140.スクロール

 ボスたちが現れた反対の扉も簡単に開いた。十畳くらいの広さの部屋だ。怪異モンスターはいない。


 右側の壁に青く光るクリスタルのようなものが埋まっている。持って帰れないかと触ってみると。部屋の中心に魔法陣が浮き上がった。


 罠か !?


 身構えて待っていても怪異モンスターが出てこない? 罠じゃないとなると、定番のあれか?


 はにわくんと竜牙兵を一旦帰して、小太郎と魔法陣の中に入ってみる。もし定番のあれなら……


「保管部屋の傍だな」


「にゃ~」


 見知ったる保管部屋の近くにある広い部屋の真ん中に立っていた。部屋の隅には光る魔法陣がある。もちろん今までにそんなものはなかった。


 その魔法陣に入ると先ほどのボス部屋の裏にある魔法陣の部屋にいる。


 間違いなく転移装置だ……ゲームなのか!?


 月虹を持つ俺にはあまり意味がないが、いつかこの迷宮が解放されれば役に立つものだろう。


 さて、帰りますか。


 喫茶店ギルドで弓の使い勝手を報告しながら紅茶を飲んでから帰った。



 大学の昼休みにボス戦のことを沙羅に話すと、プンプンと怒りだす。いや、仕方ないでしょう?


「アキくんだけ楽しいことしてズルい!」


 ズルいと言われても困るのですが? 今週の土曜日は竜の大回廊の続きからを予定しているからなぁ。帰りにちょっとだけ寄ってみるか? ボスが復活しているかも知りたい。魔法陣もボスを倒していない沙羅が使えるのかも知りたい。


 土曜日、予定どおり竜の大回廊の四階層に挑戦。その前に沙羅に竜牙の使い方を説明。


「私にもはにわくんみたいな眷属ができるんだね!」


 まあ、それで間違っていないと思う。二十分間だけなのが寂しいところであるが。


 さてもう一つ大事なことがある。


「マーブル、スキルスクロールって知ってるか?」


「あたり前田のお煎餅にゃ! レアアイテムにゃ。迷宮の宝箱から稀に出るにゃ。オークションに出せば天井知らずなのにゃ!」


「じゃあ、売ったほうがいいかな?」


「にゃに!? 持ってるにゃ?」


「ボスを倒したら宝箱が現れて金貨と一緒に入っていた」


 金貨とスクロールを見せる。


「金貨類は共通通商金貨にゃ。どの国でも使える金貨にゃ。価値は少し落ちるにゃ。スクロールかにゃ……初めて見たにゃ」


「なんのスクロールなの?」


「並列思考だって。高速思考ならまだしも、並列思考ってどう思う?」


「同時に二つ以上のことを考えられるってことよね。アキくんには合ってるんじゃない? マッピングしながらほかのこともできるようになるんじゃないのかな?」


 なるほど……ってそんなこと本当にできるのか? でも、できたら便利だ。マッピングしながら氣で怪異モンスターを探ったり、戦いながら周りを氣で探ることもできる。


 本来なら訓練でそれができるようになるんだろうけど、あって損はないスキルかも?


「使ってもいい?」


「アキくんが手に入れたものだから、アキくんが使うのが当然だと思う」


「あきっちの戦力が上がるのはいいことにゃ。少しは影が濃くなるかもにゃ!」


 一言余計ですよ。マーブルさん。


 では、お言葉に甘えて。スクロールを開いてみる。何か文字が書かれていたようだが、開いたら消えていく。


 残月を使うと増えているな。試しに使ってみる。四階層のことと、今夜の夕飯のことを考える。できる、できるがなんとも言えない気持ち悪さ。


 俺の中にもう一人の俺がいる感じ。どちらが主でどちらが副という感じではなく、同時に存在している、ステレオみたいな感じだ。おいおい慣れるだろう。


 沙羅が竜牙に理力を補充。


「うわぁー。持っていかれる~」


 補充完了した感じは全体の三分の二ほど持っていかれた感じだそうだ。ということは、俺のほうが理力の量は多いということか。


「竜牙もレアアイテムにゃ。大店の主人が護身用によく落札しているにゃ。商業ギルド、いい仕事したにゃ!」


 時間制限があるとはいえ、強力な助っ人には違いない。囮にして逃げたとしても、竜牙が壊れない限り何度でも召喚できるからな。下手な護衛より腕も確かだ。


 ファルスドラゴンを狩りながら、四階層を目指す。四階層に続く道を見つけると、マーブルから注意が入る。


「四階層のオーガは力が強いし、頭も悪くないにゃ。オーガを単独で倒せれば、文句なしに中級レイダーと言えるにゃ」


 戦う相手としては、モンスターとして、そして対人戦の訓練として申し分ない相手らしいが、いかんせん素材にまったくならないモンスターなんだそうだ。


 モンスターの中でも嫌われ者の部類になるらしい。


 しかし、俺たちにはちょうどいい相手だ。まず、沙羅の鬱憤が晴らせる。これ大事。


 俺にとっては、オーガは人型なんで刀の練習になる。やはり刀は人型にこそ威力を発揮する武器だと思う。


 四階層を少し歩けば、気配を察知。氣を探れば小太郎より早く気配を察知できる。これも並列思考のおかげだ。


 先鋒、沙羅。はにわくんは待機。広い空間でオーガが来るのを待つ。


 現れたのは青鬼だな……。体長二メートル前後、筋肉質のマッチョで上半身だけ革鎧を身に着け、大きなこん棒を持っている。


 沙羅は氷結の魔剣を構え対峙。アラクネのローブを装備し弓道で使われるているような革製の胸当てを装備している。前回、俺の目線が二つのお山に釘付けだったことから、急遽手に入れたらしい。


 残念。気にしなくていいのに。


「にゃ……」




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