99.バランスブレーカー

 帰りに雑貨の問屋に行き注文。何に使うんだという目が痛い。気にしちゃ駄目。


 今回、注文した分は王宮に卸す分。貴族からの注文分は後日。どれほどの量になるのか怖い。


 王宮に売り込む高級素材のタオル、バスタオル、バスローブも仕入れる。更に痛い目線。


 ノート類の注文をも済ませるが、高級紙は取り扱っていないと言われ、取り扱っている問屋を紹介された。


 近くなので行ってみよう。


 いろいろな紙を扱う問屋だ。話を聞くと長期保存に向いた紙は中性紙で300年ほど。和紙だと1000年くらいもつそうだ。


 書きやすさコスパ的に考えれば中性紙になる、取りあえず、A3サイズを五十枚ずつ注文する。ガラスペンも扱っているということなので、インクと一緒に二十組を注文した。


 帰りにソフトクリームを食べてから、沙羅の行きつけの美容室に行き、沙羅が乱雑に切った髪をセットしてもらう。美容師さんが凄く残念そうにしていたのは同感だった。


 沙羅に家に寄って行くように誘われたが遠慮した。明日、貴子様に会いに行くのだから二日酔いは勘弁してほしい。



 翌日、沙羅の家の車で貴子様の元へ行く。今回も厳重に身体検査を行われ、やっと貴子様の執務室に着いた。今日のお土産は兎屋のどら焼き。ここに来る途中で寄って買って来た。


 どら焼きを頬張りご満悦の貴子様。皇室に連なる人には見えない。皇室の人も普通の人ってことだね。そんなどら焼きを頬張りながら、小太郎をモフモフしている顔の目の下には若干の隈が見られる。


「何か進展はありましたか?」


「この顔を見て、あると思う?」


「「……」」


「関係各所、閣僚、関係者、みな上や下への大騒ぎよ。同盟国にまで恥を忍のんで問い合わせしてるくらいにね。これで話がうまくいかなかったら、首を吊るしかないわ」


「こちらは思った以上にうまくいってますよ?」


 貴子様に今回使った仕入れ代の領収書と、まとめた書類を渡す。貴子様がざっと目を通す。


「生活用品が主ね。缶詰はわかるけど、この駄菓子類はなに?」


「社会貢献の一環で、子どもたちのために儲けの一部で利益度外視で駄菓子屋開こうかと」


「……」


「私たちと取り引きしている商会はまだ小さいですから、利益だけを追求すると、ほかの大きな商会に潰されかねませんので、味方を多く作るしかありません。そのための一環でもあります」


「はぁ……いろいろ考えてるのね……政治家どもに聞かせたいわ」


 ははは……たんにマーブルが食べたかっただけなんて、口が裂けても言えない。


「今回、王宮を仕切る侍従長とも繋がりが持てましたので、これも利用します。すでに王宮出入りの手形と、王宮御用達の一筆も頂けることになっています」


「あなた意外と手が早いのね。沙羅ちゃん気を付けなさいね」


「ほぇっ!?」


「それより、その言い方、あなたたちもしかして……行ったの?」


「はい」


 沙羅は顔を真っ赤にしなが、首を縦にブンブン振って答える。なんで顔が真っ赤なんだ?


「……」


 貴子様、自分で聞いておいて目が点状態。


 さて、さわりはこんなもんでいいだろう。


「それで。実際どうなんですか?」


「はぁ、いいわ。行った話は後で聞かせてもらうからね。そうね、鑑定は終わってるわ。科学的にいえばこちらの世界の品質より劣る。なのに、性能は遥かにいいらしいわ。昔の名品と同じね」


 なるほど、製作者の魂が宿るのだろう。向こうの武器に関してはそれ以外にもありそうだけど。


「魂石についてはさっきも言ったけど、恥を忍んでどのくらいで取引しているか確認を取っているわ、だいぶ外交カード切ったようよ」


 俺に各国とも異世界人と取引していると、暗に教えてくれているのだろう。どこまで聞き出せるかは政治家の腕と切ったカード次第か? 同じ異世界人かくらいはわかるかな?


「君に関しては揉めているわね。特にこの件に関して既得権益を受けていた政治家どもがね。逆に関係企業はみな賛成してるわ。新しい素材や技術が手に入るかもって」


 既得権益に群がる腐った政治家。死ねばいいのに……。いや、この世から消えてくれ。そうだ、竜の大回廊に捨ててくれば怪異モンスターが始末してくれる。完全犯罪だ……いや、それをやったら俺も腐った政治家と何も変わらないな。


「ということで、君からは内外かかわらず益々目が離せなくなったわ。今月中に護衛を向かわせるから」


 お馬鹿な政治家にも狙われる可能性があるということか。はぁ……面倒だ。


「それでうまくいってる状況は?」


「言われた品を集めてきました。気に入ってもらえると自負できる品です。それと……それに付随した大きな副産物も発生しました」


「気に入る品と副産物…見たくもないし、聞きたくもないわ……」


「まあ、そう言わずに見てくださいよ。絶対に気に入りますから。どこに出します?」


 貴子様が秘書さんを呼びこの前の厳重な部屋を開けるように指示を出し、連れて行かれる。 


 小太郎くん、出してあげたまえ。


「残念ながらいい防具は手に入りませんでした。やはりオーダーメイドになり売っていません。代わりに武器はこの二本を仕入れました。前回お渡しした武器より数段上の武器になります」


「そこまで言うからには性能を確認したのよね?」


「向こうにも鑑定できる人はいます。こちらの世界より普通にいるようです。話がそれましたね。それで……」


 二本の魔剣の性能を説明する。説明するたびに貴子様の口元がひくひくしている。


「向こうでは魔法というスキルがあり、アビリティーと同じように理力を使い魔法を行使します。向こうでは理力を魔力と呼んでいます」


「じゃあ、この剣に理力を流すとファンタジー武器になると?」


「試していないので確実ではありませんが、概ね間違っていないと思います」


「バランスブレーカーね……どんなにお金を払っても欲しがる人は後を絶たないでしょうね」


 どうなんだろう? 武器は人を選ぶともいう。素人がこの魔剣を持ったところで使いこなせないんじゃないだろうか?


 猫に小判だ。


「にゃ!?」





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