105.護衛
それにしてもこの階は広い。左回りに歩いているけど、まだ角にぶつかっていない。ゴブリンが雑魚なのでサクサク進んでいるけど、下に行く道が見つからないのではどうしようもない。稼げる狩場が見つからないかなぁ。これだと地上で武器狩りしてるほうが有意義だ。
そろそろ戻る時間だ。俺と沙羅だけなら俺の転移で入口に戻るところだが、ショウさんに転移を見せるわけにはいかない。これは、ある意味俺の切り札だ。
たとえ、貴子様が相手であっても、いいように利用されるつもりはない。一度、アメリカにでも旅行しておくか。転移できる場所は増やしておいたほうがいい。日本の政府というより政治家どもは信用できるとは言いがたいからな。準備は必要だ。
さて、帰りますか。そういえば、ショウさんはドロップしたゴブリンの腰巻を拾って、持参していたビニール袋に入れていた。本当に持って帰るようだ。正直、信じられない。
月曜、大学に行くと校門に私服のショウさんがいた。
「自衛隊って暇なんですか?」
「暇なわけないだろう。昨日、天水くんと話ができなかったからな、一緒に話をしようと思ってな」
「俺は午前は講義があるので午後からしか空いてませんよ。サラは聞いてみないとわかりません」
「昼食は取るんだろう? その時でいい」
「それまではどうしてるんですか?」
「大学側には許可を取っているからな。ぶらぶらしてるさ」
やっぱり自衛隊は暇なようだ。
「一人じゃ寂しいでしょう。お昼は中庭にいますので」
小太郎の入ったキャリーバックと水とお皿、おやつのカリカリの入ったバッグも渡す。
「にゃ~」
「お。おい!」
昼に中庭に行くと小太郎をお腹に乗せ、うたた寝しているショウさんがいた。小太郎は俺に気づいて顔をあげる。沙羅もちょうど向こうからやって来た。
起きたショウさんと沙羅がお互いに挨拶。どうやら、まったく知らない仲ではないようだ。紗耶香さんが一度家に連れて来たことがあるらしい。なるほど、そういうことなのか?
沙羅の持ってきたお弁当を食べながら話を聞く。今日も豪勢だ。ちゃんと小太郎用のごはんも用意されている。と言うよりメインが小太郎か……。
「にゃ~」
ショウさんは護衛ではあるが、常時護衛するわけではない。大学での授業中は護衛はしない。ただ、通学の行き帰りは車で送り迎えしてくれるそうだ。
沙羅はいつも車で送り迎えされているので除外。送り迎えはするが、異界探索にはついてこない。前回はショウさんの興味からついてきたそうだ。
基本、俺の一週間分の予定を週末にショウさんに送り、必要な場合に護衛につくということだ。
それはいいな。送り迎えだけなら迷宮探索で邪魔にならない。転移も使えるので探索が楽になる。
ついでに、貴子様との連絡役にもなってくれるらしい。
「こんなところだ。質問は?」
「旅行や遠出するときは?」
「上の方針が決まるまではできれば、控えてほしい。どうしてもという場合は、私が同伴することになるだろう」
「では、その方針が決まるのはいつですか? それとショウさんはどこまで知っていて、どこまでの権限を持っているのですか?」
これは大事だ。護衛につくといっても、政治家などの国家権力に対抗できないと意味がない。それに、どこまで知っているかでこちらの対応も変わってくる。
「上のことはわからない。君たちについては粗方聞かされているし、身辺についてもすべて調べている。私は便宜上、特異室預かりになっているただの自衛官だ。これで答えになったかな?」
「護衛の範囲は? 馬鹿な政治家からも守ってもらえれるのですか?」
「命令に変更がない限り」
うーん。正直、微妙だ。沙羅はご家族に自衛隊の幹部がいるから大丈夫だと思う。何かあっても天水祖父たちが守るだろう
問題は俺だ。何の後ろ盾もない俺だと、力ずくで馬鹿なことをしでかす輩がいないとも限らない。ショウさんも暗に上の命令には逆らえないと言っている。
これは早いところ転移場所を増やしたほうがいいのか? もしもの時に退避できる場所を作っておかないとまじで詰みそうだ。
アメリカのラルフさん、フランスのニッキーさん、台湾のジミーに会いに行くというのもありだな。特にジミーには老師を紹介してもらったお礼も言いたい。
一応、一度も使ったことはないがパスポートは持っている。最初は近い台湾に行くのがいいか。後で連絡を入れてみよう。
「近いうちに台湾に行くと思います」
「台湾? 旅行か?」
「友人に会いに行く予定です」
「すぐに行かなければならないのか?」
「仁義をとおすためなので早めに行く必要があります」
「やくざか!? ……わかった聞いておく」
「いいなぁ。私も台湾行きたいなぁ」
食べ歩きか!? 食べ歩きだな。間違いない。
小太郎はどうやって連れて行こう。普通に乗せたら高いんだろうな。沙羅に預けて転移で一旦もどってくるか? ありだな。
あるいは俺が自由空間の習得を目指すのもありだ。あの苦行を俺がやる……耐えれるだろうか? しょうがない、小太郎の自由空間に入ってみるか。小太郎、俺が入ってること忘れないよな?
「にゃ~」
ちょっと不安だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます