147.開化の間抜け人

 秘書が副官房長官の耳元で囁く。


「統合幕僚長……なんでそんなのがいる……」


 聞こえてますよー。


「副官房長官こそどうして、ここにおられる?」


「あー失礼、統合幕僚長殿。今回の件を総理より一任されている。統合幕僚長殿こそどうしてここへ?」


「十六夜君とは天水特殊方面総監部幕僚長との繋がりで知り合いでね。今回の件を相談されて国防に関わることであるので、貴子様に無理を言って参加させてもらった。探究者シーカーとしてのアドバイザーとして、河上彦一郎殿も呼んでいる」


「というわけだ、ガマガエル。親父によろしく言っとけ」


「父をご存じで……?」


「何度かケツを拭いてやってる」


「……」


 黙ったね。


「それで、なにか問題でもあるのかね?」


「さ、先ほども申し上げましたが、この会議は機密保持が厳守ですので、認められません」


 司会だろうか? ビビりながらも言い切った。


「それは事前に話が合ったのかね? 十六夜くん」


「いえ。この話し合いも朝聞きました」


「財務省は準備万端整えておきながら、こちらにはアポイントメントさえ取らない。これが財務省のやり方かね?」


「……」


「まあいい。十六夜くん。しまいたまえ。話が進まん。それに我々がいるのだ、馬鹿なことはしないだろう」


「わかりました」


 副官房長官の秘書が額から汗を垂らしながら部屋から出ていく。どこかに連絡でもするつもりか?


「始めたまえ」


 大村統合幕僚長の一言で騒然とした会議室が静かになり話が再開される。


 大宮駐屯地で迷宮が発見されたことから、俺が異世界人と会った経緯などが話される。これに何の意味があるんだ? 当事者なんだから知っている。


 次に俺が異世界人から買ったものについての説明。んなことも知ってる。こいつら馬鹿か?


 次に俺の経歴がべらべらと話される。俺が忘れていたことまで説明。よく調べたものだと思うほどの内容だ。個人情報保護はどこ行った?


 風師匠の弟子になったことまで出てきた時には、驚きより呆れてしまったほどだ。


「以上の内容を踏まえ、十六夜氏がこの案件に加わるの不適格と判断しました」


「よくわからないが、それでどうするつもりだね? 国が持つ異世界のコネクションより 十六夜君の持つコネクションのほうがいいのは、今の説明でもわかるように明白だが?」


「ですので、十六夜氏には早急にすべての情報開示をしていただき、速やかに異世界人と我々との引継ぎを行なってもらいます。そのコネクションを我々が引き継げば、更に有益な取引ができるでしょう」


 なに言ってんだ、この人? それに、なんかこの役人、自分の言葉に酔ってない? 典型的なお馬鹿か?


「それで、十六夜君への対価はどうなるのだね? それ以前に相手はそれを良しとするのかね?」


「もちろんそれ相応の対価はお支払いします。相手側でもなんの権力を持たない若者より、我々、政治のプロが相手のほうがやりやすいでしょうから」


 うわぁー、話にならない。何様だよ。エリート官僚なんてこんなものか。


「それは財務省の総意かね? 総理も認知しているのか?」


「私が許可した」


 ガマガエル……もとい、副官房長官が言う。


「だそうだが?」


「事前に伝えていますが、相手の条件は俺が窓口になることです。俺を排除すれば無理じゃないでしょうか」


「なぜだね?」


「それだけの信頼関係を築いたと言っておきます。もちろん、俺も人間ですから対価次第では橋渡ししても構いません。相手がどうするかは責任持てませんが」


「だそうだが? 対価はなんだね?」


 大村統合幕僚長はこの話が決裂すると思っている。そんな感じがする。幽斎師匠は欠伸してるな。


「ですからそれ相応の対価をお支払いします」


「だからそれは? 財務省や総理は口約束で済ませる気かね? 君たちは舐めているのか? どうなのかね? 副官房長官殿」


「三億やる。それで文句あるまい」


「と言っているが?


 大村統合幕僚長、なんだか楽しんでる? じゃあ、俺もそれに乗るか。


「話になりません。あなたの持つ総資産額でなら話を聞きましょう。総資産ですからね?」


「き、貴様……図に乗りやがって……」


 だから、聞こえているって。


「と、取りあえず、向こうの方と合わせてください」


「拒否します」


「あなたは国益を損なわせるつもりですか! これは国民の義務ですよ!」


 教育、勤労、納税が三大義務と言われている。どれにも当てはまらないぞ。まあ、当てはまったとしても、国がこれらを義務として国民に課すのはおかしいという意見もあるけどな。


「国益と言うが君たちは今までなにをしていたのだね? 相手に足元を見られ、こちらの要求はまったく通らない状況。改善の余地さえなかったではないか」


「ですから、新たなコネクションができれば、こちらが切れる交渉の手札が増えます。それにより、こちらに有利な交渉を進めることができるのです」


「そして、両コネクションを怒らせ信頼を失い。自滅かね?」


「手札が増えれば未開の野蛮人に負けることはありません!」


 未開の野蛮人ねぇ。未だにこういうことを平気で言う人がいるんだ。


 じゃあ、あなたたちは開化の間抜け人だな。







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