127.精霊魔法
沙羅の手に麩菓子が載っている。だんだんと減っているのが見てとれる。俺には見えないが精霊が食べているらしい。
「さらっちは精霊と仲良くなったにゃ。何かお願いしてみるにゃ」
「お願い?」
「精霊は友達にゃ。だから、して欲しいことをお願いするにゃ。そうすれば、お願いを聞いてくれる子がいるかもにゃ」
確実ではないということか?
「もし、そこにいる精霊全部がお願いを聞いてくれたらどうなるんだ?」
「効果が大にゃ! だから、お願いする時に、ちゃんとどのくらいの効果がいいか言わないと、大変なことが起きる可能性もあるにゃ。今のさらっちのようににゃ」
沙羅が花に埋もれている……。精霊魔法、面白いな。俺は使えないけど。
「あきっちだけじゃなく、こたっちとはにわっち、それにうまっちにも精霊が近寄らないにゃ。なんでだろうにゃ? 精霊は好奇心旺盛だから、はにわっちなんか絶対に注目を浴びると思うんだけどにゃ~?」
花に埋もれている沙羅を鑑定するとスキルの精霊魔法と称号らしきコーエンの弟子というのが増えていた。才能がある人っていいよね。
沙羅はせっかく精霊が集めてくれた花なので、貴子様にお土産に持って帰りたいと、小太郎の自由空間に入れてもらていた。
休憩を終わらせ狩りを再会。
マーブルが精霊にお願いしてファングベアーを探す。宵闇が効くのがわかったので、狩りは格段に楽になる。今度は新しく覚えた猿猴捉月が効くかの検証だ。
ほどなくファングベアーを発見。すぐに宵闇をかける。今回は周りに匂いがないので、目が見えなくても俺たちの気配を読んだ動きだ。
「猿猴捉月」
俺たちに向かって来ていたファングベアーが急にでんぐり返しを始めた。効いたようだ。でも、なぜでんぐり返し!?
「こうして見ると可愛いね!」
その可愛いファングベアーを今から惨殺するんですよ? 沙羅さん。
「今度は俺にやらせて」
さっきから俺は補助しかしていない。俺の攻撃が効くのか確かめたい。
氣もアビリティも使わずに刀を一閃。浅く斬れただけだ。硬い。
今度は氣を刀にのせ斬る。スパッとファングベアーの左前脚が斬れ、ぼとりと落ちる。
痛みで正気に戻ったのか、咆哮と共に残った左前脚が俺を襲う。だがそれは目が見えないので所詮勘での攻撃。当たれば怪我をするだろうが、当たらなければどうということはない。
宵月を使うまでもない、氣だけで十分だ。月兎を呼び出し攻撃させる。ムーンサルトキックがファングベアーの顎を捉えノックバックさせる。月兎だけにムーンサルトキックなのか!? なんてマイナーな技を使う……。
一気に間を詰め隙だらけの首を刎ね飛ばした。
月兎がジャンプしてきてハイタッチ。と同時に逃げ場のない空中で沙羅に攫われる。
「うさぎちゃん!」
ぎゅーと抱きしめられ拘束中の月兎が俺を見て、どーすんだよ? という表情を見せるが、自分でなんとかしてくれ……。
首のないファングベアーを収納。ファングベアーの強さは普通の悪鬼以上、大宮駐屯地の迷宮の悪鬼未満というところかな。パワーだけなら今まで戦ってきた中では、ななみ呪面幽鬼についで二番目だろう。まあ、ななみ呪面幽鬼は別格だ。今の俺たちでも倒せるとは思えない。
「一人でファングベアーを倒せるにゃら、もう中級レイダーの仲間入りにゃ。初級卒業、一人前のレイダーにゃ」
森の中ということもあり陽が落ち始めるとだいぶ暗くなる。ファングベアー三体倒して、今の俺たちの実力も確認できたので町に戻ることにした。
レイダーギルドに行くと、職人ギルドからファングベアーの素材集めの依頼が出ていた。数量制限なしのなかなかの高額依頼だ。素材集めだけでも相当な金額になりそう。少しでも早くと言った手前、しょうがないか。
レイダーギルドは久しぶりの優良依頼で沸いている。一攫千金とまではいかないが、中級クラスにとっては割のいいお金稼ぎだろう。初級レイダーも複数パーティー単位で依頼を受けているそうだ。
俺たちもせっかくなので、その場で依頼を受け三体引き渡す。ついでに満タンになった魂石も換金してもらった。結構いい金額になった。ファングベアー三体分は、自分たちの依頼した金をもらっているだけなのでなんとなく微妙だ。
「中級クラスになると生活に余裕がでるにゃ。でも、ここまで来れるのは、レイダーになった人の三分の二くらいかにゃ。更に上級になれるのは三分の一にゃ。厳しい世界にゃ」
実力の世界とはいえ厳しいな。努力だけでは覆せない才能の差ってのがあるんだろう。
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