121.専門学校

 しかし、貴子様がいう探究者シーカー探究者シーカーとして大成するような人を指している。


 探究者シーカーだって人間。十人十色だ。それこそ、バイト感覚で始めて小銭を稼ぐのもありだと思う。


 そういう考えなら、無理をしなくてもそこそこは稼げる。鉱石採取だけでもコンビニでバイトするより高給だ。命を懸けているけど。


「今の若者はハングリーさに欠けるのよ。やれパワハラだ、セクハラだって自己弁護が先にくるうえ、給料はいくらだ、休みはどれくらいだって、やる気は二の次、三の次。そんな人間は探究者シーカーには向かないわ」


 貴子様の探究者シーカーに対する理想は高いようだ。だけどバイトから正社員になる人だっている。確かに世論はうるさいだろうが、もっと門戸を開くべきではないだろうか?


 俺だって異能があったとはいえ、きっかけはバイトだからな。


 探究者専門学校は二年間の全寮制。学費はただで少額だが日当もでるらしい。至れり尽くせりだ……俺が行きたい。


 しかし、話を聞くと理由がわかる。探究者専門学校を建てる場所が辺鄙な場所なのだ。以前にお手伝いに行ったような限界集落を越えた場所にある異界アンダーワールドが使われるらしい。実地研修もあるからちょうどいいのだそうだ。


 そんな場所じゃ遊びに行こうとして無理。救いはネットが繋がるが、ほぼ缶詰状態だ。限界集落の先にあるから、逃げ出そうにも逃げ出せないだろう。これは学校というより収容所じゃないのだろうか? 敢えて突っ込まないけどね。


 講師は引退した探究者シーカーや自衛隊の探究者シーカーに頼むみたいだ。


 初歩からちゃんと教えてもらえるのは羨ましい限りだな。俺は最初にちょっと教えられただけで、後は放任主義だったから。


 お説教も終わりやっと下宿に戻れる。いやー疲れたね。


「にゃ~」



 今週の金曜から日曜は天水家にお泊り。沙羅が作った異世界言語辞典と平仮名変換表でのお勉強会になる。毎日、通うつもりだったのだが、沙羅の祖父母のご要望でお泊りになった。沙羅の祖父は小太郎目当て、祖母は沙羅の反応を面白がってのことだろう。


 取りあえず、着換えとノートPCを持っていく。ノートPCは今回新調したものだ。今まで使っていたPCは友人にもらったものなので、CPUもメモリーも表計算ソフトや文書作成ソフトがなんとか動く程度の性能だったので使いものにならない。


 マーブル商会との取り引きの記録等も残しておきたいので、必要経費で買った。今後を見越して会計ソフトも入れようかと思ったけど、餅は餅屋、本職に任せようと思う。なので、今のうちに隠し財産を作るために、試行錯誤している。


 マーブル商会は異世界の商会だから取引関係の書類は、こちらの世界に比べると緩いので今のうちに口裏合わせをしておくのだ。


 今後、正式に国が絡むとこういうことができなくなると思う。そのための帳簿作りだ。お金は自由空間に入れているので見つかることはない。完璧な作戦だ。


 褒められたことじゃないけど、国がどう出るかわからない以上、最悪を想定して動かなければならない。そうなったときの資金だ。



 金曜の講義が終わり、そのまま沙羅のお迎えの車に乗っていく。


 天水家に行けばマーブルがお出迎え。完全に野生を忘れた家猫だな。堕落したな、マーブル。弟のプッカが泣いているぞ。


 沙羅の祖母と母に挨拶して小太郎を差し出す。異世界言語の勉強にはマーブルが必要だから、代わりに人身御供になってもらう。小太郎は喜んでいるけどな。


 沙羅と祖母たちのショートコントを見てから、沙羅の部屋に移動。


「本当におばあ様たちは変なことばかり言って! アキくんにも失礼よね」


 全く失礼じゃないです。逆にご家族公認とも取れるので嬉しいです。


「なにも変なこと言ってないにゃ。うちから見ても、なんで二人は結婚してないか疑問にゃ?」


「ちょ、ちょっとマーブルまでなに言ってるの⁉」


 まあ、俺たち学生だからな。最低でも大学は卒業してからだろうな。


 真っ赤になって、マーブルのほっぺたをむにゅ~と両手で引っ張っている沙羅をよそに、机にノートPCを出して電源を入れる。最新モデルなので立ち上がりが早い。


 沙羅の部屋のにはオーディオ機器が一切ないので、ノートPCに落とした音楽を流す。


「いい曲ね」


「アレックとニッキーの新曲なんだ。まだ発表前だけど、メールで送ってくれた。今度、PVを作りに日本にくるらしいよ」


「そうなんだ。楽しみだね」


 来週くらいには予定が決まるらしい。PVの制作に一か月。その後は休暇にして日本で過ごし、風師匠の所で修業すると言っていた。もちろん、俺も強制参加だ。大学も冬休みに入るので何とかなるだろう。


「私もこの冬休みは修行漬けになりそう」


「修行?」


「お師匠様から氣の修行が認められたの」


 おぉー、更にパワーアップする沙羅。恐ろしい……。


「氣を覚えれば、戦術の幅が広がるからいいと思うよ」


「だよねぇ。頑張っちゃうぞ!」


 ほどほどにね……。








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