108.外功

 ちょっと気まずく冷や汗をかく中、ジミーの祖父から質問を受ける。


 フー老師の逍遥派では、師から弟子に内功を授ける技は秘中の秘なのだそうだ。どういったものだったか教えてほしいと頼まれたので、起きたことをそのまま話した。


「ということは、元々あったアキの氣は消えたってことか?」


 一人の体に二つの別の氣が入ると体を壊すそうだ。じゃあ、そういうことなんじゃない? 俺の元々の氣なんて少し前に幽斎師匠から無理やり覚えさられた、微々たるものだ。なくなったところで痛くもかゆくもない。


 みなさん納得したようで頷いている。何が納得なのかわからないので教えを乞う。


 俺に内功を授けた技は、一度授ける相手の内功を消して師の内功を授ける技。自分の内功がなくなるということは、それまでの生きた証を失うことでもあると説明された。


「確かに俺には必要ないな。大師伯の内功は魅力的だが、自分の内功を消す気にはなれないな」


 ほかに何かなかったか聞かれたので、最初に手合わせしてコテンパンにやられたことと、口伝された気構えを語った。


「破掌式と破刀式。無剣が有剣に勝つ?……まさか!?」


「「「「独孤九剣!?」」」」


 なんか、全員がハモったな。


「くそ、あのジジィ、やっぱり隠してやがったな!」


 よくわからないが、話しちゃ不味いことだったのかな?


「次の休みは日本に決定だ!」


「アレックたちには俺が連絡しておく!」


 ヤバい、ジミーたちの目がギラギラしている。フー老師、ごめんなさい……。


「よし、アキにはいい話を聞いたからな。お礼に俺たちが外功を鍛えてやろう」


 そう言って無理やり道着に着替えさせられ、表に連れ出される。まあ、望むところだ。格闘などは相手がいないと訓練ができないことだからな。


 対戦相手はジミーの祖父。ひょろっとした小柄な方だ。お互いに徒手空拳。向こうは拳法、こちらは月読流体術。


 遠慮はいらないとジミーが訳してくれた。異界ほどではないが、鍛えられた体と氣による強化された攻撃は伊達じゃない! とはいえ、氣は封印だ。純粋な格闘の訓練だからな。


 試合開始! はい。ボロ負けでした……。


 打撃は躱され、投げや締め技はいなされ、目の前に拳が寸止め。フー老師とまではいかないが、俺からすれば圧倒的な達人。手も足も出なかった。


「動きは悪くない。だが、呼吸が駄目駄目。だ、そうだ」


 次はジミーの父。明らかに鍛え上げられた体。プロレスラーのような人。これは勝てんやろぅ……。


 目の前で型を見せてくれているが、一挙手一投足に無駄がなく美しい。そのうえ、腕を振る度に風切り音がする。これ、生きていられるだろうか……?


 あまりに差がありすぎるということで俺は氣を使っていいことになった。それでも試合は防戦一方。攻撃する隙がまったくない。攻撃を受ける度に受けた場所が痺れる。


 結局、一度も攻撃できず終了。


 総評で師爺の氣を受け継いだだけあって守りが固い。なのだそうだ。やるな、と肩をバンバン叩かれた……。まったく相手になっていなかったけど……。


 次の相手はジンが相手してくれる。今度は武器での勝負。ジンは棍。俺は木刀。木刀というより、ただの木の棒。


 俺は正眼の構えよりちょっと右寄り。右利きのせいかこの構えが一番しっくりくる。そして正眼の構えより少しだけ、相手の動きに反応しやすい。何より落ち着く。さっきまでの自分が嘘のように心が落ち着いていく。少しは剣士らしくなってきたのかな?


 木刀とはいえ刀を持った以上、一撃必殺。と行きたいところだけど、これだけ間合いが違うとそうもいかない。餓鬼などと違って、ジンは手練れ。こちらの間合いに入らせてくれない。


 間合いを取り、幽斎師匠に教わった氣を練り、体全体に行き渡らせる。


 そして、呼吸だ。ジミーの祖父にも言われたことだ。呼吸を相手に気取られないことが大事。呼吸を気取られることそれすなわち、動きを気取られることなる。


 人だけではなく生き物なら必ず空気を吸った後に動くのが必然。なぜなら、力を出しやすいからだ。これを感じ取ることができるだけで、大きなアドバンテージとなる。


 極めれば……である。


 俺はそんな域に達していない。幽斎師匠から呼吸法は習ったが、いろいろあって修練していない。が、付焼き刃で実践。やらないよりましって程度。


 対人戦は老師と手合わせして以来したことがない。人でなければある。うさぎ師匠だ。でも、少し勝手が違う。


 ジンの動きを見るために防御に徹する。何とか躱してはいるけど。棍の間合いが長く上下左右至る所から攻撃が来るので木刀を使っての防御も使わらざるを得ない。


 なんとか目で追えているが、この攻撃をかい潜り内に入るのは至難の業だ。内に入れれば一撃くらいはと思い。棍を木刀で跳ね上げ刀の間合いにに入るが、今度は蹴りが飛んでくる。トリッキーな動きが多くやり難い。


 結局、ジンにに有効打となる攻撃は与えられずに終わる。代わりにではないが、こちらも有効打を受けていない。


「いやぁー、固てぇわ。本気じゃないとはいえ、ここまで粘られると自信なくすわぁ~」


「そう言ってもらえると、嬉しいな」


「これで、探究者になって半年って、末恐ろしいな」


 半分以上は老師から受け継いだ氣のおかげだろう。月読様の所での修行や幽斎師匠との立ち合いもあるだるけどね。




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