102.女準男爵

 子どもたちに小銅貨五枚ずつ渡し、お客になってもらう。みんな目を輝かせている。 院長先生がお金を払おうとしたので固辞した、子どもたちは練習のためのお客役のエキストラなのだから、アルバイト料を支払うのはこちらだ。


 子どもたちが一斉に屋台に群がり、注文を始める。シェリーはあたふた、沙羅もあたふた。マーブルは知らん顔。仕方がない手伝うか。


 嵐が過ぎ去った後、シェリーと沙羅は地面にへたり込む。マーブルと院長先生は微笑みながらお茶を飲んでいる。


 シェリーに一人でやれるか聞くと頑張ります! と返事が返ってきた。


 最後にもし因縁をつけられ嫌がらせや暴力を振るわれそうになったら、屋台を捨ててでも自分の身を守るようにきつく言っておく。屋台はまた作ればいいが、シェリーは一人だからね。


 俺、いいこと言った!


 渋々とマーブルが在庫の駄菓子を全てシェリーに渡し、今度は王宮に行く。


 仮手形を衛兵に見せるとすぐに王宮内に案内される。VIP待遇だ。すぐに侍従長と侍女長、そして料理長がやって来た。 


「マーブル殿。待っていましたよ」


 取りあえず、前回の残りの品を収める。すぐに人が集まり運び去られる。


「陛下や王妃様が大変お喜びになられ、直に礼を言いたいと仰られておりました」


 それは、勘弁してください……。


「む、無理にゃ~!」


「と、仰られると思い、何かお気持ち程度のものを下賜なされるように申し上げ、こちらを預かっております」


 綺麗な白い鞘の短剣だ。よく見ると紋章が意匠されている。


「それを持つということは名ばかりではございますが、貴族の末端に加わること、陛下のお心遣い、ゆめゆめお忘れなきよう」


「……」


 この世界の貴族制度がどうなのかわからないけど、おそらくマーブルは平貴族、いわゆる準男爵に任じられたってことだろう。


 マーブルは女だからバロネテス、女準男爵となる。準男爵は騎士爵より上のはずだからマーブルの住む町では相当上位の権力者となったわけだ。


 もし、マーブルに楯突いたら切捨御免ができるくらいの権力だ。まあ、そんなに簡単に無礼討はできないけどね。でも、できるという権力があるというのが大事だ。


 マーブルは短剣を持ったまま、固まっている。肘で突っつくと飛び上がってから、土下座になって短剣を掲げ、


「ありがたき幸せですにゃ~」


 ってなっている。


 そんなマーブルを侍従長と侍女長、料理長は微笑ましく見ている。実際、王家への忠誠を求めているわけではなく、本当に感謝の気持ちと、ほんの少しマーブルを助けるという意味で渡したと思う。マーブルが悪いことに使うようには見えないしね。


 ならば、ここでマーブルの株をもう一段上げようではないですか。釘は熱いうちに打てというからね。


「我が商会の会頭に過分なるご配慮、痛み入ります。つきましては、陛下に献上したき品がございますれば、お受けくだされば幸いにございます」


 そう言ってから、マーブルに高級タオル、高級バスタオル、高級バスローブを出させる。


 薄い真っ白な紙で包み、金色のリボンで結んでいる。見るからに特別という見た目にしてある。中身の品は金糸の縁取りのものと銀糸で縁取りされているものを用意した。それを二セットずつ。陛下と王妃様分だ。


 まあ、いくらでも用意はできるのだけど、超プレミアム感を出させる。特別なんだからな! って感じで。


 侍女長が恐る恐るリボンを外し中身を確認。見た目で驚き、そっと触れて更に驚き動きが止まる。


 俺も触ってみたが、今まで触ったことのないふわふわ感。水分の吸収もいいだろし、着心地も最高だろう。俺のお小遣いでは手が出ない、いや、手が震える値段だった。


 沙羅は気に入ったようでカードで購入していたけど……家族含めマーブルの分も。ごめんな、小太郎……貧乏なご主人様で。


「こ、これは買えるものなのでしょうか?」


「残念ながら貴重な素材を使用していますので、多くは作れません。長い付き合いの我々でもなんとかその二セットを譲って頂けたくらいなので」


 いやぁー、ここまで口から出まかせがスラスラ出てくると、俺は詐欺師の適正があるのかもと思ってしまう。


「それほどの貴重な品を献上されるとは、陛下も王妃様もお喜びになられるでしょう」


 ご褒美期待してますよ?


 さて、本題に入りますか。


 食器の見本を出していく。いくつかの銀製のカトラリーセットも出す。シンプルな物から意匠の凝ったもの好きなのを選んでもらおう。


 侍従長は黄色の絵柄に金縁、料理長は青色の絵柄に銀縁を持ってしげしげ見ている。侍女長は一セットこの場で買い取ると言って、近くにいた侍女さんに何か入った小瓶を持ってこさせる。その小瓶の液体を数滴ナイフに垂らすと水滴の付いた部分が黒く変色していく。


 銀の硫化反応だな。あの液体はヒ素か? この世界でもヒ素が毒殺に使われているということか。ヒ素は味がしないし、ものによってはニンニク臭がするというが無臭の物もある。毒殺にはもってこいだ。黒ずんだナイフを厳重に布に包んでいる。捨てるつもりなのか?


 もったいない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る