまでなのかね?」


「これでも引退はしたが、俺は名の知れた探究者シーカーだ。強さでいったら、この国では五本の指に入ると自負している。その俺でも異界アンダーワールドには手も足も出ない怪異モンスターがわんさかといる。そんなのを相手にしてる奴らだぞ?」


 全員がそうとは言わないけど、この国の探究者シーカーの数に比べたら遥かに多いだろうな。


「あんたらの持つコネクションと、十六夜が持つコネクションは仲が悪いそうだが、敵の敵は味方だぜ? 同世界の人間同士なら、尚、手を組みやすい」


「……」


「交渉の勝ち負けに拘る馬鹿どもに、総理は国運を預けるつもりか?」


 もっと言ってやれ! 幽斎師匠!


「異世界だけではない。異世界の武器が同盟国ならまだしも、別のルートで共産主義やテロリスト国家に渡った場合、対処可能かどうかも怪しいですな」


 大村統合幕僚長から援護射撃が入る。統合幕僚長だけあって気を見るに敏!


 総理も財務省も唸る。寝耳に水だろう。おそらく、俺を脅してすべてを奪い取れば、すべてが上手くいくと楽観視していたに違いない。本当に日本の政治家は三流、四流の危機管理のない奴ばかりだ。


「これは完全に国防の範疇。もはや財務省のくだらない出世争いの道具にするわけにはいかない案件ですな。如何するおつもりで? 総理」


 さて、どう出てくるかな?







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