98.奇人コーエンの魔導書

 マーブルの家に戻り、本のことを説明する。


 奇人コーエンの魔導書というのは有名な本らしい。役に立たない偽物の魔導書として。


「なんで、あきっちの鑑定でわかるにゃ? 多くの偉い鑑定士や魔術師が見ても何もわからなかった代物にゃよ?」


 さあ、俺にわかるわけがない。でも、俺の鑑定によればこの魔導書は本物だ。


「で、どうする?」


「さらっち、使ってみるにゃ!」


「わ、私!?」


「あきっちは、魔法を使ってるにゃ。必要ないにゃ」


 月彩の英気は魔法なのか? 理力と魔力は同じみたいだからそうなのか? まあ、沙羅が強くなることには賛成だ。問題は対価だな。嫌なら断ればいいのか?


「わかった。やってみる。どうやるの?」


 本を開き一ページ目にある魔法陣に血を付けるように言う。


 マーブルがサラにナイフを渡し、サラが指先にナイフを少し差し血を出す。その指先を魔法陣に押し付ける。風月で傷を治してあげしばし待つ。



【サラと魔導書の会話(念話)】


『汝、我と契約するものなら名を告げよ』


「天水沙羅」


『汝、サラは力を欲するか?』


「うーん。どうかな? 制御できない力はいらないかな?」


『ならば、契約せぬか?』


「それは制御できない力ってこと? 魔導書さん」


『我は力を授けるのみ。その力をどう使うかは契約した者次第』


「そう。私次第ってことなのね。なら契約する」


『では、我と契約を交わすにあたり、汝に対価を払ってもらうがよいか?』


「私に払えるものなら」


『よかろう。なれば、汝の愛する者と毎日接吻せよ』


「ちょ、ちょっと待った! な、なに言ってるのかな? 魔導書さん!」


『ん? 聞こえなったか? ならばもう一度、汝の愛する者と毎日接吻……』


「魔導書さん! 燃やす! 燃やして灰燼と化すよ!」


『なにを慌てる必要がある。愛する者と抱擁し接吻するのは普通であろう? これほどの好条件で契約を結ぼうというのに拒否するのか?』


「ぐぬぬぅ。駄目じゃないけど……やっぱり、まだ駄目! 魔導書さん、再考を要求する!」


『なんとも初心な娘だ……母親や父親の頬や額に口づけするだけでよいというに。仕方ない、ならば、そなたの髪を余分な分寄こすがよい』


「ま、魔導書さん!? 説明なさすぎ! まあ、髪くらいでいいならそれでいいけど、このくらいでいい」


「よい。髪は魔力の源。我の魔力を回復させるには手っ取り早い」


 沙羅がナイフで自分の髪を肩辺りかバッサリ切り、魔導書の上に載せると消えていく。


『これで汝と我の契約はなった、汝は我の主。これより、我は主の敵を打ち滅ぼそう。我が名はコーエン22。主の命尽きるまで真僕となろう』



 どうやら契約が終わったようだ。


 沙羅の表情がクルクル変わる、変わった契約だったな。沙羅が自分の髪を切った時は驚いたが、あれが対価だったのだろ。それでは仕方がない。サラの長い黒髪は美しかったのになぁ。もったいない。


「これでさらっちも魔法士にゃ!」


「これで私も魔法少女になったのね!」


 小太郎を抱き上げほっぺにちゅっちゅっしている。小太郎が羨ましい。それから、サラは魔法少女というより魔女っ娘のほうがあってると思うな。あるいは、魔女そのものか?


「あきっち、これは大発見にゃ!」 


「だけど、これは内緒だ。こっちの世界の人は学ぼうと思えば魔法を学べるけど、俺たちの世界は違うから、このことを独占したい」


「ほかにもこんな魔導書ってあるのかな?」


 たまに本屋巡りをするのもいいし、王都などの大きな都市には図書館がある所もあるので行ってみるのもありかも。


 魔導書のナンバーが二百まであるなら残りの魔導書も欲しい。商業ギルドと魔術師ギルドとレイダーギルドに依頼を出すことにした。


 依頼を出し終えてから、沙羅の家に俺の転移で全員戻る。問題なく戻ってこれた。月読様、様様だ。


 時計を確認すると、まだ昼前だ。やはり時間にズレがある。沙羅には貴子様に連絡を入れてもらう。その間にマーブルの自由空間から小太郎の自由空間に向こうの品を移す。今回はたいした量じゃないけど一つ一つの単価が高い。


「明日、会ってくれるって。なんか、凄く不機嫌だったよ?」


 ははは……。まだ、一週間しか経ってないからな。おそらく、お役所仕事で何もことが進んでないのだろう。そこに、また俺たちが問題を持ち込むわけだ。


 買い物ついでにお昼を食べに行く。沙羅の家の運転手さんの手が空いていたので、街中まで送ってもらえた。 


 沙羅に天水家行きつけの高級天婦羅料理店に連れて行かれる。もちろん個室。マーブルや小太郎の同伴の許可ももらえた。


 個室で目の前で天婦羅を揚げてもらえるなんて……なんて贅沢。小太郎とマーブルは新鮮な高級刺身をご堪能。俺も鮪の大トロを振るえる箸で頂く。確かにうまいと思うのだが、貧乏生活が長いせいか赤身のほうが舌に合う……悲しい現実。


 今度。月読様の所に行ったら大トロを食べて、口を慣らそう。今度は赤身の味がわからなくなったりして。


 沙羅がカードでお支払い。天婦羅も美味しかった……。





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