134.注文品の納品

 ネットで調べると葉巻専門店はすぐに見つかった。


 沙羅に祖父や父は嗜まないのか聞いたら、若い頃は吸っていたようだが幹部になるとほかの隊員の模範となるべく吸えない状況になり吸えなくなったと聞いているそうだ。なるほど、さもありなん。


「高いな……」


 ショウさんのボヤキに賛同。なんなんだこの異常な高額商品は!?  一本千円なんてざら、一本一万円以上の物まである。上流階級が嗜むものだと納得した。


 これは商品にならない。贈答品、献上品として使うしかないな。今回、陛下に献上用として二十本セットで四万円の葉巻とシガーカッター、シガーマッチ、シガートレイのセット一万円、ヒュミドール(保管する箱)二万円を購入。二ランク下げた葉巻も一セット購入。


 道具一式はこのお店で一番高い物を選択。これ以上の高級品になると注文販売になるそうだ。


「葉巻を始めるの? 体に悪いよ?」


「陛下への献上品に使う。今回、孤児院の駄菓子屋の件でお願いがあるからね。それにしても高いねぇ」


「葉巻は上を見たらキリがないって、おじいさまが言ってた」


 だろうね。嗜好品だ。今でこそ庶民でも嗜むけど、金に苦労していない人が嗜んでいたものだ。金に糸目を付けないなんて当たり前だったのだろな。


 次は酒屋と併設された酒に関する雑貨屋を物色。お酒を買いに来たわけではない。デザイン的な空き瓶やワインの道具を見に来たのだ。


 お酒は沙羅に頼んで天水家の御用達の酒屋から買えばいい。だけど、そのままで向こうに持って行って売ることができない。印刷されたラベルや、蓋にプラスティックが使われているからだ。


 なので、中身を入れ替える容器を探しに来た。ついでに意匠の凝ったワインの道具も見てみたい。できれば問屋を紹介してもらいたい。


 天水家の御用達の酒屋に聞いてもいいのだけどね。今回は時間がないので、いいのがあれば数セットをこちらで買うつもりだ。


 いろいろあるねぇ。これ、何に使うんだ? ってものも多数ある。


「これ可愛いよ」


 沙羅が選んだのは猫の形をしたデキャンタ。確かに可愛いとは思うけど洗うのが大変そう。ぶどうの形をしたデキャンタまで持ってきた。このデキャンタ、自立しないんだが……。


 ワインのデキャンタはシンプルな意匠のものを選び、ウイスキーとブランデーのデキャンタはカッティングの入ったクリスタルボトルを選んだ。


 空き瓶はワイン用、ウイスキー用、ブランデー用にコルク栓で蓋をするちょうどいいガラスの空き瓶を見つけたので購入。


 支払い時に問屋を尋ねたけど教えてくれなかった。ケチだな。ここは今回限りだ。天水家の御用達の酒屋に聞こう。


 土曜日に天水家の倉庫で品物を検品。食器類は全て無地の木箱に入っていたので移し替える必要がなく助かる。沙羅とマーブルはワインのラベル剥がし。俺は漏斗を使いウイスキーとブランデーの移し替え。香りはいいのだが、それだけで酔いそう。


 準備が整いプッカのお店に転移。


「毎回、思うけど凄い量だね。姉さん」


「どこから仕入れているのですか?」


 それは秘密だよ。エリンさん。アディールさんがマーブル商会に入ってくれるのであれば、教えるつもりだけど、今は秘密だ。


 マーブル商会分はすべて渡した。この後は王宮だ。


「お待ちしていましたよ。マーブルさん、そしてアキさんとサラさん」


 侍従長さんに名前を憶えていただいたようだ。これはいい兆候だ。


「ご注文の品が出来ましたのでお届けにあがりました」


 木箱をテーブルの上に並べていく。くぎ抜きで箱を開ければ侍従長さん、侍女長さん、宮廷料理長さんが確認していく。


「素晴らしい……」


「ここまでくると芸術品ですわ……」


「この器に負けぬ料理を作らねば……」


 侍女長さんと宮廷料理長さんの指示のもと、兵士さんと料理人の方々が木箱を慎重に運んでいく。


「想像以上の品でした。これほどのものを作るのですから、さぞや名のある職人なのでしょうね」


 そりゃあ、職人が一つ一つ作った本物高級品もあるにはあるけど、今回の食器は機械が作ったものだからねぇ。手元の作業員?


電気がのらないと動いてくれないので困ったものです」


 沙羅がぷぷっと笑いを堪えて吹き出す。


「腕のいい職人とはそんなものですよ」


 沙羅が更に笑いを堪えてぷぷぷっと。


 侍従長さんと次回の注文の話し合も終わり、まったりとお茶を飲む。その時に、マーブル商会で社会貢献の一環として、孤児院の駄菓子屋のことを話す。


「それは素晴らしい行いです」


「でも、最近困ってるにゃ……」


「お困りごとですか?」


 小さな子たちのためにやっているのに、大人が大人買いしていくことを聞かせる。


「モラルの問題と言えばそれまでなんですが……」 


「ならば、王宮でその事業に支援していると一筆書きましょう。さすれば、不届き者も減ることでしょう」


 そう言って、侍従長さんどこかへ行ってしまった。フットワークのいい侍従長さんだな。


「狙いどおりになったね」


「あきっちは策士だにゃ」


「お褒めの言葉と思っておこう」


 侍従長さんが戻って来て封筒と二枚の大小のタペストリーを渡してくる。


「こちらをお持ちください。陛下より許可をいただいております」


 大きいタペストリーは王家御用達の証を示すらしい。小さいタペストリーは国家事業を行っているときに掲げているものだそうだ。


「あ、ありがたき幸せですにゃ!」


 マーブルがマジで恐縮して両手を掲げて受け取っていることから、周知の事実なのだろう。


 これで、予定どおり事が進めるな。



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