142.蟻

 もう、無視することにした。俺には俺の戦い方がある。マーブルたちを楽しませるために戦っているわけじゃない。


 沙羅は苦笑いを浮かべている。どっちに対してだ?


 まあいい、さっさと進もう。今回の目的は五階層のモンスターだ。オーガは訓練にはいいが、防具の素材にならない。俺たちの目的は防具の素材集めだ。


 一度はにわくんを召喚し直し、オーガを倒しつつ下の階層に続く道を探す。階層の広さからいえば、俺たちの迷宮のほうが今のところは広い感じがする。下層に続く道も見つけやすいような気がする。


「竜の大回廊は十階層からが本番にゃ。それまではお遊びにゃ」


「十階層にボスっているのか?」


「竜の大回廊は二十階ごとにボスがいるにゃ。たまに突然発生する隠し部屋にもボスがいるにゃ。ボスは強いにゃ。あきっちたちではプチっと潰されるにゃ」


「でも、マーブルはそこを通って五十階層まで行ったのよね?」


「あちきは逃げるのは得意にゃ! 竜の大回廊で一度も戦ってないにゃ」


 一度もかい!? 


「ボス部屋はどうしたんだ?」


「普通に通り抜けたにゃよ?」


 通り抜けられるんだ……。


 そうこうしていると五階層に続く道を見つける。


「五階層のモンスターはワーカーアントが出てくるにゃ。弱点は頭にゃ。胴体は硬いから注意にゃ。そして、厄介なのが不利になってくると仲間を呼ぶにゃ。偶に上位種が出てくるから注意にゃ」


「上位種も弱点は頭なの?」


「そうにゃ。アント系の弱点は頭にゃ。それと上位種は酸を吐いてくるから気をつけるにゃ」


 俺と沙羅は盾を使わないから躱すしかない。はにわくんは腕にバックラーが付いているけど、もうボロボロだ。まあ、酸が掛かったとしてもはにわくんにはたいして問題はない。装備している鎧のほうが心配だ。


 俺は刀をしまい金剛の魔槌を手に持つ。金剛の魔槌には武器防具破壊がある。大いに役立ってくれることだろう。


「アント系は必ず複数で行動するにゃ。倒すなら仲間を呼ばれる前に素早く倒すにゃ」


 マーブルからの指示が飛ぶと、向こうからモンスターの気配を感じる。道幅は五メートルぐらい複数を相手にするには不利か?


 ワーカーアントが姿を現し、沙羅とはにわくんが走り出す。ワーカーアントは四体いるようだ。二列に並んで動いている。これだと後方のワーカーアントに仲間を呼ばれそうだ。


 集団戦だとやはり通路で戦うのは無理があるな。前に二人が出ると手の出しようがない。弓を使ってもいいがそこまで腕がいいわけではないので フレンドリーファイアが怖い。


 小太郎が後方のワーカーアントに焔で攻撃するが致命傷にはなっていない。


 沙羅とはにわくんが前にいるワーカーアントを倒したが、予想どおり後方のワーカーアントが金切り声のような音を出し仲間を呼ばれた。


「このままだと不味い。一旦広い場所まで下がるぞ!」


 指示を出して下がらせる。倒した二体はもったいないが仕方がない。足止めのためのバリケードになってもらう。


 広い部屋まで走って戻る。追ってくるか?


「頭一撃で終わるのはいいけど、仲間を呼ぶのはズルい!」


「はにゃ~!」


 沙羅はプンプン怒りながらペットボトルから水分を補給。


 狭い空間でワーカーアントの動きも制限されていたから頭を狙いやすかったが、広い空間ではどうだろうか?


 どうやら、俺たちを追ってきたようだ。数は六体。一体、ほかより大きい氣を感じる。上位種がいるようだ。


 今度は俺も参戦。三人並んで待ち構える。


 は、早い。一体が突進してきた、俺と沙羅は避けたが、真ん中にいたはにわくんは、ワーカーアントとがっぷりと四つに組んでしまった状況だ。頑張れ!


 俺と沙羅は左右に分かれ、残りのワーカーアントに攻撃。だが、ワーカーアントも黙って攻撃を受けるわけがなく、素早くその場で旋回。巨大な腹部が襲ってくる。


 金剛の魔槌で腹部を攻撃。ぐちゃりと腹部にめり込み黄色い液体が飛び散る。うぇー気持ち悪りぃー。


 ワーカーアントはこちらの攻撃もなんのその、今度は脚で攻撃してくる。仕方なく魔槌で叩き折ってると、後ろにいた上位種が俺に向かって酸を飛ばしてきた。


 危ねぇ……。並列思考で周りを警戒していなかったら、ヤバかった。


 片側の脚が折られズルズルとしか動けなくなったワーカーアントに止めを刺そうとすれば、別のワーカーアントが襲い掛かってくる。


 そのワーカーアントとやり合い始め、こちらのいい攻撃が入りそうになると酸が飛んで来る。いやらしい攻撃だ。沙羅も二体を同時相手して、意外と素早い動きに苦戦中。


「月兎」


 ミニうさぎ師匠が沙羅の援護に向かい一体を弾き飛ばす。そんなミニうさぎ師匠に沙羅は手を振っている。あれ? 意外と余裕?


 そんな光景を横目に、俺は同時に上位種に宵闇を掛ける。掛るには掛かったが、むやみやたら四方八方に酸を飛ばし始めた。猿猴捉月を使っていないのに大混乱だ……。味方も犠牲になっている。


 俺も沙羅も躱すので精一杯。


「しょうがないにゃ~」


 マーブルの呆れ声が聞こえたかと思うと、上位種の吐いた酸が上位種に逆戻りを始め上位種が自分の酸にやられている。マーブルが何かをしたのだろうが、今はチャンスを逃すときではない。


 弱っているワーカーアントに止めを刺し、残ったワーカーアントに魔槌を叩きつける。


 沙羅も一体を倒し、もう一体に取り掛かっている。はにわくんも倒したいようで上位種に殴りかかる。


 じゃあ、俺も便乗だ。




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