106.旅行準備

 そういえば、マーブルは? ショウさんに聞こえないように沙羅に聞く。


 ショウさんは小太郎がご飯を食べている姿を見ながら、沙羅の持ってきたお弁当を摘まんでいる。


「おばあ様とお母様に奪われたの……」


 マーブル的には理想だな。ゴロゴロして美味しいものを食べさせてもらえる。俺なんかだと食べたことがないようなものを食べてるんだろうな。羨ましい。


「歌舞伎座に公演を見に行くって言ってたから、お昼は銀座の金田上かな。マーブルが羨ましーいぃ!」


 沙羅が羨ましいと言うほどだから相当高級店でのお昼なのだろう。羨ましいを通り越して畏怖さえ感じる。恐るべし天水家……そして、マーブルにゃんこ。


 そういえば、髪のことは何もいわれなかった?


「あ、う、うん。イ、イメージチェンジって誤魔化した」


 そうか、それですんだのならいいや。あの天水祖父だとうちの孫を傷ものにしたな! なんて言いそうだからな。責任は喜んで取るよ?


 その日の夜にジミーにメールをしておいた。台湾だとそれほど時差もないから、夜のうちにメールを読んでくれるだろう。そして、朝には返信が届いていて、いつでも歓迎と書いてあった。


 ネットで飛行機のチケットが取れたので、お昼に電話を掛けて連休を利用して遊びに行くと伝えた。泊まる場所はジミーのほうで手配してくれるというので甘えることにした。


「ずーるーいー」


 いやいや、ずるいと言われても、俺にどうしろと?


 沙羅はスマホをいじりながら、俺のチケットナンバーを聞いてきたので素直に教えた。どうするんだ?


「取れた! 隣の席だよ!」


 はぁ~ぁ? 今なんて言った……隣の席? まじで行く気か!? 


「台湾と言えば夜市だよねー。楽しみだねー」


 いや、夜市が楽しみって、食べ歩く気満々じゃなですか!?


 それより、勝手に決めていいの? 


「天城さんが一緒なら姉さんも来ると思う。そうか、姉さんの分のチケット取らないとね!」


 だから、そういう問題ではなくてね……。それから、紗耶香さんの予定は無視かい!


 帰りに、迎えに来たショウさんに台湾のことを言うと、天を仰いでいた。俺のせいではないので気にしない。


 そして次の日、紗耶香さんも行くことになったと伝えられた。恐るべし沙羅の食い意地。そこまでして行きたいか!


 ジミーには人数が増えたことを伝えると、大歓迎なので気にするなとメールが返ってきた。


 それからは、忙しく旅行の準備。海外旅行なんてもちろんしたことがない。まあ、四日程度だから大きなバッグでいいやなんて沙羅に言ったら、なにを言ってるの! とトランクケースを買いに連れて行かれ、大きなトランクケースを買わされた……。


 有名なメーカーらしくGLOBE-TROTTERというらしい。沙羅が俺のために選んだのは三十六万円もするブルーのトロリーケース……。高いんですけど? 貴子様から預かってるお金から買え? これは経費だと? なるほど……いいのだろうか?


 なぜか、沙羅も色違いのトロリーケースを俺のカードで買っていた。それも、経費でしょうか……?


 ほかにも連れまわされ、いろいろ買わされる。全て経費としてカードで支払っている。俺たちのアッシーとなっているショウさんはやれやれといった感じ。


「完全に尻に敷かれているな……。まさか、紗耶香君も実は……」


 なんか、ブツブツ言っている。


 着ていく服や靴、向こうで着る服までも買わされた。もちろん経費で……。正直、こんな高い服や靴なって今まで買ったことがない。着るのも履くのももったいない気がする。


 沙羅曰く、友人とはいえお礼を言いに行くのだから、ちゃんとした身なりじゃなきゃ駄目! だそうだ。ついでに、お土産まで買わされた。カードで……。


 俺は台湾に行くと決まった日から、夜に二時間ほど自由空間に入る苦行を続けている。小太郎の前にアナログ時計を置き、小さい針が二時間経った場所を覚えさせて、その時間になったら自由空間から出すように言って小太郎の自由空間に入る。今のところ忘れられたことはない。


 木曜の夜である今日がラストチャンス。今日覚えなければ転移だな。


 ちなみにマーブルは行かない。駄菓子の補給や貴族からの注文の確認、弟さんの様子などを見に向こうと行き来するそうだ。だが、向こうに帰る気は更々ないらしい。今住んでる家は弟のプッカに使わせると言っている。


 マーブルよ。完全に暗黒面に落ちたな……。


 などと何もない空間で考え事したり、本を読んだり、刀を振ったりして時間を潰す。


 本当に何もない、風もない、音もない色すらない空間。二時間ほどだが気が滅入る。実際は二時間どころではないと思う。体感で半日はいるような感じだ。もしかしたら時間の流れが表と違う、不思議な空間なのかもしれない。


 しかし、おかげでその日、自由空間を覚えた。これで、小太郎は俺の自由空間で台湾に連れていける。ふかふかの毛布を用意したので、好きなだけ寝てればいい。一応、おもちゃもいくつか用意はした。まあ、小太郎は寝てると思うけど。





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