136.試飲会
最初はビール。こちらの世界で主流なのがエールビールなので、ラガービールを持ってきた。
「かぁー、冷えてんなこいつ。美味い」
「儂はいつものエールがいいのう」
これは完全に好みの問題だと思う。俺もエールを飲んでみたが香りが強く常温でもすごく美味い。
次はワイン。
「ワインだな」
「ワインじゃな」
これもこの世界のワインと変わりがない。ぶどうの品種や産地で味が変わるので、品質以外に違いはないようだ。
ならばウイスキーだ。メジャーなウイスキーの十二年物だ。
「変わった酒だな」
「色からして果実酒かのう?」
おっ、これは掛かったか?
「こ、これは……」
「蒸留酒のようじゃな。しかし、なんとも深い味わいじゃのう」
ん? 蒸留酒、あるのか?
話しを聞くと蒸留酒はあった。しかし、長く熟成させないで飲んでしまうらしい。
「十二年も待ってられっか!」
「酒も歳を重ねると味が出るんじゃのう」
とは言うものの間違いなく美味いとの評価を得た。金はいくらでも積むから売ってくれと言うくらいに……。
ブランデーも同評価だった。香りがいい分年配者に好まれるだろうと長老が言っていた。
次は日本酒だ。エルフの主食が米ということなので、おそらく日本酒はあるだろう。どう評価されているのか知りたい。
「エルフ酒か?」
「これはまた……珍しい酒を持ってきたのう」
日本酒は蒸留しない酒では一番酒精が強い酒だ。ヨーロッパでは、エリクサーなんて言われていた時代もあるくらいだ。
「美味いな。エルフが独占するわけだぜ」
「上品な美味さじゃのう。ドワーフの火酒とは対照的じゃのう」
エルフは自分たちが飲む分くらいしか造らないそうで、滅多に出回らないお酒らしい。なので、王侯貴族でさえ羨望するお酒らしい。
今回持って来た日本酒は一升千円程度のもの。日本酒も上を見ればキリがないほど値段が違う。種類も純米、醸造、吟醸、大吟醸、仕込みなどによって味も変わる。調べると、日本酒の酒造元は千四百か所以上で、銘柄などの種類は一万以上あるらしい。
酒をこよなく愛する長老でさえ人生で二度目、ギルド長は初めて飲んだそうだ。
これも勝ったな! 酒を制する者は世界を制するぞ!
最後は焼酎 甲乙種両方持ってきた。
「これは火酒か? 旨味が少ねぇな」
「こちらはクセがあるが美味いのう。材料の違いかのう?」
さすが長老、伊達に長い間生きてはいない。確かな舌を持っている。
試飲はここまで、聞きたい情報は手に入れた。デキャンタに関してはそもそも造詣がないので、一から説明した。物自体に関しては凄い技術だと言っていたので十分にいけるだろう。
ということで、持ってきたお酒のほとんどを放出。目をギラギラとした男たちに囲まれているので、無いとは言えない状況だった。一歩間違えば暴動が起きていただろう……。
「そういえば、商業ギルドのアディールがお前さんたちを探していたぜ?」
「アディールがかにゃ?」
決心がついたのだろうか? 良いほうに決心してくれていればいいけど。
「みなさん、お待ちしていましたよ」
「決まったかにゃ?」
「一つ条件があります。それを飲んでくだされば、マーブル商会をお手伝いさせていただきます」
「じょ、条件にゃ?」
お金で済むなら安いものだけど、どんな条件だろう?
「すべてを見せていただきたい」
「すべてにゃ?」
「すべてです」
「別にいいにゃよ?」
「えっ!? い、いいんですか?」
いいんじゃないかな? どうせ、向こうでも交渉役になってもらう予定だし。隠すようなものもない。逆に貴子様や国関係には隠すことが多いくらいだ。不平等にならないようにな。政治家は信用できない。
「異世界ですよ!? そんな簡単に行けるわけないでしょう! 伝承の世界ですよ!」
「問題ないにゃ。ゼギール帝国の連中だって行ってるんじゃないかにゃ?」
確かに取引しているならどちらかがその世界に行ってるはずだ。あるいはどこかで落ち合う場所があるかだ。
それ以前に、マーブルはその異世界でぐーたら生活をしているからな。
「いつ行くにゃ?」
「今でしょう!」
おいおい、興奮して自分の立場忘れていませんか?
「引継ぎにどのくらいかかりますか?」
「後任が来るまで一か月。引継ぎに一か月でしょうか」
「では、それが終わってからですね」
「少しだけ、少しだけでも見せてください! そうすればやる気が出ます!」
「どうするにゃ~?」
本人がそう言うならほんの少しだけ見せるか? やる気が出るならいいんじゃないか? 夕飯食べて帰ってくればいいんじゃない?
「わかったにゃ。連れて行くにゃ。特別にゃよ?」
「す、すぐ準備します!」
それより、頼まれていた品の納品がしたいんですけど? 今回も結構な量なんだよねぇ。
「それより、納品をしたいのですけど……」
「おい、君! 備品の納入だ。部屋の用意と総務の者を呼んで来てくれ! 大至急だ!」
早っ!?
それと、その耳をなんとかしないと、向こうにはエルフはいないから。あるいはコスプレってことにする?
「コスプレで押し通すか?」
「女の子ならいいけど、男だは無理があるんじゃないかしら?」
「コスプレが何かわかりませんが、変装の魔道具がありますので問題ありません」
魔道具? そんなのもあるんだ。今度確認しよう。売り物になるかもしれない。
品を納品して、次の注文も受ける。
「さあ、いざ異世界へ!」
「アディール、舞い上がってるにゃ……」
「大丈夫か?」
「異世界に行くんだから、そんなものじゃないかしら?」
「にゃ~」
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