100.異世界の品

 各種インゴットについては、ほかの人たちが喜んでいる。


「これらも全部預かるわ」


 執務室に戻ると小切手が渡される。


「あの武器を買えるだけ買って来なさい。あれは異界探索に必要なものよ。今後の我が国の優位性を決めかねないほどのね」


 小切手のゼロを数える八個ある。頭の数字は五だ。ご、五億!?


「戦闘機を一機買うのに比べれば格安よね。オークションに出したら、いくら値が付くか想像もつかないけど」


 バイオリン一挺 20億する時代だ。そのくらいの値段でもおかしくない……のか?


 自衛隊のエリート部隊でさえ異界の探索に行き詰っていると聞く。一定以上進むと怪異が強すぎて手が出ないらしい。それらを打破するための重要な武器になると貴子様は見ているようだ。


 となると防具も必要だよねぇ。


 正直、五億も必要ない。桁が二つ減っても問題ない。でも、安く見られても困るので、三億は現金化して小太郎の自由空間にでもしまっておこう。


「それで、あの場で副産物のことを言わなかったってことは、それほど聞かれたくない情報ってことかしら?」


 沙羅と顔を向き合わせ頷く。


 沙羅がどこからともなく一冊の本を出した。契約を済ませた後、自由にどこからか出し入れできるようになったらしい。


「それは?」


「魔導書です」


「魔導書?」


 向こうの世界で魔術の知識を学び魔術を使うの者を魔術士。魔法スキル持ちを魔法士。魔導書と契約した者を魔導士と呼ぶそうだ。


 この本は過去の偉大な魔術を極めた魔術士が後世に残した魔術士の英知を詰め込んだ魔導書で、この魔導書と契約を交わすことで魔導が使えるようになる。


 簡単にいえば魔導書が契約者に代わり魔術を行使してくれるということだ。


 この魔導書は向こうでも知られていないと説明。そして、なぜか沙羅は魔法スキルを覚えていた。魔術を行使する魔導書なのにだ。意味が分からん。実は魔法も魔術も魔導も同じなのかもしれない。


「また、とんでもないものを見つけてきたわね。でも、どうしてそんなことがわかったのかしら?」


 鋭い目つきで睨んでくる。


「それは……もちろん企業秘密です」


「秘密なのね。まあ、今はいいわ。沙羅ちゃん、使ってみたの?」


「まだです。来週に検証するつもりです」


「レポートの提出お願いね?」


 とても怖い笑顔で沙羅に言う。


「はひっ!?」


「はぁ……早めにお目付け役を探さないと駄目ね……」


 なんで、そんな可哀そうな子をみる目で俺を見る?




 明日からは夏休みが終わり大学も普通の授業に戻る。


「マーブルは向こうに戻って仕事な」


「えぇー、いやにゃ~」


「いやじゃない。やることいっぱいあるだろう?」


「なんにゃ?」


 可愛らしく誤魔化しても駄目。王宮に残りの品を届けなければならないこと。魔導書、魔剣探し。貴族の注文。今回置いてこなかった缶詰のこと。駄菓子屋台の件と店員の確保。などなど、やることは山積みだ。


「面倒にゃ~。あきっち全部やってにゃ~!」


 大学があるから無理。


「誰かマーブルの片腕になる人を雇ったら? こっちにいる間、向こうを任せられる人」


 確かに沙羅の言うとおりなんだけど、大金が動くから生半可な信用では心許ない。


「屋台のほうは心当たりがあるにゃ。うちの仕事を手伝てくれる人材かにゃ~? 里に帰ってみるかにゃ~」


 なんか心当たりがあるようだ。それが解決するまではマーブルが頑張るしかない。


「うにゃ…」


 その後、マーブルは沙羅の家と向こうを行ったり来たりしているらしい。


 大学ではいつもどおりと言いたいところだが、最近俺のロッカーが荒らされて困っている。鍵も付いている個人ロッカーなのだが、上着が刃物でズタズタにされていたり。ゴミが詰め込まれていたり、赤色のラッカーで死ね!と書かれていたときもある。まあ、ロッカーはさほど使っていないので実害は少ないのだが、頭にはくる。


 一応、大学側には言ってある。警察に被害届を出すと言ったら、上着は大学側で弁償するので怒りを収めてほしいと言われた。弁償してくれるなら今回は大事にしないでおくと言っておいた。別のロッカーももらえた。もう、ロッカーは使う気はないけど。荷物は全部小太郎の自由空間にしまえるからな。



 水曜日、マーブルが貴族からの注文表を持ってきた。王宮から情報が漏れたようで多くの注文が入っている。 


「これ本当に買ってくれるんだよね。ツケは絶対駄目だからね」


「問題ないにゃ。いつもニコニコ現金払いにゃ!」


 沙羅のおばあ様から洋食器を扱う業者を紹介され、見本品もいくつか仕入れている。


 小切手も現金化して通帳に入れたので、仕入れのお金は問題ない。二千万ほど小太郎の自由空間に入れた……取りあえず、俺の人件費だ。


 駄菓子屋の店員はマーブルの知り合いの孤児院の院長の紹介でその孤児院出身の人を雇ったそうだ。屋台もすでに出来上がりいつでも引き取りに行ける状態。


 ついでに職人ギルドに高性能武器の作成と探しているので見つけたら買い取ることを依頼したそうだ。王都などの武器屋にも同じ依頼をしてあるという。


 帰りにいつもの雑貨の問屋に行って注文。何か言いたそうな社長を無視。沙羅の家に配送を頼む。


 なにか考えないと駄目かな?







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