113.後ろ盾

 沙羅は恥ずかしそうに顔を赤めて、えへへへと笑っている。沙羅はどんな表情をしても美人に変わりがないが、照れ顔も綺麗だ。だが、何を恥ずかしがっているのだろう?


 ジミーたちとは武器強奪講習会で歳が近く仲良くなり、日本にいる風師父を紹介してもらったことを説明する。


「拝礼の儀までするなんて、よほど気に入られたのね。あなたの師父は華僑の武術界では大物よ。現役は退いてるけど、その影響力はまだまだ衰えてないわ。厄介な人の弟子になったわね……」


 まあ、成り行きで……。


「林家も大物ね。全世界の華僑と台湾の政財界に太いパイプを持っているわ。その林家に家族と認められたあなたは、世界中どこででも華僑の援助を受けることができる。これがどれだけ凄いことかわかってる?」


 いえ、全然。


「はぁ……これが馬鹿な政治家に知れたら、やっきになってあなたを自分の陣営に引き込もうとするでしょうね」


 それは面倒だ。


「そもそも今回台湾で襲われたのは、その馬鹿な政治家のせいじゃないんですか?」


「う……痛いところを突いてくるわね。十六夜くんの話は数名の大臣クラスと探究者協会の上層部しか知らないのよ。だから今、漏らした犯人を洗い出しているところよ。今回の件は国益を損なう恐れがあるから、大臣といえどもただでは済まないわ。内乱罪か外患罪が適用されてもおかしくないわね」


 頑張ってくださいとしか言いようがない。


「別に政治家が死のうが俺には関係がないですね。正直、どうでもいいことです。そちらは貴子様にお任せします。そんなことより、話はどこまで進んでいるんですか? そちらのほうが大事です」


「そうね。政治家の件は十六夜くんではどうしようもないものね。そちらは任せてもらうわ」


 それで?


「その話に関してはいろいろ話が上がってきてるわ。前にも言ったけど日本は外交カードを切ってまで、異界の取引相手について各国に情報提供をお願いしたの。その情報から、同一国の同一組織と断定したそうよ。そのことは各国にも通達してあるわ」


 要するに、独占されていたということだな。それは強気な交換レートにするわけだな。


 同一国と言ったがマーブルの国ではないだろう。マーブルの様子からすると帝国とかいうところが怪しい。あとでちゃんと、マーブルに話を聞こう。


「なぜ、同一国の同一組織と?」


「取り引き時に使われる金貨や金の含有量を調べたら、全て同じだったのよ」


「その貨幣、一枚もらえませんか?こちらでも調べてみます。我々の取引相手と繋がっているかわかりますので」


 貴子様が電話し秘書さんがやってきて、コインマニアがするようなラッピングがされた金貨を渡してきた。


「貸すだけよ。うちにある資料用だから」


「ほかに決まっていることは? 取引に関してはどうなんですか?」


「どう転んでも新しい取引先に変わるわね。だけど……」


 だけど?


「やはりあなたたちだけに任せるわけにはいかないという意見が多いわ。取引は国が主体でやるというのが主流な意見よ」


 政治家の考えそうなことだ。明らかにうまい汁を吸おうという意図が見え見えだ。最後には権力で押し切ろうと考えているのだろう。こちらも釘を刺す必要がありそうだ。


「そうなった場合、こちらの立場はどうなるんですか?」


「オブザーバーあるいは共同でとというところかしら。その異世界人とも会ってみないとね」


 マーブルと会わせる? それは無理だな。全ての話が決まってからだ。マーブルが俺たちを裏切ることはないだろうけど、マーブルだけでは丸め込まれるおそれがある。政府関係者は信用できない。


 アディールさんみたいなやり手がこちらの仲間にほしい。会頭としてのシンボルはマーブルで問題ないけど、交渉となるとマーブルでは荷が重い。


 アディールさんを引き抜けないだろうか? 異世界との取り引きと言えば興味を引けると思うんだよなぁ。まあ、そこら辺は追々だな。


「美味しいところだけ持っていこうなんて考えるなら、両方失いますよ。って言っておいてください。向こうの取引先とは信頼関係で繋がっています。俺たちを無下に扱えば、向こうは手を引くでしょう」


 沙羅もうんうんと頷いている。


「そうなるわよねぇ。そういうことを考えない頭の固い連中だから、頭が痛いのよ」


「ないとは思いますが、馬鹿なことしたらマスコミに情報を流しますし、国外に逃げますからね」


「華僑の協力があれば、十分可能ね……。そして日本は国益を失い、笑い者になるわけね」


 転移があるから逃げるのは簡単だ。身分証明かパスポートさえなんとかなれば問題ない。


 アメリカなら司法取引も可能だろう。台湾なら林家の養子にでもなって帰化という手もある。


 マーブルの世界で生きるというのも一つの手だ。マーブルと一緒に各国と取り引きをすればいい。


 問題は沙羅だ、はたしてついて来てくれるだろうか? そんな沙羅を見つめると、こてんと首を傾げてみせる。か、可愛い……。


「取りあえず、もう少し時間をちょうだい。悪いようにはしないから」


 こちらは全然問題ない。問題があるのは向こうだろう。きっちり話し合って決めてくれ。





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