スメラミクニラビリンス～月読命に加護をもらいましたがうさぎ師匠には敵いません～

141.血湧き肉躍る

　アラクネのローブは袖もひらひらして動きにくいと、籠手だけ装備、頭は兜と凄いちぐはぐな格好だ。

　お互いにメンチ切るがの如く睨み合い。そして、示し合わせてかのようにお互いの武器を振るう。

　武器がぶつかり合い、沙羅が押し負ける。同レベルということもあり体格の差が顕著に出た感じだ。

　しかし、パワーで負けている沙羅だが、動きの早さは勝っている分、躱し攻撃とトータルでは同等だ。

　激しい攻防を繰り返し先に膝を付いたのはオーガ。そこに情け容赦なく沙羅の剣が振り下ろされ、オーガの首が飛ぶ。

「さらっち、やるにゃ～」

「生きてるって、凄く感じる！」

　相手を斬って生を感じる……さすが、軍神。

　まだ、氣の訓練をしていないのにこの強さ。氷結の魔剣の性能もあるのだろうけど、氣を覚えたらどうなるんだ？　沙羅とは喧嘩しちゃ駄目だな……。

　今度ははにわくんが挑戦するようだ。

　体格は同等、持っている武器もはにわくんは六角棒、オーガはバトルメイスとほぼ同じ。

　壮絶な殴り合い。技なんてない。ただ殴る。

　どうした！？　はにわくん！　なにがあったんだ！　な、なにか不満でも？

　オーガの腕が変なほうに曲がり、はにわくんの左腕も破壊される。そんな殴り合いに勝利したのははにわくんだ。

「はにゃ～！」

　はにわくんの勝利の咆哮が上がる。

　あー、はにわくんの鎧も傷だらけだ。体もボロボロ……傷だらけの勝利だな。

「はにわっちは漢（おとこ）だにゃ！」

「はにわくん、格好いい！」

「にゃ～」

「次はあきっちだにゃ！」

　おいおい、あれを俺にやれと？　俺は壊れたら元に戻らないぞ？

　くっ……沙羅もマーブルも、そして小太郎まで期待の目で見てくる。俺に死ねと！？

　オーガがやって来る。みんなと同じように最初はオーガと睨み合い。オーガの顔を怖ぇー。

　頭を少し下げる。別に礼をしたわけではない。頭があった場所をメイスが風切り音を残し通り過ぎる。

　並列思考すげぇー。余計なことを考えていても、オーガの動きをちゃんと見ている俺がいる。オーガの攻撃を躱しながら氣を刀に纏う。

　いつもならあたふたしてしまうところだが、余裕を持って相手をできる。オーガの攻撃を躱すことに集中する俺と、隙を窺って攻撃しようとする俺がいる。

　大振りになったオーガの攻撃を躱し、メイスを持つ腕を斬り落とし、素早く納刀。斬られた場所を押えて喚いているオーガを喧嘩キックで弾き飛ばす。

　メイスをしっかりと握ったままのオーガの指をなんとか抉じ開け、メイスを持ち上げる。お、重い……。

　片膝をつきこちらを睨むオーガに容赦なくメイスを振り下ろす。

　オーガメイス　品質　高　打撃特性+180　耐久1200/1200

　はにわくんが使っている六角棒の上位互換だな。はにわくんにあげよう。

「にゃんかにゃ～、地味にゃ」

「にゃ～」

　じ、地味……。

「ちょ、蝶のように舞い、蜂のように刺すって感じで、格好いい……と思うよ」

　沙羅さん、その間はなんでしょうか？　みなさん、何かご不満でも？　敵を倒し、武器まで得る。これ以上の成果はないだろうが！

「オーガからまで武器を奪うにゃんて、守銭奴だにゃ」

「はにゃ～！」

　は、はにわくんは新しい武器に喜んでいるぞ！

「まあ、いいにゃ。あきっちに期待した、あちきが馬鹿だったにゃ」

　うがぁー、だから何を期待していたんだよ！　殴り合いか？　殴り合いなのか！？　

　いいだろう。やってやろうじゃないか！

　はにわくん、メイス借りるぞ！

「はにゃ……」

「あきっちがやる気になったにゃ！」

「これで、いいのかな……」

　さあ、オーガ、でてっこいや！

　オーガを探して三千里。見つけた！

　メイスを肩に担いで、オーガにメンチを切る。やんのか、ゴラァ！　

　メイスに氣を纏わせ、宵月を自分とメイスにも掛ける。

　オーガが大剣を持つ腕がピクリと動く。

　先手必勝！　動き出した大剣目掛けメイスを振るう。激しい金属音がして、壁に何かが突き刺さった。見なくてもわかる。オーガの大剣が途中から折れ飛んでいったのだ。

　折れた大剣を見て呆然とするオーガの腹をメイスで殴る。

　下手に知恵がついた分、喜怒哀楽の感情が出て動きが止まるのは弱点となっている。これが餓鬼だったら武器を壊されようが怪我を負おうが猪突猛進に攻撃してくる。強くなった分弱点ができた。等価交換というか世界の調整力なんだろうか？

　なんてことを考えながら、苦痛の表情で態勢がくの字に曲がりオーガの頭がいい位置に来たのでメイスを振りかぶる。勝負あり。

「なんかにゃ～」

「にゃ～」

　今度はなに！？　完璧な戦いだったろう！　あれ以上の戦いは今の俺には無理だぞ！

「あきっち、ズルいにゃ。ほとんどアビリティーの力じゃないかにゃ？」

　いやいや、それだって俺の力だろう！

「あきっちの戦いって、なんかこう一本道なのにゃ。血湧き肉躍るみたいなのがないのにゃ」

「にゃ～」

　知るか！