111.拝師礼

 昨日の夜は疲れた……惰眠を貪りたい。なんて言ってる時間は俺になく今日も訓練。沙羅たちは昨日の五人で買い物に出かけた。今日は林家の護衛もついて行っている。


 夜は明日日本に帰るので、お別れの食事会を開いてくれることになっている。アレックとニッキーも忙しい中、来てくれることになっている。それは楽しみだ。


 そして、俺はそれまで実戦の経験を積むため訓練。昨日と同じに交互に組手。組手をしていると来客の知らせが入り、一時中断になった。


 みんな険しい表情をしているが、何か起きたのか?


「藍丐幇の幹部が来た」


 マジですか! 昨日の報復か!?


「いや、幹部だけのようだ。林大人に会いたいと来てるから、祖父と父が対応する」


「で、俺たちはそれを覗くわけだ」


 いたずらっ子のようにジンが言うがいいのか?



 藍丐幇の幹部が通された部屋の隣の部屋で、男三人が聞き耳を立てる。俺は聞いてもわからないのでジミーとジンの翻訳を待つだけなんだけどね。


 話の内容は俺を引き渡せということ。


 俺の持つ情報が重要らしく、俺の情報を手に入れれば国益にも繋がると言っている。


 俺の情報ねぇ。間違いなく異世界の話だろう。漏れるの早くね? 貴子様というより政治家から漏れたのか? あるいは意図的に漏らしたと考えるべきか? 日本も一枚岩ではないらしい。


 ジミーの祖父たちが藍丐幇と台湾政府が関係しているのか探ろうとしているが、まったく尻尾を出さないらしい。


 まったく引かない藍丐幇の幹部に、ジミーの祖父が俺が風老師の拝師していない一般弟子だが関門弟子となると言ったそうだ。関門弟子とは最後の弟子ってことらしい。


 なので、林家とは家族も同然。我々に喧嘩を売る気か? と言ったら黙って帰って行った。


 さてこうなると、どうなるか? 俺は四人に囲まれ説明を求められる。


 さすがに俺の判断では話せないので、ショウさんが帰ってくるのを待つ。ショウさんが帰って来てから事情を説明して話し合い。先ほどの藍丐幇の幹部との話を聞かせて、林家を巻き込んでしまったことを話し、今後どうするか相談する。


 さすがにショウさんの手に余る話なので天を仰いでいる。結局、貴子様に連絡となった。


 ショウさんが電話している間、暇なので修業の続き。二時間ほど経ち電話が終わり、話を聞く。


 貴子様曰く、今はまだ詳しいことは話さないでとのこと。異世界人との接触したことのみ話していいらしい。情報を漏らした人間については向こうで調べると言っている。もし台湾政府関係者が出てきたら、その時は外交手段で圧力をかけるから連絡を寄こせと言っていたそうだ。


 今度はジミーの祖父たちを交えて話し合いになった。


 先ほどの話を踏まえて、四人には異界で異世界人に会ったことを話した。ジミーの祖父は探究者ではないので興味なさげ、ジミーの父は探究者について知っているようで少し興味がありそうだ。


 一番食いついたほやはりジミーとジン。迷宮のことは公表されているしジミーたちも入ったことがあるので、そこで出会ったと教える。


 台湾でも探究者シーカーの間で、迷宮探しが密かなブームになっているらしい。どこの国も抱える問題は同じようで、探究者のなりてが少ないそうだ。そこに吹くセンセーショナルな風。


 台湾でもラノベが読まれ、日本の漫画も出版され、アニメも放送されている。ダンジョンはその手のフリークにとっては一般的な言葉になているほどだ。


 マイナーな探究者シーカーが少しであっも、日の目を見るかもしれない願いがあるのだろう。


 台湾政府だって公表はしてないが、異世界との取引はしてるはず。それとも、魂石の使い道がほかにもあるのだろうか?


 話せないことは多いけど、一応それで納得してくれた。それを踏まえて改めて、俺のことを家族として迎えるということになった。台湾の林家だけではなく、世界中の林家に属する華僑が味方になるということだ。もちろん、林家に何かあれば俺も林家を助けることになる。それが家族ファミリー


 そして、その日の夜に急遽、俺の歓迎会を兼ねたお別れ会に変更。先ほどジミーの祖父が俺が風老師の弟子になる許可を頂いた。


 本来であれば風老師に拝師礼の儀式をするわけだが、仮で風老師の弟子であるジミーの祖父、そして林家先祖と祖師に拝師礼を行った。日本に帰ったら直接風老師にお会いして、もう一度拝師礼を行う。ちなみに風老師はwebでの参加をされている。

 

 拝師礼の儀式には、間に合ったアレックとニッキーも参加。終わった後に大師叔と呼んできたのでいつもどおり兄弟でいいと言ったが断られる。三度お願いしてやっと普通に呼んでくれた。ジミー曰く、断るのは形式美なんだそうだ……。


 夕食は豪華絢爛。宮廷料理かと見紛うばかりの料理が並ぶ。ジミーの祖父が新しい家族ができたことの喜びと、林家の繁栄を願う挨拶の後『カンペイ』で食事が始まる。


 お酒を注ぎに行こうとしたらとめられた。どうやら、俺が主賓でありジミーの祖父の弟弟子になるから、立場的にこの中で二番目になるので逆に俺にみんながお酒を注ぎに来るという。まじかぁ。


 頑張って飲んだよ。




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