126.六角棒
「はにゃ~」
「ヒヒィーン」
今回はお馬さんにリヤカーは引かせない。代わりにマーブルと小太郎が乗る。
「うちは戦いが苦手にゃ。サポートに徹するにゃ」
なんだそうだ。
何かぶつぶつと言ったと思ったら
「あっちにファングベアーがいるそうにゃ!」
「「いるそうにゃ?」」
沙羅とハモった。
「精霊魔法にゃ。近くにいた精霊に聞いたにゃ」
なるほど、精霊魔法ね。便利そうだ。
マーブルの言ったほうに周りを警戒しながら進む。
いた。どうやらお食事中のようですね……グロい。
沙羅も顔をしかめているが、こちらに気づいていない今がチャンスだ。
俺は試しに夢月を使い眠るか確認。沙羅とマーブルは炎弾。小太郎は最後に埴で穴に落とす。
「夢月」
駄目だ効かない。夢月を感じたのか周りを気にし始める。
「「炎弾」」
マーブルの呪文に合わせて沙羅も炎弾を放つ。顔に着弾。咆哮を上げこちらに向きを変える。あんまり効いていないようだ。
それに、お食事中を邪魔したせいか、だいぶお怒りのようだね。
「にゃ~」
小太朗の可愛い鳴き声が聞こえ、ファングベアーが視界から消えた。小太郎の埴による穴に落ちたようだな。
こうなればもう袋の鼠……いや、穴下のファングベアー。なんて思ったのがフラグだったのか、ファングベアーが穴から這い出してきた。
こ、こいつやる!
「はにゃ~」
水龍を召喚した沙羅とはにわくんが、這い出そうとしているファングベアーに駆け寄り攻撃。沙羅の氷結の魔剣が右前脚を切断。斬られた場所が凍り付き、合間をおかずはにわくんの魔改造バットが顔面直撃! ファングベアー、咆哮を上げながら穴の下に舞い戻る。
「はにゃ~?」
はにわくん、魔改造バットを見て首を傾げているけどどうした? はにわくん、俺の元に走ってきて魔改造バットを見せる。
壊れているね……バットの中ほどが割れている。ファングベアーが硬かったのか、或いは酷使してきたせいで金属疲労をおこしたのか? 残念ながらもう使えないな。
「はにゃ~」
はにわくんが一度戻せとジェスチャーしてくる。なんだ? 戻して再度召喚。
「はにゃ~」
クロムモリブデン鋼の六角棒を掲げて登場。そういえば、そんなのあったね……。
沙羅と水龍が見張っている穴に向かう。片手が斬られたせいで穴から這い上げれないファングベアーが、血走った目で涎を巻き散らしながら暴れている姿がある。
「どうする? 私の剣だと届かないよ?」
「はにゃ~」
はにわくん、任せろとばかりに、六角棒を逆手に持ち直して穴に向かって突く。何度も突く……。憐れ、ファングベアー。
動かなくなったところで自由空間に収納。
「いい感じだにゃ。次行くにゃ!」
「休憩しようよ~」
「さらっち、甘いにゃ! 敵はもうすぐそこまで来てるにゃ」
「えぇー」
倒したファングベアーがお食事途中だったので、残っていたグロテスクご飯の臭いに誘われてやって来たみたい。
やるしかないな。
現れたファングベアーはさっきのファングベアーより、一回り大きい。はにわくんが見上げるほどだ。
「宵闇」
夢月が効かなかったので今度は宵闇。ファングベアーの動きが止まり、鼻をヒクヒクさせている。どうやら効いたようだ。
「目を見えなくしたけど、油断せずに攻撃だ」
と言ったせいで、俺の声に反応して俺に向かって来る。だが、グロテスクご飯の臭いのせいで、あまり鼻は利いていないようだ。
匂いのないはにわくんが無造作に近寄り、六角棒をアッパースイング! ファングベアーの顎にクリーンヒット。頭が仰け反ったところに沙羅が氷結の魔剣で首を斬りつければ、ずるりと頭が落ちる。
凄い斬れ味だ。氣をのせていないのにこの斬れ味。氷結の魔剣の性能は伊達じゃないな。
自由空間に収納。二体目ゲットだ。ついでに沙羅と俺はレベルアップもした。俺はアビリティ『猿猴捉月』も覚えた。単体を混乱させる。レベルが上がると複数の対象にできるとある。面白そうなアビリティーだ。
陽の当たるちょっと開けた場所に移動して休憩。はにわくんと水龍が周りを警戒してくれている。
「ピーチジュースが最近のマイフェイバリットドリンクにゃ! ぷはぁ~」
某有名お菓子会社のネクターだな。濃厚な味わいで俺も好きだ。だけど、飲むと逆に喉が渇く感じがする。小太郎もマーブルから少し皿にもらってチロチロ舐めている。
俺はマーブルにもらった、駄菓子のたばこ型のチョコを咥えながら、ペットボトルの無糖紅茶を飲んでいる。
沙羅はマーブルと一緒に鈴カステラを口いっぱいに入れ、口の中の水分が~と騒いでいる。
「ねぇ、マーブル。私やマーブルの周りに光がチラチラ見えるんだけど、なにかなぁ?」
「おっ! さらっち、それ精霊にゃ! さらっちは精霊魔法の素質があるみたいにゃ。人族で精霊魔法の才能持ちはレアにゃ」
俺には何も見えませんが?
「あきっちは才能がないにゃ。それどころか、精霊に避けられているにゃ。逆にレアにゃ」
避けられている……。俺、精霊さんになんか嫌われるようなことした? 解せぬ。
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