110.藍丐幇

 翌日は仲良くなったグレースさんのお誘いで、女性陣は買い物。ショウさんは荷物持ち兼ボディーガード。ついでに癒し要員として小太郎が連れて行かれる。小太郎はどこでも人気者だ。


 俺は昨日の続き。今日はジミーの祖父から呼吸法について学ぶ。


 基本は幽斎師匠から習ったものと同じだった。違うのはその呼吸法に合わせた体の動き。途中から太極拳を習わされていた。太極拳は呼吸法や体の使い方の基本なのだそうだ。


 午後は組手。習った太極拳を使っての戦い方のレクチャー。足の運び体の捻り、ペシペシと容赦ない指導が入る。


 四人と交互に対戦。こちらは一人なのでもうヘトヘト。今日も夜は夜市に行くらしい。ローカルな夜市で寧夏夜市というらしい。寝てちゃ駄目ですか? はい、駄目なんですね……。


 今夜はジミーの恋人のアリスさんも合流。現役の女優さんなのだそうだ。夜なのにサングラスをかけているのは、目が悪いわけではないよね? 冗談ですよ? 疲れておかしくなったわけじゃないですからね。


 女性陣が五人になり更に姦しい……。加奈ちゃんへのお土産どうしようかなぁ。


 食事も買い物も済んで帰ろうかという時に、ガラの悪い男たち十人に囲まれる。女性陣を守るように位置取りし、ジミーがガラの悪い連中と話をする。


「なあ、兄弟。藍丐幇ランカイホウって聞いたことあるか?」


「いや、初めて聞いた」


「だよな」


 また、ジミーと男たちが話を始めるが、だんだん雲行きが怪しくなってくるのが口調からわかる。

 

「はぁ~? 馬鹿かこいつら? 兄弟、実践訓練の機会が来たぞ。やれ」


 ジミーが一歩後ろに下がって、俺を前に押し出す。


 いやいや、なにしてんの? 実践訓練って何よ? なんかこのお兄さんたち、ニヤニヤ笑ってやる気満々なんですけど?


「本気を出すなよ。内功は禁止な」


 うそ!? まさかのハンデ戦?


「おいおい、アキが内功を使って攻撃すると、こいつらじゃ死んじゃうぜ。見た目だけの小者ばっかだからな。絶対に本気出すなよ! じゃないと正当防衛にならないからな!」


 マジでー! それに俺一人でやるの~?


 ショウさんが前に出ようとしたけど、ジミーとジンに止められる。いや、手伝ってもらいたいのですが……。


 一番若いチンピラが俺の前に出てくる。一対一でやるようだ。自信があるのか? 相手の内功を探るとめっちゃちっさい。準備運動? の動きも遅く、武術を嗜んだ動きじゃない。いわゆる、喧嘩拳法ってやつだろう。


 台湾に来る前だったらビビッてまともに動けなかったと思うけど、昨日、今日の訓練を受けた俺には格下の雑魚にしか見えない。そう感じてしまうのは訓練の賜物だろう。


 向かって来ないのでこちらから動くとパンチを出してくる。やけにゆっくりな攻撃だ。うさぎ師匠仕込みの手首を掴み軽く捻ると、コロンと転がり仰向けになる。相手は何が起きたかわからないといった様子。あっけない。


 今度は三人が俺の前に並ぶ。タイマンじゃなかったのかよ! 厳つい顔の三人だが、さっきのチンピラに毛が生えた程度。今度は向こうからかかってきたので、躱して同じく手首を掴んで捻り転がしていく。


 今度は四人ですか!? 四人はナイフを出して威嚇してくる。これどうすんの? ってジミーを見ると、やっちまえと顎で促される。


 しょうがない相手をするか。ナイフは確かに怖いけど恐怖心は克服している。何度も武器を持った怪異モンスターりあっているからな。俺にとって奴らの持つナイフはお金だ。偃月で攻撃しちゃおうかな。


 なんて思っていたら、ナイフを持った四人を押しのけリーダーらしき男が出てきて構える。不思議な構えだ。


「アキ、螳螂拳だ」


 灯篭? ん? 螳螂か? しかし、螳螂拳と言われたところでどうしろと?


 足は前、体は後ろに引き、独特な手の動き。そんな体勢から素早く手刀が放たれる。


 動きは速いがたいしたことはない。とその手刀をはらうと払った俺の手を巻き込むように引っ張り、態勢を崩そうとする。なかなか、面白い動きだ。


 しかし、俺はビクともしない。相手に内功を使うなと言われたが自分に使うなとは言われていない。氣が充実してるし、今日の訓練で叩きこまれた体勢を崩さないように軸の根幹をしっかりと保つことを学んだことが効いている。


 引いても押しても動かないことに驚き、ならば手が駄目なら足でということか足払いをしてくる。それも完全に受け止める。少し痛い程度だ。これがジミーだったら、俺は転がされているだろう。内功のあるなしで、こうも違うのかと実感させられる。


 さすがに敵わないと判断し、連中は逃げ出すように撤収していった。


「どうだ。内功というのがどういったものかわかったんじゃないか」


「ああ、わかった。老師から素晴らしい贈りものを頂いたことにな」


 沙羅たち女性陣から賞賛の嵐でちょっと嬉しい。天狗になっちゃうよ?


「藍丐幇とはなんだ?」


 一人難しい顔をしているショウさんが、ジミーたちに問いかける。


「簡単に言えばマフィアだな」


「なぜそのマフィアがアキを狙った?」


「わからない。が、兄弟に手を出したんだ。きっちり落とし前はつける」


「お客人たちにも手は出させんよ」


 ジミーとジンがおどけた表情で答えを返すが、ショウさんは納得してないようだが黙り込む。


 マフィアねぇ。狙われる理由が思いつかない。


 面倒なことに巻き込まれなきゃいいなぁ。




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