114.試供品扱い

「それから、この前持ってきた二本の剣の検証と調査が終ったわ」


 鑑定は全員が目が点になるほどの高性能。その後、科学的な調査がされたそうだ。調査のほうは上を下への大騒ぎだったらしい。


 それと、科学的な調査では持ち帰った金属のインゴットも大騒ぎになったそうだ。未知の金属が複数見つかり、調査した研究者たちは狂喜乱舞だったらしい。だが、それ以外はまだ何もわかっていなく、金属の詳しい調査はこれから始まるとのこと。


 一応、武器防具については自衛隊で実際に使い検証も行われ、データも取られたそうだ。その結果、出された査定額は一本二億円。これは最低額でオークションに出せばどれほどの値段が付くかわからないという。


 現状は世界に公表できないのでお蔵入り。なのだが、自衛隊上層部が寝かせておくのはもったいないと、寄こせと言っているらしい。


「どうする? 売る気はある?」


「構いませんよ。戦車や戦闘機を買うのに比べれば安いものなのでしょう? で、いくらで買ってくれるんですか? 仕入れ代でも結構かかっているので安売りはできませんよ?」


「二本で五億と言ってきてるわ」


「マーブルにも税金はかかるんですか?」


「かかるわね」


 マーブルが確定申告するのか? 異世界人だぞ?


「じゃあ、俺たちの取り分はどうなります?」


「まだ何も決まっていないから、直接取引相手と交渉してもらうしかないわね。もちろん、譲渡所得として確定申告が必要になるからね」


 武器の売買で確定申告ってできるのか?


「美術品や骨董品の売買で得たお金ということにするのよ。だから譲渡所得になるわけ。そういうことは沙羅ちゃんの家の弁護士と税理士に相談すればいいわ」


 なかなか面倒だ。マーブルって銀行で口座って作れるんだろうか? 作れたとしても更に税金が掛かってきそうで怖いな。支払いは面倒だがニコニコ現金払いにしたほうがよさそうだ。


「オークションに掛ければもっと高く売れるんですよね。安すぎません? それに税金も取られるんでしょう?」


「今回は我慢しなさい。今回のは試供品。次回からは正規の値段に持っていけるようにするわ。税金だけは私でもどうしようもないわ。法律だから」


「試供品って簡単に言いますが、向こうでもなかなか見つからないレアものなんですけど……」


「と、取りあえず。今回預かった品は全部、試供品扱いになるから、そのつもりで。後日、査定額を渡すわ」


 ま、マジですか……。


「納得しがたいですが、今回限りですからね。さっきも言いましたが買い叩こうとするなら、ほかに売りに行きます。それから、支払いは現金以外不可とさせていただきます」


 向こうがその気ならこちらもそれなりの対応をしないとな。将来的にはスイスの銀行に口座を作るのもありだ。日本より機密情報の面で安全、安心と聞いている。使ったことないけど。


「脱税なんて考えてないわよね」


「さて、何のことでしょう?」


 凄い白い目で見られているけど、気にしない。証拠がなければいいだけだ。イカサマをしようがバレなければイカサマじゃない、と誰かが言っていた。自由空間がある俺たちには完全犯罪ができる。TPOに応じてだけど。相手次第だ。


 取りあえず、異世界との取り引きは現状維持で続けるということで話が終わる。少しでもいい武器いい防具を集めろということらしい。


 帰りに今まで取り引きで使った分の領収書と、経費分の領収書、マーブルに支払ったことにしている手数料分の金額を紙に書いて渡した。


 貴子様、ざっと見て、


「思ったより安く済んでるわね」


 と宣う。


 確かにトータル的には日本側は損はしない。だが、俺たちはぼろ儲けだ。だって、さっきの渡した領収書とマーブルに支払った手数料の合計は、預かっていたお金のほとんどなのだ。今回は特別にマーブルの手数料には税金もかからないそうだ。


 更に小切手で二億円を寄こされる。手が震える……。



 沙羅の家に戻り、マーブルと打ち合わせ。


「働きたくないにゃ~」


 だらけきったマーブルの首根っこを持ち、沙羅の部屋に連行する。沙羅の母と祖母にブーイングを受けたので、小太郎を差し出したらおとなしくなった。


「間違いにゃく、ゼギール帝国の硬貨だにゃ。あきっちの国はゼギール帝国と取り引きしてたのにゃ。ご愁傷さまにゃ」


 ゼギール帝国は、マーブルの住むソールリシア王国のある大陸の中央にある大国。


 大陸縦断横断する交易路の交差地点にある要所ため、交易品や通行に強気の高い税を掛けて周りの国に煙たがれている。いい噂を聞かない国らしい。


 最近は各国が帝国の言いなりの税に嫌気がさし、徐々に航路を使った交易に切り替えている。だが、航海は危険が多いとのこと。


 これといった産業もなく、完全に交易路頼みの国のようだ。なので、現在それに反発するいくつかの国と戦争状態でもあるという。


 なるほど、そういう国なら納得だ。そんな国なら、販路を奪っても問題ないな。


 これからは、マーブル商会で仕切らせてもらおう。







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