96.取り引きの指標
向こうの三人も話し合いが終わったようだ。
「これらの品ですが、どれくらいご用意できますでしょうか?」
「我らも商人の端くれ、お望みとあらばいかほどでも」
「では……」
侍従長が言うことをノートに書いていく。正直、驚くほどの量だ。今回持ってきた分では全然足りない。
「食器類は特注で作らせることはできますか? ほかの物より豪華なものが十セット。銀製のカトラリーも十セット欲しいです」
「出来ますが、完全オーダーメイドとなりますので、その分お高くなりますが?」
「構いません。特別な場合に使うものですからそのくらいは当然でしょう」
「わかりました。それでは後日、見本をいくつかお持ちしましょう。柄などにご希望があればその時に伺います」
「承知しました。それから、貴殿が先ほどからお使いになってるものですが……」
ん? このノートと鉛筆か? 新しいノートと鉛筆、消しゴムを差し出す。
「商業ギルドに卸している筆記用具です。たいしたものではありませんが差し上げます」
「では、ありがたく」
鉛筆をナイフで削って見せ使い方を教える。
「素晴らしい品ですね。商業ギルドで既に使われているとは……」
そこから始まる侍従長たちとマーブルの攻防戦。凄い金額が飛び交ている。俺と沙羅はそんな光景を他人事のように見ながら淹れてもらったお茶を飲む。
「沙羅のところでオーダーメイドの食器を扱っているところ知らない?」
「おばあ様が詳しいから聞いてみる」
激しい攻防戦も終わりが見えてきた。
「侍従長さんは厳しいにゃ~」
「いえいえ、マーブル殿もなかなか手強い」
お互いに手を握り合って健闘を称えあっている。
「私どもから一つお願いがあるのですが聞いていただけないでしょうか?」
「お願いでございますか?」
「たいしたことではございません。我がマーブル商会はまだ小さき商会。そのような商会が王宮などに出入りすれば本来の御用商人が黙ってはいないでしょう。ことによってはその力で私どもの商会に仕入れ先を教えろなどと脅しをかけてくるかもしれません。商人にとって仕入れ先は命より大事なもの、教えるくらいなら商会を閉めることもやぶさかではありません」
「マーブル商会殿が店を閉められるのは困ります。よろしいでしょう。私のほうで一筆書かせてもらいましょう。公式な手形の発行もいたします。何かあれば、その手形を見せ領主なり憲兵に言ってくだればこちらで対処いたします。これでよろしいですかな?」
「ご配慮、痛み入ります。お礼というわけではございませんが、皆様でお召し上がりください」
俺がそう言ってマーブルが缶詰を多めに出す。
きょとんとした侍従長たちの前で、缶切りで缶詰を開けガラスの器に出し小さいフォークも添える。最初に手を出したのは料理長。
「こ、これは、なんとも……」
恐る恐る、侍従長と侍女長が口をつける。
「なんと瑞々しい…」
「なんて至福の味…」
いい感じに驚いてくれている。もう一押ししてみるか。
「ちゃんと保管すれば数年の間、腐ることなく食べることができます」
「術式が掛かっているようには見えんが……」
「これ自体が魔道具なのでは?」
「いや、魔道具を使い封印したのでは?」
三人が顔を合わせひそひそと話をしている。
「これも譲っていただけるので?」
「ふにゃ……。これは……マーブルの……」
マーブルを睨んで黙らせる。
「もちろんお望みとあらば。今ある分は置いていきましょう」
「うにゃ……」
沙羅がよしよしとマーブルの頭を撫でて慰める。
「ですが、こちらは仕入れる数量に限りがございますので 今後は数量はこちらで決めさせていただきますのでご了承ください」
然もありなんと料理長が頷いている。そう思ってもらえるとありがたい。なんでも簡単に売ってしまうとありがたみがなくなる。マーブル商会の価値を上げなければならない。安売りしちゃ駄目なのだ。
支払いは本来なら商業ギルドを通して行うほうが楽なのだが、いかんせんマーブル商会はお金に余裕がない。すぐに使える現金が欲しいのだ。なので、お願いして、二回に分割して現金で払ってもらうことになった。
正直、品物を半分以上も納入していないのに払ってもらえるとは思わなかった。ありがたい。次回、来る時までに一筆頂いた書面と手形を用意しておくという。早めに来たほうがいいだろう。
「す、凄い大金にゃ。足が震えるにゃ」
マーブルの自由空間にあるので、周りから見ても大金を持っているとは見えない。しかし、実際に持ってる本人は気が気でないようだ。
せっかく王都に来たのだから買い物。魔術師ギルドで魔宝石を大人買い。王都でも有名な武器防具屋に来たが防具は目に留まるものが無かった。
前にも言われたが、防具はオーダーメイドが普通だ。既製品を使うのは中級までと笑われた。ちょっとカチンときたので店に飾ってあった理力を注ぐと炎を纏う剣と水を纏う剣を現金一括払いで買ってやった。ご主人は口をパクパクさせていたな。
さて、そんな剣だが実用的かどうか正直わからない。
炎の魔剣 品質 最良 斬撃特性+200 突き特性+250 打撃特性+150 理力特性+100 火炎属性+100 耐久2000/2000 灰神楽
水流の魔剣 品質 最良 斬撃特性+250 突き特性+200 打撃特性+150 理力特性+100 水湿属性+120 耐久2200/2200 斬れ味維持+100
浪漫武器だなんて思っていたが鑑定して驚き。とんでもなく高性能。これならインパクトが強いので貴子様に見せるにはちょうどいいだろう。炎の魔剣のほうがほんの僅か性能が落ちるが、灰神楽ってのが付いている、何だろう? マーブルに聞いてみる。
「おそらくにゃ、その剣固有の技だにゃ」
剣自体にアビリティが付いているようだ。
ついでに理力特性について聞くと、魔力特性なら知っていて、剣に魔力を流すと剣での物理ダメージに加え、魔力ダメージも与えるそうだ。物理攻撃の効きにくい敵や実体を持たない
いい買い物をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます