109.覚醒

「最後は俺だな」


 ジミーが使う武器は直剣。一度見たことがあるが変幻自在の剣法だ。


 なにより、構えや動きが格好いい。


 直剣なら間合いはほぼ同じ。様子見などいらないで最初から全力で向かう。


 剣を躱しても間合いに入っても掌底や蹴りが襲ってくる。掌底が特に厄介でたいした力じゃないのに、体の内側に響くような衝撃を受ける。特に腹に受けると胃が揺さぶられるような感じになり吐き気が襲う。まじきつい。


 だけど、間合いが同じなので攻撃はしやすい。なのだが、ジミーは俺の木刀を受けるのではなく全て受け流す。柳の枝の如くゆらゆらと、布を叩いているかのようなこちらの力が抜けていくような感じだ。


 最後は喉元に直剣を突き付けられて終了。完全に遊ばれていた感じだ………。


「確かに固い。さすが大師父の内功だ。あれだけ俺の内功を受けてピンピンしている。だが、せっかくの内功を使いきれてない。この三日間で使い方を叩きこむしかないな」


 なんか、聞いてはいけないことを聞いたような……みなさん笑顔で頷いていらっしゃるんですけど?


 まずは、氣を知ろうということになり、ジミー先生の内功講座が始まる。内功=氣これはわかる。気配と氣は違う? そうなの? 氣とはは生きとし生けるもの全てが大なり小なり持つ力。気配を絶つことはできても、氣を絶つことは常人には難しいらしい。


 なので最初には氣を感じることから始めるとのこと。


 目をつぶり座禅を組まされる。左右どちらかに誰かが立ったら、そちら側の手を上げるという訓練を行う。


 最初は何もせずに普通に歩いて横に移動してくる。もちろんわかる。ここから一つ一つ気配などを絶っていくそうだ。そうすれば最後に感じるのは氣だけになるという。


 足音、服のすれる音、呼吸、移動する時の空気の動き、それらの気配がどんどん薄くなってくる。なので、俺は全身の感覚を研ぎ澄まし気配以外の氣を探す。


 そうしていると、俺にも氣らしきものが感じとれるようになってくるのが、よく……わからん。


「こ、こいつ鈍いぞ!」


 ジン、なんて失礼な言い方!


「自分の内功も感じられないのに、人の内功なんて感じられるか!」


「「マジで!?」」


「「…」」


「じゃあ、さっき使っていた氣はなんなんだ? 氣を感じられないのになんで氣を使えるんだよ!」


「勘?」


「「「「……」」」」


 呆れ顔の四人がなにやら相談を始める。


 話し合いが終わりジミーがこれから行うことの説明。


「本来ならじっくりと覚えさせるところだが、アキは理論派ではなく感覚派のようなので、時間もないから体で覚えたほうがいいと結論に達した」


 凄く嫌な予感。ジミーたち四人の笑顔が怖い。


 座禅を組んだ俺を中心に四人が座り、俺に向かって内功を送るというか放つ? そうだ。


 しっかりと、感じろと言われるが、その内功がよくわからないんだってばよ!


「大丈夫、パンダだって気づけるほどの氣を送る」


 なんで、そこでパンダ? などと考えていると、急に圧迫感が襲ってくる。だんだんと強くなり呼吸が苦しくなってくる。しいて言うなら重力で四方から圧し潰されそうという感じだろうか。


 どうしていいのかわからないが、取りあえず氣の訓練で行っている全身に氣をめぐらす感じを行う。そうすると、いつもは感じることができなかった体をめぐる氣がわかるようになる。それは、四人から送られる氣に反発しているかのようだ


 その流れを辿っていくと、空間? いや、泉? に気付く。体をめぐる四人の氣に反発するものが、実はその泉から出ていることに。


 その流れ出る量はとても細々としたものなので、蛇口を開くように太くしてみる。その瞬間、かぁっと体が熱くなり、気づけば天井を見上げていた。


 気を失っていたようだ。起き上がり周りを見ればものが散乱している。どうやら俺がやったようだ……。


 氣の蛇口を開いたことにより、一気に氣を送っていた四人の内功を吹き飛ばしただけでなく、その勢いで部屋の中のものまで吹き飛ばしたらしい。


「さすが大師父の内功と言うほかないな」


「だが、これで自分の中の内功に気付いたんじゃないのか?」


 確かにわかる。気がする……。


 もう一度、座禅を組んで近づいてくる気配を絶った相手の氣を感じる訓練を行う。


 おっ、見えるぞ! 私にも敵が見える! 敵じゃないけど。


 見えるというより感じ、おおよその場所がわかる。感覚を広げるとほかの三人の氣も感じ取れる。一番大きいのがジミーの祖父だろう。俺の横にいるのは四つの中で一番小さいからジンだな。その後ろに同じくらいの氣を感じる。ジミーと父親だろう。ほとんど同じに感じるので、やはりジミーには才能があるのだろう。


 ということで今日はこれまでとなった。時計を見るともう六時を過ぎている。夜は夜市に行く約束をしていたな。


 正直、休んでいたい。そういうわけにもいかないんだろなぁ。


 沙羅たちは既に買い物から帰って来てるらしい。俺待ちのようだ。シャワーを浴びて着替えてみんなの待つリビングに向かった。


 ジミーたちが連れて来てくれたのは饒河街観光夜市。日本人に一番人気がある夜市なんだそうだ。


 ジミーは妹、ジンは元モデルの奥さんを同伴して来た。リンちゃんは昼も一緒だったので既に沙羅たちと仲良し。ジンの奥さんのグレースさんは気さくな方のようで、三人でも姦しいのに四人で更に姦しくなった。


 男四人は美女四人の後ろを歩いて行くだけ。たまに、お裾分けという名の、食べかけや口に合わなかった食べ物が回ってくる。


 男子陣に決定権はないようだ。座ったお店で台湾ビールを飲んだのが唯一の自分で選んだものだった。


「にゃ~」


 小太郎はどこでもお店の人から可愛がられ、美味しものをもらって食べている。


 羨ましい……。




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