115.人材不足

 と思うんだけど、どう思う?


「ゼギール帝国と喧嘩だにゃ! あきっちの国の品物はほかの国でも欲しがること違いないにゃ。問題はどう運ぶかだにゃ」


「マーブルはほかの国に行ったことがないの?」


 沙羅が俺が聞きたかったことを先きに言う。


「近くの国には行ったことがあるにゃ。でも、大陸の反対側には行ったことがないにゃ」


 大陸の真ん中にゼギール帝国があるせいで、よほどのことがないと大陸の反対側には行かないらしい。北回り、南回りの街道では時間が相当かかる。船を使っての移動は大変危険らしい。海には獰猛な怪異モンスターや巨大な怪異モンスターがいるそうだ。


 まあ、当面はマーブルの住むソールリシア王国とその周辺の国で我慢だ。何かいい案が浮かべばその時に考えよう。


「そうだにゃ~。今のうちの商会じゃ、ソールリシア王国だけでも手一杯にゃ」


「でも、今後のことを考えると人を増やさないと駄目だぞ? それに、国を相手にするから交渉も得意な優秀な人材も必要だな」


「交渉かにゃ~。うちは苦手だにゃ~。あきっちでいいんじゃないかにゃ?」


 俺に丸投げですか!? マーブル会頭!


「手伝うのはいいけど、俺だけでは手が足りない。そっちの世界に常時いるわけじゃないから、そっちの世界で任せられる人が必要なんだよ」


「そんな人材、簡単に見つかるわけないにゃ~」


「旅猫行商人仲間はどうなんだ?」


「そうだにゃ~。声を掛けてみるにゃ」


 マーブル以外の旅猫行商人を見たことはないけど、種族意識は強そうだから期待している。やはり、裏切らない仲間がほしい。


「そこでだ。商業ギルドのアディールさんをマーブル商会に引き抜けないか?」


「アディールかにゃ? そうだにゃ、頭もいいし、信用できるけどにゃ、エルフは義理堅い種族だから、引き抜きとか嫌いにゃ」


「でも好奇心は旺盛そうだよな」


「エルフ族は長寿だからにゃ。長い間生きる暇つぶしに、新しい知識に貪欲なのにゃ……にゃるほど」


 どうやら、俺の言いたいことがわかったようだ。長寿で義理堅いなら尚更欲しい人材だ。長くこちらの世界と付き合ってもらうにはもってこいの人材になる。


 さて、その話はこれまで。沙羅はあまり興味がないようで、退屈してマーブルを捏ね繰り回してモフっている、じゃあ、沙羅も加われる話にしよう。


 何度か向こうに戻っているマーブルに現状報告をしてもらう。


 相当数の注文が入っている模様。商業ギルドのアディールさんも至急に会いたいと伝言を残しているそうだ。そういえば品物を渡して、放置状態だった……。まあ、ちょうどいいといえばちょうどいいかも。


 それから、儲けの匂いを嗅ぎつけた大店の商人たちが、嗅ぎ回っているそうだ。今のところ接触や手を出してはきてないとのこと。その辺は、マーブルが王様から頂いた権力でどうにでもなる。逆に使えるような奴なら大店であろうが傘下にしてしまえばいい。


「凄い注文なのにゃ…。あきっちどうするにゃ?」


 注文が来ている以上、少量だけ納品したほうがいいだろう。一度に、全部納品すると希少価値感がなくなる。わざと少量だけ納品して、これでも優遇してるんだぞと恩を売り、そして優越感も煽り購買意欲を高めさせたほうがいい。


「一度に全部売らず、少量ずつ売ろう」


「え~せっかく稼げるのにもったいないにゃ~」


「もったいぶって売ったほうが希少価値があると思わせられる。その分、長く利益が出せるし、相手の購買意欲も継続できる」


「そんなもんかにゃ?」


「そんなもんだよ」


 マーブルは真面目だ。素直すぎる。まあ、それがマーブルの美点なんだけど。かといって、俺たちがひねくれているわけじゃない。これは戦略なのだ!


「おぬしも悪よの~越後屋」


 沙羅が笑いながら言ってくる。


「いえいえ、お代官様には敵いません」


「「はっはっはっ!」


「なにしてるにゃ? 二人して」


 異世界人のマーブルには、この手のギャグはわからないようだ。


 なので、仕入れは早めに行おう。王宮に収める食器はまだ出来ていないから、王宮のほうは今回はいいだろう。


 マーブルから注文の書かれた紙をもらうが、渡されても読めない、これもなんとかしないと駄目な案件だ。第二外国語でフランス語を学んでいるが、第三外国語として異世界語を学ぶことになるとは……。


 その話をすると沙羅が乗り気になった。


「じゃあ、辞書を作っちゃおう」


 準備は任せてというので任せよう。俺はそういうのは苦手だ。沙羅はさっそくPCを起動させ、キーボードを叩きだしている。


 それを横目に、マーブルが紙の内容を読み、俺が別の紙に記載していく。確かに凄い量だ。半端な量じゃない。前回注文を受けた二十倍以上ある。


 駄菓子も順調だ。こちらも仕入れをしたほうがよさそうだ。駄菓子は儲けが狙いではなく、社会貢献で利益の還元みたいなものだから利益が出る必要はない。


 ないのだが、そこそこ利益が出ている。どうやら、お子さまだけでなく、大人も買いに来てるそうだ。大人だけに大人買いするらしい。お子さまは甘いもの、大人たちはしょっぱいものが売れるので、満遍なく在庫が不足している。


 今回も大量な仕入れになりそうだ。




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