146.助っ人その二

 豪華な昼食を堪能して、お茶で一服。


「それより十六夜、報酬忘れんなよ」


 しょうがない、幽斎師匠の前に金剛の魔槌、疾風の槍、岩切丸、炎の魔剣(劣化版)を出す。ムーンスラッシュは俺の切り札なので出さない。


「好きなものを差し上げます」


 各武器の性能を教える。比較として俺の持つ興亜一心刀の性能も教える。


「化け物だな。異世界ではこんな武器が溢れてるのか……攻め込まれたら、現代武器でも不味いんじゃねぇか?」


 そこなんだよね。異界アンダーワールドの中では現代武器はあまり有効ではない。その異界アンダーワールドの延長上にいる異世界の人に現代武器が通用するのだろうか?


 武器だけじゃない、防具だってこちらの世界のものより性能がいいのだ。こちらの攻撃がまったく効かなく、無双する強者もいるかもしれない。


「十六夜の取り引きは国防にも関わってきそうだな」


「そこまででしょうか? 河上先生」


「そこまでだ。こちらの武器が通じない以上、同等の武器が必要になってくるのは必然だぜ。言っとくが、異世界だけの話じゃねぇ。これらの武器をテロリストや戦争好きな国が持ってみろ、どうなるかは予想できるはずだ」


 銃が効かず、戦車を剣で斬る兵士。危険だ。漫画やラノベの中に出てくる超人だな


 気まずい雰囲気の中、財務省に移動。ちなみに幽斎師匠は岩切丸を選んだ。理由を尋ねると、


「恰好いいじゃねぇか!」


 だそうだ。



 途中、電気屋に寄ってもらってから財務省に着くと、もう一人の助っ人からスマホに着信が入る。向こうも間もなく到着するらしい。


 財務省ロビーで待っていると制服姿の二人が入って来た。


「お忙しいところ、申し訳ありません」


「気にすることはない。前にも言ったが君の後ろ盾になると言ったはずだ」


 天水祖父はそう言ってくれるけど、早々簡単なことではない。沙羅に電話してなんとか捕まえてもらったのだ。


「そちらの……」


「久しぶりじゃねぇか。大村」


「幽斎、お前も来ていたのか」


「大馬鹿者に呼び出されてな」


 だから、大馬鹿者じゃないです。それより、幽斎師匠の知り合いか? なんか天水祖父より偉い人に見える。


「大村統合幕僚長だ。十六夜くん」


 統合幕僚長? 自衛隊のトップか!?


「大村だ。幽斎を呼びつけるとはなかなかの大物だな。私が呼んでも来ないこいつなのにな」


「恐れ入ります。十六夜聖臣いざよいあきおみと言います。私の力ではなく、幽斎師匠の哲婦殿のお力をお借りししました」


「なるほど。ご内儀か。昔から頭が上がらんからな」


「うるせいぇ」


 貴子様と大村統合幕僚長は顔見知りのようで軽く挨拶をしていた。


 財務省職員の案内で案内された部屋は大きな会議室。


 机がいくつか並べられていて、その前にポツンと一つ椅子が置かれている。面接会場か!? 威圧する気満々のようだ。


 みなさんが座る場所がないので立って待っていると、スーツ姿の財務省の役人らしき人たちが、ぞろぞろと入って来る。おいおい、何人いるんだよ! 俺一人に対してこの人数か?


 悪意が見え見えだ。


「我々の座る場所がないようだが、どういうわけだ。人を呼びつけておいて、このざまか?」


 太く重い大村統合幕僚長の声が部屋に響く。


 この場に来るくらいなのだから、財務省の中でもエリートなのだろうが、さすがに自衛隊の統合幕僚長の顔までは畑違いで知らないようだ。


 貴子様がそのエリート連中のなかでも偉そうな人に耳打ちをすると、急に青褪めた顔になる。


「し、失礼しました! すぐにご用意いたいます!」


 エリート総出で配置換え。ご苦労なこって。


 机が対面に並ばれ、やっと席に着く。俺が真ん中、右に大村統合幕僚長と幽斎師匠、左に天水祖父が座る。


 貴子様は俺たちのずっと後ろに、小太郎をモフモフしながら座った。発言権はないってことね。


 全員が席に着いても始まらない。急遽、用意されたお茶のペットボトルを飲んで待つ。しばらくすると二人の男が入って来た。一人はテレビで何度か見たことのある政治家だ。もう一人はその秘書だろう。


「それでは始めさせていただきます」


 財務省側から一方的に宣言される。こちらの都合はどうでもいいらしい。


 机の上に見えるように、電気屋で買ってきたボイスレコーダーを置き録音スイッチを入れる。


「それはなんです?」


「ボイスレコーダーですけど?」


「機密保持のため禁止事項に抵触しますので、速やかに電源を切ってください」


「そんな話は聞いていませんので拒否します」


 会議室が静まりかえる。まさか、拒否するとは思わなかったのだろう。


「おい、その馬鹿から取り上げて、さっさと進めろ!」


 と、政治家が言えば、


「おうおう、どっかのガマガエルがほざきやがる」


 幽斎師匠がやり返す。


「貴様、誰に言っている!」


「君も口の利き方に気をつけたまえ、桐生副官房長官殿」


「誰だ? あぁん」


 これがこの国の副官房長官なのか? どう贔屓目に見ても堅気じゃねぇよ!





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