107.台湾旅行

 台湾への出発当日の早朝、沙羅の家の車がお出迎え。空港まで送ってくれるそうだ。車に乗り込む俺を、加奈ちゃんが手を振って見送ってくれた。お土産を期待しているね! とも言われている。加奈ちゃんのキラキラの笑顔が怖い……。


 沙羅と紗耶香さんと話をしながら空港へ。紗耶香さんは振休の消化が必要だったそうで、この旅行の話は渡りに船だったらしい。


「どこかの誰かさんたちのせいで、休みなく働いていたからね」


「人のせいにするのはどうかと思うよ! どちらかと言えば、あの班の責任者の姉さんのせいじゃないのかなぁ~」


「ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ。沙羅!」


 女三人寄れば姦しいというが、二人でも十分に姦しい……。


 ショウさんとは空港で待ち合わせ。空港に着くと、沙羅と紗耶香さんは小太郎をモフってモフモフ成分を蓄え中だそうだ。台北までは四時間もかからないというのに……。


 搭乗口前で待っているとショウさんがやって来た。私服でジャケットを着こなし無駄にイケメンだ。ちっ、潰れてしまえ! 何がとは言わないぞ。


 搭乗手続きをする前に小太郎を俺の自由空間に入れる。台北に着くまで我慢な。


「にゃ~」


 キャリーバッグと一緒に小太郎が消える。


「「コタちゃんは?」」


「秘密です」


 搭乗手続き終え、旅客機に乗り込み、そして離陸。


 俺は窓にべったり。飛行機に乗るのはこれが初めて。何もかもが初体験。沙羅と紗耶香さんはおしゃべり。ショウさんは寝ている。俺はベルトを外した後は探検に出かけた。用がないけどトイレも覗く。普通のトイレだった……。


 空の旅はあっという間。着陸、入国手続き完了。小太郎を自由空間から出して沙羅に渡す。小太郎は嬉しそうにサラにスリスリ。


「コタちゃんだ……」


「十六夜くんはなんでもありね……」


「アキだからな……」


 なんで呆れ顔で見られるのでしょうか?


 空港ではジミーとジンチェンが手を振って待っていてくれた。なぜかサングラスなどで変装している。最初、誰だかわからなかった。


「俺たちが普通に来たら、ファンで身動きできなくなるぞ」


「日本ではそこまでではないから普通にいられるが、一応俺たち有名人なんで」


 嫌みのない眩しい笑顔で答える二人に、お互い拳をぶつけてからハグ。


「見違えったな別人かと思った」


「氣が充実してるな。達人並みだぞ? どうやった?」


フー老師のおかげだね」


 見る人が見ればわかるのか。月読様も気付いていたけど特別じゃなかったようだ。


「確か、あの人は自衛隊の隊長さんだったよな。美人だとは思っていたが私服を着ると別人だな」


「沙羅のお姉さんなんだ」


「姉妹揃って美人とは。それで少しは進展したのか?」


「友達以上恋人に近づいた……」


「はぁ……あれだけの美人だ。ほかの男に取られるなよ?」


「お、おぅ」


 詳しい話は後でするという話になり。取りあえず宿泊場所に移動することになった。ジミーの家の二台の車での送迎、運転手付き。ジミーも金持ちか!?


 連れてこられた場所は豪邸。まじ豪邸。ジミーの実家らしい。


 今日から三日間、ジミーの実家でお世話になることになった。ジミーの両親と祖父母、兄弟姉妹と挨拶を交わす。


 ジミーが言うにはフー老師から教えを受けたから、ジミーと俺は兄弟同然なのだそうだ。だから、ジミーの家族は俺の家族。兄弟が家に泊まるのは当たり前という考えらしい。家族か、ちょっと嬉しい。


「アレックとニッキーは?」


「あいつらレコーディングでスタジオに缶詰だ。アキに会えないから残念がっていたぞ」


「台湾を楽しんでいってくれって言ってた」


 そうか、それは残念だ。歌手で役者で人気もあるのに本業が探究者って……天はいくつ才能を与えてるんだよ。


 昼食はジミーの家で歓迎を込めての食事会を開いてくれた。本家の中華料理と違い格式ばったものではなく、アットホームな昼食だった。おそらく、俺たちに合わせてくれたのだろう。夕食はサラの希望通り夜市に出掛け、食べ歩きになる予定だ。


 昼食後はジミーの妹のリンちゃんが沙羅たちをショッピングに誘ってくれた。リンちゃん、高校生なのに英語も日本語もペラペラだった。妹まで才女なのか!?


 ショウさんは荷物持ちでついていった。ついでに、小太郎も拉致された。


 俺はなぜかジミーの父と祖父それにジンに囲まれ、フー老師とのやり取りを根掘り葉掘り聞かれる。ジミーの父と祖父は日本語が話せないので、ジミーとジンが同時通訳になる。


「ということは、アキは大師父から内功を授かったのか?」


「本当はジミーに渡したかったらしいだけど、内功も強く才能もあるから必要ないって言ってた」


 ジミーが俺の話を訳すと、ジミーの父親と祖父が驚いている。


 あのフー老師はジミーどころかジンたちとも、血も繋がっていない。フー老師はジミーの祖父とは師弟関係にあり、ジミーの大師父に当たるらしい。まあ、ジミーはひ孫弟子みたいなものらしいな。


 フー老師には子供や孫がおらず、ジミーたち四人をを孫のように可愛がっていたそうだ。なので、老師の内功を授かるのはジミーたち四人のうち誰かと思われていたらしい。


 あれ? 俺が奪っちゃたってこと?





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